<コラム・莫邦富の情報潮干狩り>中国:知的所有権保護の狭間で苦しむ未来の知的所有権大国

莫邦富    2021年3月19日(金) 14時40分

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国連の専門機関の一つである世界知的所有権機関が昨年9月2日、「グローバル・イノベーション・インデックス」の2020年の結果を発表した。写真は中国国家知識産権局。

国連の専門機関の一つである世界知的所有権機関(WIPO)が昨年9月2日、「グローバル・イノベーション・インデックス(GII;Global Innovation Index、以下GII)」の2020年の結果を発表した。GIIは07年から、WIPOが米コーネル大学とフランスの経営大学院インシアード(INSEAD)と共同で始めた調査で、世界131カ国・地域のイノベーション能力を分析し、「法規制」「人材・研究」「インフラ」「市場の成熟度」「企業の成熟度」「ナレッジやテクノロジーの産出」「クリエーティブの産出」という七つの評価観点から、80項目のデータを駆使して総合ランキングを編み出す。それが国のイノベーションを評価する最も権威ある指標の一つとなっている。

その総合ランキングのTOP20位までの顔ぶれはスイススウェーデン米国英国オランダデンマークフィンランドシンガポール、ドイツ、韓国、香港、フランス、イスラエル、中国、アイルランド、日本、カナダ、ルクセンブルク、オーストリア、ノルウェーとなっている。

スイスは10年連続でその1位を守り通している。「市場の成熟度」と「人材・研究」では6位とやや優位性が足りないが、「ナレッジやテクノロジー産出」で1位、「クリエーティブ産出」「企業の成熟度」で2位、「インフラ」で3位、四つの項目で上位に付け、その実力を余すところなく見せている。

一方、日本は19年の15位から20年の16位へと順位を一つ落とした。評価が比較的高かったのは「法規制」と「インフラ」で8位、「市場の成熟度」で9位、「企業の成熟度」で10位だが、「人材・研究」と「クリエーティブ産出」が24位で、大学や大学院の高等教育、イノベーションへの全体投資額などのインデックスはあまりにも低かったため、総合ランキングの順位後退を招いた。

日本のGII順位はこの調査が始まった07年当初は、上位3位を逃したものの、4位からスタートした。しかし、その後低下を続け、12年には25位にまで落ちた。そこから、回復に力を注いだため、少しずつスコアを取り戻していたが、18年から再び低下傾向に墜ちてしまった。

だから、日本のメディアや識者は日本の順位後退を問題にしており、「韓国や香港、中国より下位の日本の技術革新力、一体何が原因か」と原因究明に取り掛かっている。

14位の中国は、「2年連続でトップ15に入ったほか、総合ランキングで30位以内に入った唯一の中所得の国だ」と喜びを隠さない。

■特許出願における中国の勢い

報道によると、19年に中国が投入した研究開発(R&D)経費は2兆2100億元(約37兆円)に達し、12年の2.15倍となり、世界2位のR&D経費投入国となった。R&D経費が国内総生産(GDP)に占める比率は2.23%で、欧州連合(EU)の平均水準を上回った。R&D関連人員数も世界1位を維持し、世界最大規模の科学技術人材を擁している。

研究開発重視の姿勢が知的所有権保護の意識を大きく高め、特許、実用新案、意匠・商標、工業製品の外観デザインの申請件数なども上位に名前を連ねるようになった。

20年、世界の特許出願件数は4%増加し、出願件数は27万5900件に達し、過去最高件数を記録した。中国の特許出願件数は前年比で16.1%増加し、6万8720件で世界一をキープしている。その後に続くのは米国であり、特許出願件数は5万9230件に達している。日本、韓国、ドイツが3位、4位、5位だった。

こうしたデータは世界のイノベーション動向を反映しており、世界におけるアジアの国および地域のここ10年間の特許出願件数の割合は35.7%から53.7%に上昇した。1978年に「特許協力条約」が施行されてから、米国はずっと首位を維持していたが、2019年、中国は初めて米国を抜いて世界最大の特許出願件数国となった。

やや古いデータになるが、19年10月20日に開催された第31回上海市長国際企業家諮問会議において、世界知的所有権機関のフランシス・ガリ(Francis Gurry)事務局長はスピーチの中で、18年の世界の特許出願件数の約30%が中国からであり、世界の商標出願件数の2/3がアジアエリアからで、中国はその主要出願国であると言及した。その傾向はここ数年、全く変わっていない。

■商標登録で驚きの発見

長年、知的所有権に対する保護の低さが広く批判を受けてきた中国は近年、その意識が相当変わり、知的所有権の保護に以前と比べ、かなり力を入れるようになった。中国国内の展示会に海外の企業の名義またはブランドを使って商品を出展しようとしたとき、その海外企業またはブランド所持者の委任状の提出が求められる。外国企業の知的所有権が侵された場合の訴訟もようやく勝訴しやすくなった。

しかし、山積した知的所有権保護面の問題は一朝一夕で解消できるような問題ではない。この原稿を執筆するため、いろいろな資料を調べていたとき、偶然びっくりした発見があった。

私の名前である「莫邦富」はなんとすでに3年前の18年に中国で勝手に商標登録されていたのだ。

商標の区分を見ると、登録されたのは第20類(家具、プラスチック製品)と第25類(被服および履物)だが、いまやネットを通してもその商標は売買できるようになっている。取引価格も出ている。第25類は4万5000元(約75万円)、第20類は3万3750元(約56万円)となっている。

ほかのメディアに、私は当時の心境を書いた。

「私の名前なのに、私自分が使うには、百数十万円の対価を払わないといけないという苦々しい事実に、大きな驚きを覚えたと同時に、思わず苦笑いしてしまった。確かに以前の中国と比べ、ここ数年、知的所有権に対する中国国内の意識に大きな変化が起きている。しかし、王道を逸れて邪道に入っている現象も少なくはない。ときには、その取り組む姿勢とやり方はあまりにもいびつなものになっていると指摘せざるを得ない」

10年前、私は中国のSNSを始めたときも、ショッキングな体験をした。微博(ミニブログ)やメールアドレスなどのいずれも見知らぬ誰かに「搶注」(誰かに先に登録されてしまうこと)された。だから、私のSNSのアカウントには、自分の名前のローマ字表記のあとにアラビア数字をつけたタイプのものが多い。アカウントは誰かが先に登録したため、本人である私は逆に自分の名前でSNSを開設できなくなってしまうのだ。

弁護士の友人に確かめてみたら、中国で裁判を起こせば、先に登録された「莫邦富」という商標に対する承認は取り消されるはずだという回答が戻ってきた。しかし、裁判を起こすことは結構、ややこしい。果たして法的手段を取るべきなのか、最近、相当悩んでいる。

こうした悩みを量産せずに、より上位のGII総合ランキングを獲得するためには、中国はもっともっと知的所有権の保護意識と力度を高めるべきだ。

■筆者プロフィール:莫邦富

1953年、上海市生まれ。85年に来日。『蛇頭』、『「中国全省を読む」事典』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーに。そのほかにも『日中はなぜわかり合えないのか』、『これは私が愛した日本なのか』、『新華僑』、『鯛と羊』など著書多数。
知日派ジャーナリストとして、政治経済から社会文化にいたる幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭」といった新語を日本に定着させた。また日中企業やその製品、技術の海外進出・販売・ブランディング戦略、インバウンド事業に関して積極的にアドバイスを行っており、日中両国の経済交流や人的交流に精力的に取り組んでいる。
ダイヤモンド・オンラインにて「莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見」、時事通信社の時事速報にて「莫邦富の『以心伝心』講座」、日本経済新聞中文網にて「莫邦富的日本管窺」などのコラムを連載中。
シチズン時計株式会社顧問、西安市政府国際顧問などを務める。

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