<直言!日本と世界の未来>広島長崎被爆75年=米露中の核軍縮めざせ―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年8月9日(日) 7時0分

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広島、長崎に原子爆弾が投下されてから75年。未曽有の殺傷と破壊により計21万人が5カ月のうちに犠牲になった。過去の記憶を風化させず、被爆者の苦悩を直視する必要がある。写真は広島・原爆ドーム。

広島、長崎に原子爆弾が投下されてから75年。米軍が投下した原爆による未曽有の殺傷と破壊により計21万人が5カ月のうちに犠牲になった。

生存被爆者の平均年齢は83歳で、今の私とほぼ同じである。当時8歳、核兵器がもたらした非人道的な惨禍による苦難はいまだに続いているという。惨劇を繰り返さないためには、過去の記憶を風化させず、被爆者の苦悩を直視する必要がある。

「核兵器なき世界」は世界共通の理想だが、実現に向け進んでいるのか。世界の現状は逆行していると言わざるを得ない。核大国は核の近代化を進めている。米露は小型化を競い、ミサイル兵器の開発に中国を交えて覇を競っている。北朝鮮は米朝合意後も核放棄を履行していない。国境をはさんでにらみ合うインドとパキスタンも核弾頭を増やしていると報告されている。

ひとたび核攻撃が始まれば、世界の主要都市が破壊され、地球上に放射線が飛散し、「核の冬」が訪れ、人類は滅亡する―。「地獄絵への恐怖」が核軍縮を後押ししたのは事実だろう。広島・長崎以降、「核のボタン」に手をかけた指導者は幸いにもいない。

ところが米露は冷戦時代から続く軍縮条約の廃止に踏み出した。両国に残る唯一の核軍縮ルールである新戦略兵器削減条約(新START)は、来年2月に期限を迎える。青天井の軍拡を防ぐために、両政府は延長の合意を結ばねばならない。まず世界の核兵器の9割を保有する米国ロシアが削減に動くべきだ。中国を巻き込む軍縮体制づくりを急ぐ必要がある。

核軍拡機運が逆戻りした背景には、トランプ米大統領の登場がある。過去に日本や韓国の核保有を認める発言をし、側近には「なぜ核兵器は使えないのか」と尋ねたというから驚きを禁じ得ない。最近では爆発を伴う核実験を検討していると報じられた。爆発力が比較的小さい小型核であっても、使用すれば広島・長崎の惨状が再現されるだろう。

コロナ禍で世界最悪の被害を出している米国は、核軍備支出で世界のほぼ半分を占める。核廃絶キャンペーン組織「ICAN(アイキャン)」によると、その支出を感染症対策に向ければ、集中治療室30万床、人工呼吸器3万5千台、医師7万5千人と看護師15万人が確保できるという。

「ノーモア・ヒバクシャ」に重要なのは、体験を語り継ぐことだ。いずれ「被爆者のいない時代」を迎える。核戦争が招く悲劇や非人道性に改めて目を向ける必要があろう。

核兵器禁止条約が「核兵器は非人道的であり、二度と使わせてはならない。その唯一の道は、国際法で違法な存在と位置づけることだ」との認識から、2017年9月に国連で採択された。批准国は着実に増え、年内にも発効する段階まで来たとされる。広島・長崎の被爆者が長年訴えてきたことが国際的に定着しつつあるが、日本政府は日米安保条約で米国の核による拡大抑止である「核の傘」の下にいることを理由に、条約に背を向けている。唯一の被爆国として残念だ。

核保有国と非保有国との橋渡し役を標榜している日本は、核禁条約への加盟を視野に積極的に関与すべきである。核保有国に先制不使用の宣言や、多国間の核軍縮交渉を促す努力こそが、唯一の被爆国としての責務であろう。

<直言篇127>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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