<コラム>「春節だけど…」 重いムードが漂う香港

野上和月    2021年2月11日(木) 17時30分

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2月12日は、香港人にとって一年で一番重要な年中行事の春節(旧暦のお正月)だ。本来明るく賑やかに迎えるはずが、2021年は、「少しもお正月気分がわいてこない」という香港市民が少なくない。

2月12日は、香港人にとって一年で一番重要な年中行事の春節(旧暦のお正月)だ。本来明るく賑やかに迎えるはずが、2021年は、「少しもお正月気分がわいてこない」という香港市民が少なくない。新型コロナウイルス対策で集団行動が制限されていることや、牛年の景気や社会の先行きに不安を感じ、いつになく重いムードが漂っている。


正月料理の食材を選ぶ買い物客

香港では1月1日の西暦新年も祝うが、新年といえばやっぱり春節。春節を迎えて、牛年がスタートし、名実ともに2021年が始まる。いつもなら、春節が近づくと、商業ビルやオフィス、マンション、自宅などは、真っ赤な春節飾りで華やかになる。各地に花市がたち、正月飾りの花などを売る農家や新年にちなんだ商品を売る出店がひしめき、日本の縁日さながら盛り上がる。乾物屋街は正月料理の食材の買い出しにやってきた客でごった返すし、新年に合わせて日用品を買い替える客で消費も活発になる。


正月料理の食材を選ぶ買い物客

ところが、今年は事情が違う。街中の春節飾りは少なめだ。香港人の友人らは「飾りを見ても気分が追いついていかない」「買い物をする気にもならない」と、後ろ向きな声を口にする。


大幅値引きする衣料品店

いつもなら今ごろは、家族や友人らと集まって、レストランの円卓を囲んでワイワイ楽しんでいる。ところが、コロナ対策で今も、春節休暇中も、公共の場での集団行動は2人まで。レストランも1テーブル2人までだし、午後6時以降の店内飲食は禁止となっているため、例年のように年末年始を祝えないのだ。しかも最近は、中国本土と違ってなかなか鎮静化できない香港のコロナの状況について習近平国家主席から、「とても気に掛け、心配している」と言われた香港政府が、突如連日、新たに確認された感染者が住む住宅ビルごと封鎖して、全住民を強制的にウイルス検査するようになった。全員の検査結果が出るまでは外出できずに一夜を過ごすことになり、とても年の瀬とはいえないピリピリした空気も漂っているのだ。


花市で正月飾りの花きを売る店

花市は、すったもんだの末に開催されたが、「極度な密」を避けるため、花卉店以外は出店を禁じられた。このため、いつもは歩くのがやっとの花市会場は、ガランとしている。乾物屋街も、中国本土の買い物客が来ないし、地元客も目当ての商品を買ったらさっさと帰ってしまうため、例年のような売り上げは期待できないという。衣料品店も、店頭にかかげた大幅割引セールの巨大看板が、却って店の苦戦ぶりを告げている。


花市で正月飾りの花を選ぶ買い物客

暗いムードは年の瀬だけではない。春節のイベントも中止や変更が相次いでいる。恒例の花火大会は中止。願い事がかなう木があることで人気の郊外の村は、春節期間中のイベントを中止し、外部からの入村をお断りにした。

参拝客でにぎわう「黄大仙」は、元旦午前0時の開門を、開園99年にして初めて取りやめることにした。香港には、「頭炷香」といって、年が明けた午前0時に、誰よりも先に本堂にお香を供えれば、香港で最もご利益を得られると言う信仰がある。このため、毎年、開門とともに太くて長い線香を手にした市民が先を争って本堂に向かい、願い事をするのだ。その様子は毎年テレビで放送される元旦の風物詩でもある。寺側は代替措置として、午前0時直前に祈祷する様子をネットで流すので市民はそれを見ながら自宅で祈ってというが、信心深い市民は「効果はあるのか」と嘆く。


オフィスビルの正月飾り

春節休暇中について香港人の友人は、「親戚の家に挨拶周りに行くぐらい。それ以外は家でおとなしくしている」とぼやくように、公共の場で新春ムードを感じ、大勢で集まって笑顔になれるイベントが見つからない。それどころか、新たな1年も、反体制活動を取り締まる「国家安全維持法」をベースに社会が大きく変化しそうだし、新型コロナによる規制がいつまで続くのか、経済は悪化するんじゃないか、など社会や景気の先行きに不安を感じる市民が少なくない。


ペニンシュラホテルの正月飾り

「黄大仙」と並んで香港人が多く参拝する「車公廟」では、毎年正月二日に、政治家が香港の一年を占っておみくじを引く。2003年に「凶」が出て、その後SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したことは市民の間で今も鮮明に記憶されている。牛年の一年が果たしてどんな年になるのか。いつになく暗いムードで迎える春節だけに、例年以上に多くの香港市民がこの占いによる神のお告げに関心を寄せることだろう。(了)

■筆者プロフィール:野上和月

1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。

ブログ:香港時間
インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89

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