<羅針盤>京の師走の風物詩「顔見世興行」に思う=コロナ対策に敬意―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年12月27日(日) 8時10分

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今年は新型コロナウイルスの直撃を受けて、京都でも伝統的な行事が中止や縮小を余儀なくされた。京の師走の風物詩「顔見世興行」が関係者の努力で開催されたのはうれしい出来事だった。

京都で育った私は、京の町並みや風情に温かさを感じる。近代的な建物が増えたが、超高層ビルはほとんどない。山の緑や川面のせせらぎの中、広がる瓦屋根の民家の風景に、やすらぎを憶える。京都はお寺が多い。そのためか四季を愛でることがたやすくできるのが都会人にとってはうらやましい限りである。

1月は初詣、2月は節分、天神の梅花祭、3月は涅槃会、4月は都をどり、5月は葵祭、7月は祇園祭、8月は大文字、10月は時代祭、12月は顔見世で始まり、最後は大晦日(31日)のお寺参りで新しい年を迎える。まさに文化の凝縮した町なのである。

ところが、今年は新型コロナウイルスの直撃を受けて、伝統的な行事が中止や縮小を余儀なくされた。

新型コロナウイルスは疫病の一種。京都もこの流行病に脅かされてきた。7月の祇園祭は平安時代の869年に疫病退散を祈った祇園御霊会が起源とされる。京都三大祭りの一つで、ハイライトとなる山鉾巡行には例年多くの観光客が訪れるが、今年は中止された。巡行中止は、1962年に阪急電鉄の工事の影響で中止して以来、58年ぶりという。

通常なら一段と華やかさを増すのが師走の12月。その最大行事が、わが国最古の劇場・南座で行われるのが「吉例顔見世興行」。筆者も毎年のように出かけていた。

今年は新型コロナウイルスの影響で開催が心配されていたが、例年の昼夜2部制から3部制に変えるなど、入念な感染予防策を講じたうえで開催された。公演時間も各部2時間ほどに抑えて観客の滞在時間を短くした。公演期間も12月5~19日と短縮された。コロナ禍で公演中止が続いていた南座で、芝居が上演されるのは今年2月以来、10カ月ぶりという。

片岡仁左衛門(人間国宝)ら錚々たる人気役者が出演したが、ほとんどの役者は1演目のみの出演にとどめたという。部ごとに観客だけでなく出演者や楽屋スタッフも入れ替え、場内の消毒を施したというから、劇場関係者の努力に敬意を表したい。

有数の観光地を抱える京都には毎年8500万人前後の観光客が訪れ、日本人を含む観光客が市内で支払った宿泊代や飲食費などの「観光消費額」は2018年には約1兆3000億円以上に達した。コロナ禍で訪日客や県外客は激減し、ホテル旅館や土産、飲食店は大きなダメージに見舞われている。

来年はコロナ禍が収束し、激減した内外の観光客が戻ることを切望したい。四季折々におりなす文化をいつまでも抱擁する京都であってほしいものである。

<羅針盤篇61>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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