<コラム>KOCとは何か?「完美日記」に見る成功例、進化する中国のオンラインマーケティング

高野悠介    2020年12月29日(火) 20時50分

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広告業界の専門サイト青瓜伝媒は、2021年の「電子商務市場趨勢予測」を発表した。ネット通販界の今後を論じたレポートだが、その中に、KOL営業からKOC営業への変化、という項目がある。写真は完美日記。

広告業界の専門サイト「青瓜伝媒」は、2021年の「電子商務市場趨勢予測」を発表した。ネット通販界の今後を論じたレポートだが、その中に、KOL営業からKOC営業への変化、という項目がある。あまり聞きなれないKOCとは、一体何のことだろうか。

■KOCとは何か

KOC(Key Opinion Consumer)とは、 KOL(Key Opinion Leader)に対置する概念である。

KOLとは、もともと製薬業界で薬の採用に影響力を持つ、有力な医師を指した。それが中華圏において、ライブコマースの発展とともに、あらゆる産業分野へ拡大した。2020年は、そのライブコマースの爆発した年だった。トップKOLはそのビジネスモデルの花形である。2020年の双11(11月11日独身の日セール)でも主役を張った。

現在は、管理強化政策が発動され、著名KOLの誇大広告がやり玉に上がるなど、急成長の反動から逆風が吹き始めた。これもKOCが注目される理由の1つかも知れない。

KOCとは、影響力のある意見を持つ友人、ファン、消費者らを指す。KOLに比べれば影響力は限られる。特徴は専門性が高いこと、コストのかからないことだ。KOC自身、消費者であり、制作コンテンツは、実体験の範囲にとどまる。しかし多くのKOCは、SNSの「微博」「微信」、短視頻の「抖音」や「快手」、複合アプリ「小紅書」動画視聴アプリ「bilibili」などへの投稿で、一定のファン、影響力、信頼関係を持っている。KOCの立ち位置は、KOLと一般大衆との間だろう。

■メディアの考える2021年のKOC

青瓜伝媒は、KOCブームを次のように分析している。

まずKOLに対する不信だ。ブランド企業から“後援”を受けているため、彼らの発する情報はストレートに信用できない。もともと中国社会は、信頼するのはまず身内で、その意見は大きな影響力を持つ。KOCには、公正な目線での商品レビューが期待でき、信頼を寄せるKOCは、オンライン上の身内といってよい。

例えば新しい母親は、ベビー用品を選ぶとき、両親、友人や、他の経験者にアドバイスを求める。さらに意見がほしいとき、KOCの動画やコメントを参考にする。KOCとその所属コミュニティは、こうして消費者の日常に寄り添い、その需要はますます高まっている。成功例は「完美日記」である。

■完美日記(Perfect Diary)とは

完美日記は、広州逸仙電子商務公司(2016年設立)のコスメティックスブランド名である。創業者の黄錦峰氏はハーバード大学出身、P&Gに籍をおいていたエリートだ。

2017年3月、アリババに天猫旗艦店を出店、9月、小紅書に公式アカウント開設した。

2018年を通して、小紅書、WeChatを中心にプロモーションを展開“国産コスメブーム”を演出。

2019年1月、広州市に初のオフライン店舗出店。11月、双11(11月11日独身の日セール)売り上げ1億元(15億1000万円)突破、海外ブランド抑えコスメ部門の売り上げトップに。

黄錦峰氏は資金調達にも辣腕をふるい、短期間に国産コスメブランドの象徴に成長した。そして2020年11月20日、広州逸仙は、ニューヨーク市場への上場を果たす。設立わずか4年後だった。

■完美日記の戦略「小紅書」

急成長の秘訣は、ダイレクト消費者にコミュニケーションをとる手法、DTC(Direct To Consumer)にある。「小紅書」はその中心プラットフォームだ。直近のレポートによれば、女性ユーザー比率88.4%、90后以降の若者比率は70%である。

完美日記の小紅書におけるマーケティングでは、3段階を経て、コミュニティの拡大と再生産を目指す。

1.大スターの投入により、消費者の関心を引き、製品に関する討論を起こす。

2.トップ、ミドルのKOLを中心に、試塗りや他色との比較など、実際の色彩感を紹介し、購買に結び付ける。

3.購入後、小紅書に製品使用体験をアップしてもらい、洗練された2次コミュニティを形成する。

そして完美日記の考える最適な構成とは、1は1人または2人、2は50~100人、3は200~300人という。KOCは3に相当し、コミュニティ拡大再生産の要である。

■完美日記の戦略「bilibili」

bilibiliはACG(Animation Comic Game)コンテンツの供給からスタートした。現在は作品の制作、クリエーターの育成に力を入れ、高品質コンテンツのエコシステムを構築しつつある。7000を超えるサークルで、多文化コミュニティを形成している。ユーザーの81.7%が1990~2009年生まれ、そして50%が北京、上海、広州など大都市の大学生、中高生である。

bilibiliの美容コミュニティには、数万~数十万のファンをもつUP主(アップローダー)が多数存在する。学生にシェアしてもらうことに喜びを感じる人も多い。完美日記は、このポイントをよく押さえ、セグメント化し、コミュニティを効率運営している。現在1000以上の完美日記の関連コミュニティがあり、KOCとして、ビューティーコンサルタントの役割を担っている。

■ネット流行語“種草”とは

中国ネット界では“種草”というネット用語が流行している。草を植える意味だが、ここでは、特定の製品を推奨して、シェアし、他人の購入意欲を刺激することだ。若者向けの視覚的な比喩として、世相にフィット、定着した。こうしたKOCや“種草”文化形成の中心に位置したのが、完美日記、小紅書、bilibiliらであろう。

2021年は、ますますKOCと“種草”に注目が集まりそうだ。2016年以降、中国のオンラインマーケティングは、細分化、精緻化する一方だが、特にここ1~2年の変化は、眼にも止まらぬスピードだった。しかし2021年は、当局の姿勢次第だが、ブレーキがかかることも考えられる。不確定要素が加わり、ますます、先が読めなくなった。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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