<直言!日本と世界の未来>人類共通の敵「コロナ」に打ち勝つために―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2021年1月17日(日) 7時20分

拡大

新型コロナ感染症は国をまたぐ複雑な問題であり、孤立主義的な政策を取るのではなく、積極的に多国間協力を模索し、協調して収束させなければならない。写真は東京・銀座。

新型コロナウイルスの蔓延により日本と世界にとって厳しい状況が続いている。多くの人命を奪い、経済社会活動を破壊、もともと脆弱だった世界システムにさらなる試練を与えた。この人類共通の早期収束を祈念したい。

厳冬期に入り北半球で再び新型コロナ感染が拡大した。英国をはじめ欧州各国は厳しいロックダウンを実施した。日本でも昨年春以来の緊急事態宣言が発出され、観光需要喚起策「GoToトラベル」事業の一時停止や、飲食店への営業時間の短縮要請などに追い込まれた。コロナ禍の経済への影響は、業種や地域、雇用形態などでばらつきが多く、格差を生じやすい。

政府は首都圏の1都3県の知事の要請を受けて緊急事態宣言を発出したが、その後1週間もたたないうちに、対象地域を大阪、愛知、福岡など7府県に拡大。合計11都府県となったが、個別に県や市が同様の緊急事態宣言を打ち出した。この種の緊急事態宣言は一気に思い切った措置を発表し、国民に強いインパクトを与えるべきだが、「五月雨(さみだれ)」式に小出しするのは効果的とは言えない。新型コロナウイルスの感染が急拡大し、医療提供体制の逼迫に危機感を募らせた自治体の要請に押されてのことであり、場当たり的との印象は否めない。

菅政権はこれまで、感染防止と経済活動の両立に腐心してきた。「GoToトラベル」事業の全国一斉停止に二の足を踏んだのもそのためだろう。全国的に感染が広がるなか、宣言の対象を絞り、対策を感染リスクが高いとされる飲食店の時短強化に集中させたのも、経済への悪影響をできるだけ避けたいという考え故と理解できる。しかし、今は感染の抑止に明確に軸足を移す局面であり、中途半端な対応では、国民に危機感は伝わらないと思う。

少子高齢化や潜在成長率の低下などにより経済が低迷している日本の経済再生には、単に「コロナ前」に戻すだけではなく、デジタル化や雇用市場の改革など新たな経済・社会を切り開く戦略が必要である。産業構造の改革の遅れなどもコロナ禍で顕在化した。世界全体を見渡しても、米国と中国の対立、貧富の格差拡大、グローバル化の弊害など、かねて取りざたされていた問題が浮き彫りになった。

 

一足早く宣言を出した首都圏では、人出が多少減っているものの、昨春の宣言時のような大幅な減少には至っていないという。国民の間に緊張感が浸透していないのではないか。新年に入ってからの感染急増の原因については、諸説あり、年末年始の帰省やその際の飲食だけでは説明できないとの見方もある。最悪の事態も想定し、早めに手を打つことが、政府と自治体の責務と考える。

希望はコロナワクチンの開発が世界で急速に進んでいること。欧米では接種も始まった。日本でも米製薬大手ファイザーが承認を申請した。中国でも、国有製薬大手、中国医薬集団(シノファーム)傘下企業が開発した新型コロナウイルス不活化ワクチンを同国政府が承認。春節(今年は2月12日~)までに、医療従事者やライフライン労働者など9種類の重点グループへの緊急接種を完了する予定という。すでに東南アジア、中南米、アフリカ、中東諸国などへのワクチン供与もスタートした。

新型コロナ感染症は国をまたぐ複雑な問題であり、孤立主義的な政策を取るのではなく、積極的に多国間協力を模索し、協調して収束させなければならない。米国はトランプ政権の誤った対策のために痛ましい代償を払っている。これに対し中国、台湾、シンガポールなど感染症を封じ込めているアジア諸国は21年に経済が急速に回復し、世界経済の成長を下支えすると期待している。

<直言篇146>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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