テンセントが東アジアEコマース界を支配、出資企業の拼多多、Shopeeがアリババを駆逐へ

高野悠介    2021年4月12日(月) 9時0分

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テンセントの小売事業がすこぶる元気だ。とはいっても、直接乗り出しているわけではなく、出資企業が絶好調なのである。

テンセントの小売事業がすこぶる元気だ。とはいっても、直接乗り出しているわけではなく、出資企業が絶好調なのである。テンセントは、2018年の組織変更によりB2Bシフトを鮮明にした。そして小売企業のスマート化を目指す新組織「智慧零售戦略合作部」を立ち上げた。その効果か、出資したB2C型企業の業績向上は著しい。一部のグループ企業は、ライバルのアリババにハードパンチを浴びせ始めた。世界を巻き込む地殻変動が起きているようにも見える。最新情勢の分析から、近未来を見通してみよう。

■投資機構テンセント

テンセントはただの事業会社ではなく、中国で最有力の投資機構の1つでもある。投資先企業は国内外1000社以上に及び、その中には、上場企業約100社、ユニコーン企業約100社を含む。2020年には、上場企業分の含み益だけで1200億ドル(13兆円)に達したという。

出資企業は多方面にわたるが、小売企業に限っても、総合通販「拼多多」、「京東」、女性向け通販「蘑菇街」、アウトレット通販「唯品会」生活総合サービス「美団」、生鮮通販「毎日優鮮」シンガポールのネット通販「Shopee」などの有力企業がある。また、ショートビデオ大手「快手」のライブコマースも好調だ。2021年3月には、楽天にも出資した。こうして見ると、東アジアのEC上位企業は、アマゾン、アリババを除けば、ほとんどテンセント系である。実際にいくつかのシチュエーションでは、アリババより優位に立ち始めた。

■国内ECビジネス…拼多多、京東、美団が注目集める

テンセントの微信支付(WeChat Pay)の画面には「拼多多」「京東優選」「美団外売」「蘑菇街女装」「唯品会特売」のアイコンがずらりと並ぶ。11億人が利用するスーパーアプリのポータルを飾る。コンシューマービジネスにとって、最高のロケーションである。

「拼多多」はSNS・微信の力を存分に利用した共同購入サイトを構築し、地方都市の市場を開拓した。2020年のアクティブユーザー数は7億8840万人、アリババを940万人上回り、衝撃を与えた。

「京東」は、京東本体の香港W上場、子会社・京東健康、京東物流の新規上場を成功させた。Fintechの京東数科は、アント・グループ上場延期の余波を受け仕切り直しになっているが、いずれの会社も評価は高い。このうち京東健康は、GMV(流通総額)では、はるか上の阿里健康を、時価総額で上回った。

「美団」は、シェアサイクル、配車アプリ、口コミサイト、旅行・ホテルなど多彩なサービスを展開している。看板事業のフード・デリバリーでは、アリババ系「餓了蘑」を大きく引き離した。アリババにとって目の上のたん瘤のような存在である。

■東南アジア…系列のShopeeが時価総額トップへ

東南アジアのEC界も、アリババVSテンセントの代理戦争が鮮明だ。共にシンガポール本社のLazadaとShopeeである。

Lazadaは2011年、シンガポールでドイツのインキュベーターにより設立された。2016年、アリババが出資し、経営権を握った。

Shopeeは2015年、やはりシンガポールでSea Groupが立ち上げた。Sea Groupの元は天津出身の李小冬(フォレスト・リー)が2009年設立したゲーム会社である。現在ではゲームのGarena、ネット金融のSeaMoney、EコマースのShopeeを運営する巨大グループに成長した。

テンセントは当初のゲーム会社つながり時代からSea Groupを支え、今では発行済み株式の39.8%を持つ筆頭株主だ。Shopeeの株価は2020年を通じて4倍以上に上昇、東南アジアで最も時価総額の高いIT企業となり、テンセントの含み益拡大に多大な貢献をした。

現在、シンガポール、マレーシア、フィリピン、台湾、インドネシア、タイ、ベトナム7カ国市場で事業展開している。Eコマースにおける成長戦略は、ライブコマース、SNS、ゲームの3つという。

ライブコマースは「快手」の、SNSを存分に利用する販促テクは「拼多多」の、ゲームではテンセント本体のノウハウがある。テンセントグループのノウハウを、あますところなく利用し尽している。中でもゲームにハマる男性をECへ誘うモデルは、独自のアドバンテージだ。そして各国市場でアリババ系Lazada を凌駕し始めた。

■日本…楽天、テンセントグループへ

2021年3月中旬、日本郵政と楽天の資本業務提携のニュースが伝わった。しかし出資は、日本郵政の1500億円だけではなかった。テンセントが657億円、ウォルマートが166億円を出資した。

これより先、2019年2月下旬、楽天と京東は、無人配送で提携していた。さらにさかのぼる2018年8月上旬、テンセントとウォルマートは戦略提携を結んでいる。その一環としてウォルマートは、京東グループの「京東到家」に5億ドルを出資し、ウォルマートは中国店舗のデリバリーを「京東到家」に委託した。

今回の提携は、楽天と、テンセント(時価総額世界6位)とウォルマート(同17位)のグループとの提携が、いよいよ資本面に及んだということだ。

楽天にしてみれば、ヤフー(孫正義)とアリババ(ジャック・マー)が緊密である以上、提携相手はテンセントしかなかった。楽天と中国のテンセント系EC、Shopeeとの関係は今後どうなるのだろうか。楽天は1つのピースとなった。楽天の海外進出は、グループ内において優れたノウハウを持っているかにかかる。とにかく東アジアのEコマース界が、新しいフェーズに入ったのは確かなようだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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