<コラム>北朝鮮の無慈悲な爆破の後でも韓国の日常は続く

木口 政樹    2020年6月19日(金) 21時0分

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16日、北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆破した。韓国ではこのニュースで持ち切りだ。写真はソウル。

6月16日午後2時49分ごろ、北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆破した。こんなこと、普通だったら「宣戦布告」と同じ状況だ。北が被害国(韓国)から攻撃をかけられても何も言えない、そんな状況だ。しかし南がすぐに攻撃をしかけたら、それこそ本当の戦争になるから、それはやらない。やらないけど、18日に経済団体の全国経済人連合会(全経連)が朝鮮戦争勃発70年に合わせ参戦国の大使を招いてソウルで開いた記念行事の祝辞を述べる席で、鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防部長官が、「万が一、北が軍事的挑発を強行するなら軍はためらうことなく強力に対応する」と警告した。本来祝辞を述べる席でこのような警告を発したことは、韓国の断固たる態度がみてとれる。

それもそのはず。北が爆破した南北共同連絡事務所は、2018年の南北首脳の歴史的「合意」に合わせて韓国の税金で造られた南北友好の象徴的建物であり、文政権の唯一ともいえる成果だ。俺(筆者)の出した税金の一部もあそこに使われいると思うと腹もたつ。これを北は「無慈悲に」爆破したのだ。文が怒るのも無理はない。

韓国ではこのニュースで持ち切りだ。韓国の政府高官が18日に米に飛んだ。ビーガンなどと会って対応策を協議するのだろう。北がさらに金剛山ホテルを爆破したり、ミサイル発射実験などをやった場合、南も、米も、今回は黙ってはいないような気がする。

10年前に砲撃されて犠牲も出たヨンピョンド(延坪島)の住民たちは今のところは緊張の中でも日常生活を送っているようだ。漁にも出ている。すぐ目の前が北朝鮮だ。あんなところに住める勇気を見習いたいものだ。10年前の2010年11月23日、北からの突然の砲撃で、4人が犠牲となり10人が負傷した。しかしこのときは南もすぐに報復攻撃をして、北の犠牲は南よりも多かったという。(詳しい数字はわからない)

毎日毎日が、戦争勃発の緊張の中にいるものの、実際にはみんなそれほど慌てふためいてはいない。日々の生活をたんたんと営んでいる。筆者もその一人。今夜どうなるか、明日どうなるかわからないけど、いま目の前の「生」をちゃんと生きるのが現実の歩みであり、しかもそれしか生き方はない。

でも北があれだけ暴れているのは、いよいよ苦しい時期になっているからだ。余裕がないから、暴れているのだろう。脱北者団体が北に飛ばしているビラのために(その報復として)爆破したといっているが、実際は早く経済制裁をといてくれ、というのが本音中の本音だろう。

しかしトランプは知らんぷりだ。トランプらしいじゃないか。約束通り、「非核化」をやるんなら、すぐにも解くけど、約束しないから制裁はかけ続けねばならん。そういうことだ。原理原則をやってるのがトランプといえる。核施設をあのとき爆破して「さあ、壊したぜ。制裁の一部でも解けよ」と北はいったが、あんななくてもいいような施設を爆破したところで、なんの意味もないことはトランプは知っている。見せかけのジェスチャーはやめろということだろう。本気で非核化に踏み切れ、ということだ。それはトランプだけじゃなくて南も、世界も、みな同じだ。

北に本気が見えたとき、制裁は解かれていくけれども、本気が霞んでいるなら、いつまでも制裁は続く。もうほとんど耐えられないくらいまでに追い詰められている北。このあと、どう出てくるのだろうか。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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