<東京五輪>最悪のシナリオを想定すべき=感染症専門家の提言尊重を―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2021年6月20日(日) 6時10分

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五輪開幕まで1カ月あまりに迫る中で、政府基本的対処方針分科会の尾身茂会長ら感染症専門家が、東京五輪・パラリンピック開催に伴う新型コロナウイルス感染症の拡大リスクに関する提言をまとめた。写真は東京。

五輪開幕まで1カ月あまりに迫る中で、政府基本的対処方針分科会の尾身茂会長ら感染症や保健医療の専門家が、東京五輪・パラリンピック開催に伴う新型コロナウイルス感染症の拡大リスクに関する提言をまとめた。焦点となっている観客受け入れの是非について「無観客開催が望ましい」と明記し、応援イベントなどの中止も求めた。説得力のある提言だと思う。

東京五輪・パラリンピックに参加する選手らはワクチン接種や検査、外部との接触回避など徹底した対策がとられる。いわゆる「バブル方式」と呼ばれるもので、会場内や選手村で感染が大きく広がることを封じるという。心配なのは、観戦のため都道府県をまたぐ人の移動が、短期間に集中して起きることだ。全国から首都圏に人が集まり、地元に戻れば、感染を広げる恐れが大きいだろう。

このため専門家たちが無観客の開催を勧めたのはうなずける。観客を認めることになっても開催地周辺の人に限る案などを真剣に検討してほしいと思う。

政府は感染拡大のリスクに加え、期待される対策の効果をしっかり説明し、協力を求める必要がある。理由がよくわからないまま観客数などの基準が決まり、しかも専門家の見解と矛盾していれば混乱を生み国民の納得も得にくくなる。

尾身氏は6月18日の記者会見で、感染が急拡大する予兆をつかみ「深刻化する前に機敏に対策をうつことが大切だ」と強調した。それでも間に合わなかったらどうするのか。政府や組織委は専門家の知見を尊重し、最悪のシナリオへの対処策を考えておく必要がある。

一方、大会の観客制限を巡り、政府は7月以降に適用される一般イベントの基準と同じ最大1万人とし、21日に大会組織委員会などとの5者協議で決める構えだ。提言はこれより「厳しい基準」を要求している。さらに提言は「どのような状況になれば強い措置を講じるのか、早急に市民に知らせてほしい」とも求めた。

 

政府は東京都などを中心に感染が再拡大し、緊急事態宣言やまん延防止措置が出されたまま五輪へ突入する展開を恐れているようだ。観客を入れるならば人数を減らし、都道府県をまたがず開催地の在住者に限るとの提言に謙虚に耳を傾けるべきだろう。ゴールデンウイーク(GW)に地域外から多くの観光客が訪れた北海道や沖縄は感染者数が急増した。五輪開催時も、人の移動を極力抑制することが不可欠だと思う。

<直言篇162>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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