<直言!日本と世界の未来>日中韓豪ASEAN加盟のRCEPに期待―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年12月13日(日) 10時30分

拡大

日中韓豪やASEAN諸国など15カ国が加盟する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が締結された。世界最大の自由貿易協定で、関税の引き下げなどにより、各国経済力の増強につながる。

日中韓豪や東南アジア諸国(ASEAN)など15カ国が加盟する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が締結された。世界最大の自由貿易協定(FTA)で、関税の引き下げや貿易投資ルールの改善により、経済力の著しい増強につながり、人口減少と低潜在成長率に直面する日本にとっても大きな利点が期待される。

日本はこれまで、隣国かつ大きな貿易投資相手の中国、韓国との間で自由貿易協定(FTA)を結んでこなかった。領土や歴史の問題で関係が不安定になりがちな両国を含む協定に締結したことは、意義深い。

特に最大の貿易投資相手である中国との間で高関税が課せられていただけに、関税引き下げの効果は大きい。米国を意識して中国との二国間協定交渉を避けてきた日本には、ASEANなどとの多国間協定は“渡りに船”だった。

RCEPは貿易額とも世界の約3割を占める世界最大のFTA。中国はズバ抜けて大きく、ほぼすべての加盟国にとって最大の貿易相手である。10~60%課せられている関税が徐々にゼロ~数%に縮小し、加盟国にとって対中輸出が増えるメリットは甚大だ。日本はじめ加盟各国の産業界はこぞって歓迎している。

中国依存をさらに加速させる要因になりそうなのは自由貿易圏の拡大。米シンクタンクによると、RCEPの関税削減の効果で世界の輸出額は2030年に今より約5千億ドル増える。その半分の2480億ドルは中国が得ることになるという。RCEPに加わらないインドや台湾から輸出の需要を奪う。今年の経済成長率の見通しは、コロナ感染からいち早く脱した中国だけがプラス成長を確保する。マイナス成長の各国は対中輸出に頼らざるを得ない。

ASEANは長期化する交渉に不満を抱き合意を促した。日本がインド離脱のままでRCEPの合意に応じたのは、交渉合意を先送りすればアジアでのプレゼンスが縮小し、孤立するおそれがあったためである。2000年に日本の4分の1にすぎなかった中国の経済規模は、いまや約3倍に拡大。国際通貨基金(IMF)など国際機関の予測では数年後には米国を追い抜くとされる。日本が経済力を維持する上で、中韓やASEANとの関係は重要度を増している。

RCEPは、先進国を中心とする環太平洋経済連携協定(TPP)と比べ、関税の撤廃率やルールの水準が低い。最大の理由は経済発展のレベルの違いとされる。加盟国の1人あたりGDPでみると、RCEP加盟国はTPP加盟国の約半分にすぎず、産業の競争力が低い国々に市場開放を迫るのは限界があるという。

こうした中、中国・習近平主席がTPPへの加盟を検討すると11月下旬に突如表明したことに驚いた。TPP加盟には電子データの扱いや国有企業など中国共産党の統治体制にかかわる課題に対応する必要があり、中国加盟のハードルは高い。現時点では、米中対立が強まるなかで多国間協調をアピールする意味合いが大きいとみられる。中国はTPPから離脱した米国の政権交代を前に、アジア太平洋地域の主導権争いで優位に立とうとの思惑がありそうだが、そもそも参加の要件を満たせるのか。ただ、ルールを例外なく守るのであれば歓迎すべきである。

日本は米国が離脱した後のTPPを11カ国でまとめ、欧州連合(EU)や英国とも協定を結んだ。バイデン政権の発足を機に米国にTPP復帰を呼びかけたいところだが、新政権は内政問題に注力され、早期のTPP参入は期待できない。

日本の貿易総額に占めるFTAのカバー率は、RCEPの署名で8割近くに達する。一方でデジタルや人工知能(AI)、気候変動など既存の協定で対応しきれない分野が増えている。ルールの構築や更新により力を注ぐときだ。アジアで圧倒的な経済規模を持つ中国に向き合うとき、多国間の枠組みで関与することの重みは増している。

18年末にスタートしたTPPの加盟国の拡大は、確かに重要な課題で、米国への働きかけも強めてほしい。バイデン次期政権が掲げる産業・通商政策の中には、保護主義的な色合いの濃い施策も目立ち、TPPへの復帰にも、いまは慎重とされ、時間がかかりそうだ。米中が加盟するメガFTAは夢のような世界だが、是非実現させたい。

<直言篇143>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携