大串 富史 2020年12月26日(土) 10時20分
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僕らの「草の根電気自動車」、つまりなんちゃって軽EV。車検も保険も必要なく、なんちゃってハイブリッド走行時の「1kmあたりの走行コストは日本円約2.8円」であるが、難点も少なくない。
最近、「次世代中国 テスラを抜いた『中国版軽自動車』~電気自動車に『ついに波が来た』か | nec wisdom」という記事をたまたま読んでしまい、ほんの少し悩み中である。
一体何を悩んでいるのか。それは、「草の根電気自動車」がいいのか、それとも「中国版電気軽自動車」がいいのか、僕らは結局どちらにするのか、悩み中である。
では、ここで言う「草の根電気自動車」および「中国版電気軽自動車」とは何か。
ごくごく簡単に言ってしまうと、「草の根電気自動車」というのは屋根(ルーフ)付き電動四輪バイクのことで、「中国版電気軽自動車」というのは軽EVすなわち日本の軽自動車に匹敵する電気自動車のことである。
詳しくは先に引用した田中信彦氏の記事と共に、同氏の「次世代中国 『草の根電気自動車』は飛躍できるか~農村から起きる『1マイル革命』 | nec wisdom」という記事をご参照いただきたい。
既にご存知の方も多かろうが、日本の軽EVは今まさに開発中である。だが先に引用した記事によれば、中国の軽EVつまりK-Carは今まさに爆発的に売れている。
「中国の中堅自動車メーカー、上汽通用五菱汽車が今年7月に発売した小型の電気自動車『宏光MINI EV』が爆発的に売れ、業界の注目を集めている。ベースグレードの価格が2万8800元と日本円で50万円を切る価格が大きな反響を呼んだ」。これは正直、在中日本人の一人として非常に悩ましい。
というのも僕らは既に「草の根電気自動車」、つまりなんちゃって軽EVに乗っているからだ。
僕は前に、中国に戻ってから電動バイク(フル電動自転車)を2800元(4万5000円弱)で購入した、とコラムに書いた。この電動バイクは公称では1回の充電で80キロ前後の走行が可能で、大型スクーターのような乗り心地もあり、最初は快適この上なかった。
だがその後、拠所ない事情が生じ隣町に引っ越したため、別の「足」が必要になった。
なぜなら50キロ先の農村に住む中国人の妻の両親(その頃は二人とも健在だった)のところに定期的に通うのに電動バイクでは距離的にギリギリアウトだし(買ったばかりで平坦な道を1人乗りなら別だろうが、山道を2人もしくは3人乗りだから途中で力尽きてしまう)、それ以前に危な過ぎる。隣町なのでバスの乗り継ぎもかなり不便になってしまった。
それで中国に戻ってきた当初は却下した「草の根電気自動車」について再び悩んだ末、最終的に1万3000元(20万円前後)の「草の根電気自動車」を購入し、隔週で農村まで行き来をし、2年経った今もかなり重宝している。
えーと、50キロ往復って合計100キロじゃないですか?バッテリー大丈夫なんですか?と思われるかもしれない。大丈夫、この屋根付きの電動四輪バイクは中国語で言うところの油電両用、つまりハイブリット電動四輪バイクだからだ。
もちろん普通の意味でのハイブリットではないのだが、発動機でモーターに給電できるため、理論的にはガスリンスタンドで都度ガソリンを給油し給電しさえすれば、ノンストップでどこまででも走れるというスグレモノだ。
「じゃ、それでいいじゃない?このうえ一体何をお望み?」と仰られるだろう。実のところ、中国の「草の根電気自動車」には難点が少なくないのである。
とはいえまずは、「草の根電気自動車」の利点を強調したい。
利点-価格:「草の根電気自動車」と「中国版電気軽自動車」の大きな違いは、その価格にある。20万円と50万円だから、大雑把な言い方だが価格が倍違う。
長期的に見た「価格」つまりガソリン代や維持費も、ごくごく大雑把だが倍以上の開きがある。「草の根電気自動車」の場合、後で述べる通り維持費がそこそこかかるほかは、車検も保険も必要ない(メンテナンスや自賠責は任意)。
ではガソリン代はどうか。先に紹介した記事にも「1kmあたりの走行コストは日本円約0.8円」とある。「草の根電気自動車」は、燃費が半端ないのである。
たとえば僕らの「草の根電気自動車」の場合、農村へ往復100キロ走行に必要なガソリンは2リットル少しつまり12元(約200円)そこらだから、なんちゃってハイブリッド走行時であっても「1kmあたりの走行コストは日本円約2.8円」である。
だから利点だけを見た場合、「草の根電気自動車」を「中国版電気軽自動車」にわざわざ買い替える理由は正直何もない。
それでは「草の根電気自動車」の難点とは何か。
難点その1-性能:「草の根電気自動車」と「中国版電気軽自動車」には、ごくごく大雑把に言って性能に倍の開きがある。端的、肝心かなめの時に動かなかったりバッテリー切れということが度々ある。
そんな時に途方に暮れた中国人の妻から「だから一分銭一分貨(安物買いの銭失い)はしないでって、いつも言ってるじゃない!」と言われてしまうから、「中国版電気軽自動車」が正解なのではと思わないでもない。
ではなぜ動かなかったり、バッテリー切れしたりするのか。
「発動機でモーターに給電できる」ものの、発動機でバッテリーそのものを充電することができない(それができると容易に過充電となり危険である)ため、ハイブリッド走行時であってもバッテリーの電力が徐々に失われるからだ。
つまり「理論的にはガソリンスタンドで都度ガソリンを給油し給電しさえすればノンストップでどこまででも走れる」というのは、買ったばかりで平坦な道を1人乗りで荷物なしなら、という話に過ぎない。
実際はバッテリー切れが近づくにつれ速度が著しく低下し、バッテリーが切れると発動機をいくら回しても動かなくなる。フル充電状態でかつ発動機をいつも最高のコンディションに保っておかないと、バッテリー切れであっという間に動かなくなってしまうのだ。
結論として家族3人プラス荷物を乗せた場合、(農村に着いたら農村で充電して帰宅する)今の50キロ往復のミッションがどうやらマックスのようである。それ以上の走行距離のミッションは、正直怖くてできない。
さらに性能の難点をあと3つだけ挙げるとすれば、騒音・サスペンション・スピードが、なんだかなである。
騒音はトラクターつまり耕運機と同じである。しかも発動機のコンディションを極限まで上げてあるから、農村育ちで耕運機に慣れっこな僕の中国人の妻でさえ、走り始めの爆音を聞いて思わず「これ危ないんじゃない?」と日本語でのたまう。
サスペンションつまりバネまたはクッションは、ほぼないに等しい(サスペンションのあるタイプのものは倍の値段する)。だからかなり気を遣って運転しても、道路に段差等があれば相応の衝撃がある。
スピードは最高速度が60キロ程度で加速もそれなりだから、山道を上ったり下ったり段差の前で減速したり再加速したりしていると、50キロ先の農村まで結局1時間半かかったりする。
本当はボディーの材料や塗装の質とか、暖房も冷房もないとか、大雨の時は雨漏りする(!)ことについても述べたいのだが、きりがないのでやめておく。
難点その2-寿命:「草の根電気自動車」と「中国版電気軽自動車」には、ごくごく大雑把に言って寿命に倍の開きがある。もっとも6年後には家族を連れ帰国予定の僕的には、寿命が長過ぎてももったいないだけなのだが。
買ったばかりの時、僕らはこの「草の根電気自動車」の寿命を8年から10年つまり日本に帰国するまでと踏んでいたのだが、買って2年後の今となっては何とも言えない。
というのも、普段乗りプラス月2回平均で往復100キロを実際に2年間走ってみて改めて思うに、僕らの「草の根電気自動車」のこの乗り方は、他の中国の人が乗っている(またはメーカーが想定している)本来の乗り方を大幅に上回っている。
結果としてバッテリーの全交換(1400元=約2万3000円)やら発動機の交換(1200元=約2万円)やらの維持費に、2年間で合計5万円(3000元)ぐらい使っている。
これは日本円にすれば安いのだが、物価が日本より安い中国では、3年前に買ってまだ使っている大型の電動バイクがもう一台買えてしまうお値段なのだ。
それだけではない。2年間で5万円かかったのだから、あと6年間で3倍の15万円かかるだろう。僕らの「草の根電気自動車」は20万円前後だから、帰国前に維持費で「草の根電気自動車」がもう一台買えてしまう。
いやそれ以前に、こんな強引な乗り方をしている僕らの「草の根電気自動車」の寿命は一体いつなのか。
難点その3-免許:現時点で「草の根電気自動車」に免許は不要である。とはいえ将来的には必要になるという話も既にあり、その辺も絡めて法規制がどんどん迫りつつある。
つい数か月前には、一般の電動バイクへの無料ナンバープレート交付があった。地元の中国人の友人によると将来的には徴税(ナンバープレートの有料化等)を視野に入れているらしいが、なぜか「草の根電気自動車」はいまだナンバープレートが不要で、このお国は「草の根電気自動車」を一体どうするつもりなのだろう???と戦々恐々である。
だがもっと根本的な問題は、僕自身の日本の自動車免許の更新が来年秋に迫っていることだ。
中国のような非欧米圏に在住の日本人の方ならお分かりだろうが、こういう場合に一番手っ取り早いのは、現地でペーパーテストと引き換えに外国免許を取得し、帰国後にこの外国免許で日本の免許を取り直すという手法だ。
だからもし来年に中国の自動車運転免許を取得し、法規制により「草の根電気自動車」の利便性が減少し、かつ僕らの「草の根電気自動車」の寿命が尽きてしまった場合、免許の切替よろしく「中国版電気軽自動車」に切替ということもあり得る。
とはいえ、僕らはやっぱり「草の根電気自動車」にこのまま乗り続けることになるのでは…という予感もある。
なぜなら「草の根電気自動車」による僕らのミッションは、既に目標を半ば達成したからだ。
4カ月ほど前、農村の父(僕の中国人の妻の父)が亡くなった。一時は肺炎にかかり皆で心配したものの回復し、数十年来のタバコもやめ、普通の生活に戻ってからのぽっくりだった。
その前には、僕の妻の2番目の姉がガンで逝った。「草の根電気自動車」を買って間もないころで、ガンと闘う姉のところに足繁く通うのに、「草の根電気自動車」は本当に重宝だった。
幸い、農村の母は健在である。この母のために、僕らの「草の根電気自動車」がある。
ちなみにこの「草の根電気自動車」の中国語の正式名称は、「老人代歩車」という。歩行さえ以前のようにはいかない(父)母のため、僕らはこの「老人代歩車」に乗っているのである。
今年の冬はこの「草の根電気自動車」で農村まで出向き、やもめとなった80近い母を連れ帰り、せめて2、3カ月だけでも我が家で寝泊まりしてもらおうと夫婦で話している。
僕らの「草の根電気自動車」がもうひと頑張りして、安らかにミッションを終えてくれるよう願わずにはいられない。
■筆者プロフィール:大串 富史
本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。関連サイト「長城中国語」はこちら
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