「三人っ子」政策の実現に必要な政策、それによってもうかる産業とは

吉田陽介    2021年6月18日(金) 16時40分

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中国の人口政策はこれまで「一人っ子」だったが、「二人っ子」に緩和された。資料写真。

中国の人口政策はこれまで「一人っ子」だったが、「二人っ子」に緩和された。この政策が始まった当初は、自分の子供はすでに大きくなっていて、きょうだいがいらないと考える親が少なくなかった。二人っ子の家庭をちらほら見るようになった。そんななか、中国はさらに人口抑制政策の緩和に踏み切った。

5月31日に開かれた中国共産党中央政治局会議は中国の人口政策の大きな転換を示す重要な会議だった。会議は、「出産政策をさらに最適化し、夫婦1組が3人目の子を出産できる政策と関連の支援措置を実施することは、中国の人口構造を改善し、人口の高齢化に積極的に対応する国家戦略を実施し、中国の人的資源が本来有する優位性を維持するのに有利である」と述べた。

中国政府が「三人っ子」への緩和に舵を切ったのは、現在の中国がこれまでの人口政策によって「少子高齢化」がますます進んだからだ。

もちろん、今の中国の若者が子供を欲しいとは思わないのは、厳しい政策があるからではない。高すぎる育児コストや、住宅や育児面でのプレッシャーが大きいこと、仕事と育児の両立が困難といった問題もある。

育児コストを例に挙げてみよう。子供にカネがかかるのは、万国共通の問題だ。中国では「子供は歩く紙幣破砕機のようだ」と言われる。つまり、育児には金がかかるので、不要となった紙をシュレッダーにかけるように、お金がどんどん消えていくという意味だ。

出生前検査から出産まで、子供が生まれてから学校に通うまで、子供の各段階でかかるコストは莫大なものだ。出生前から高校卒業までいくらかかるのか。少なくて70万元、多くて100万元以上かかる。これは中国のどの家庭にとっても小さくない支出だ。

ここで挙げたコストには一線都市・二線都市の高い住宅価格や医療などへの支出は含まれていない。これらの支出を加えたら、子育てコストはもっと膨れ上がる。

このことは、人々が「子供はいらない」と考える原因となっている。

ここに挙げた例は、現実問題が解決しなければ、「三人っ子への緩和」だけでは、人々は安心して子供を産むことができないことを意味する。中央電視台(中央テレビ局)の有名な司会者白岩松氏が言ったように、「今の大きな問題は子供が3人、4人いる家庭が少ないというのではなく、晩婚化・非婚化の流れのなかで、多くの人が1人も産みたくないと思っているのに、子供を3人、4人産む話をどうしてするのか」。

白氏が指摘するように、問題は子供の人数ではない。子供を育てる環境が整っているかどうかだ。私の周りの中国人で、「子供はいらない」と言う人は少なくない。私が勤務する大学のある教師は「妻も仕事が大変ですし、私も仕事をもっと頑張らなければならないので、今はいらないですね」と語った。前述のように、仕事と育児の両立は大きな問題だ。

■「三人っ子」政策の推進に必要な政策とは

今回の中央政治局会議で特に「関連の支援措置を実施する」と述べたことだ。これはかなり意味のある一言で、指導者層がすでに人々が子供を欲しいと思わない問題に気づいており、これらの問題を解决しようという中国政府の意欲がうかがえる。

周知のように、少子高齢化は中国だけでなく、日本、韓国、欧米諸国でもみられる問題だ。だが、そのなかで、多くの国は出生率向上のために、減税や社会福祉、就業支援など様々な措置を講じた。中国も出生率向上につながる政策を強化する必要がある。それには主に次の四つの措置をとる必要がある。

第一に、奨励金、育児手当、教育手当、税の減免といった子育て金銭的負担の軽減につながるサポートを行うという措置だ。北京のような大都市は物価や家賃が高いため、自分の家を持たない夫婦は自分たちの生活の維持に精一杯で、子供を産む、ましてや2人以上産みたいとは思わない。だから、子育てに関する経済的サポートは重要だ。

第二に、両親(特に母親)の仕事と家事の両立できるような環境をつくる措置だ。中国では、夫婦間の家事分担は当たり前のものとされており、どちらか時間的余裕のある方が家事をするのが一般的だ。例えば、学校に通う子供の送迎は夫婦の中で、仕事が忙しくない方がする。二人とも忙しいならば、祖父母に子育てを頼む。

だが、祖父母に頼めないなら、どうしても学校行事などに参加しなければならない時、どちらかが休暇を取るしかない。誰にも頼れることができない夫婦のために、産休・育休、臨時休暇、男性の育児休暇などを増やせば、彼らのプレッシャーは緩和される。

第三に、子供の入園・入学での問題を解消するため、就学前教育や義務教育段階のサービスを増やし、職場内の育児施設の設置などに力を入れるという措置だ。

改革開放前の中国は勤務先の企業や機関に幼稚園や学校があったため、送り迎えは楽だったし、職場の中で子供が宿題をしていても問題にされることはなかった。今は各職場には幼稚園などはなくなり、子供の入園先・入学先は自分で見つけるしかなかった。そのため、幼稚園をなかなか見つけることができない親も珍しくない。こうした問題を解決するには、上に述べた措置が必要だ。

第四に、住宅問題を抱えている人たちへのサービスを充実させるとともに、妊婦向けの保健サービスや母子保健サービスの充実、出産困難者への支援拡大などの措置だ。

また、一人の親でも子供を育てることができるような環境づくりも必要だ。日本は子供を安全に遊ばせることのできる場所やシ日本のショッピングセンターのトイレのように、子供が用を足しやすい、オムツを替えやすい場所があると、「ワンオペ育児」の親は助かる。

これらの措置は少子高齢化を経験した国が講じてきたもので、今後の中国の人口政策の方向性となるものだ。だが、中国の政策は自国の実情に合わせて打ち出すものなので、そのまま適用することはあり得ない。各地の発展段階を考慮しながら、このような措置を打ち出して行くのではないかと思う。

■「三人っ子」政策でもうかる産業とは

では、「三人っ子への緩和」でもうかるのはどんな産業だろうか。人々の消費の高度化するなかで、「三人っ子政策」の効果が現れてくれば、以下に挙げる四つの分野が今後発展の余地が大きいと私は考える。

第一に、ベビー用品・関連サービス分野だ。2人、3人産みたいと思っている家庭にとっては、母親の妊娠から出産、新生児の成長に至るまでの各段階で関連の商品とサービスの消費を刺激する。このことは、ベビー用品・関連産業の成長に有利だ。具体的には、妊娠期の衛生用品、妊娠期の医療・看護サービス、妊娠期の胎教サービス、ベビー服・ベビー食品、ベビー用看護グッズと関連サービス、ベビー向けのレジャー娯楽サービス、ベビー向けの写真撮影サービスなどの産業だ。

第二に、幼児教育関連産業だ。現在、中国の幼児教育資源の供給はなおも不足しているが、新生児の増加と保護者の教育熱の上昇は、幼児教育産業にビジネスチャンスをもたらす。

今、小さな子供向けの英語塾、絵画塾、バレエ教室、ピアノ教室などがあり、通わせる親も少なくない。上の子と下の子に平等に教育を受けさせたいというのは親の常だ。下に子供ができると、「上も習ったんだから、下にも習わせよう」と考える親は少なくないだろう。このことは中国の幼児教育産業にとって一つのチャンスだ。

現在、中国の民営幼稚園市場は非常に大きい。また業界の集中度も高くなく、有名ブランドのような影響力を持つ幼稚園の割合は比較的低く、民間資本は何らかの形で運営に関わることができる。もう一方で、オンライン教育プラットフォームは、ユーザーのニーズを満たすために、ユーザー層に合わせて幼児教育カリキュラムを設計することができる。

第三に、医療関連産業だ。親にとって最も心配なことは子供の病気だ。乳幼児の場合は特に心配だ。このことは、オンライン問診プラットフォーム、子供向けの医薬品、子供向けの医療機器の発展にもプラスとなろう。

また、妊婦の年齢の変化を考慮すると、2人または3人を出産する女性の多くが高齢妊婦であることはほぼ間違いない。こうした人々の現実的ニーズを満たすため、体外受精などの不妊治療、妊婦保護設備などの分野は一層の発展が期待される。

第四に、娯楽関連産業だ。子供が遊び好きなのは、今も昔も同じだ。知育玩具、アニメ・映画・テレビなどの幼児娯楽産業は発展を続けているが、子供のニーズも高くなっている。今は「宝宝巴士」など子供向けのゲームもあり、そこでピンインの練習、数の練習を遊びながらできる。今はスマホが発達しており、それに対応した子供向けゲームもどんどん出てくるだろう。「三人っ子」政策の定着によって、こうした産業は一層発展していくのではないかと思う。

「三人っ子」政策はまだ打ち出されたばかりで、中国の人口問題の解決、子供向け産業の発展などの面でどれだけ効果があるかはまだ未知数だ。「三人っ子」政策のニュースが流れたとき、私は大学の通勤バスの中でこのニュースを聞いたが、バスに乗っていたある教師は「いや〜、この歳で三人目なんか無理だ」と言っていた。現時点でこの政策の良し悪しを判断するのは時期尚早だ。

「二人っ子」政策の定着化によって、二人っ子の家が出てきたのと同じように、時間が経てば「三人っ子」の家もちらほら出てくるのではないかと私は思う。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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