<直言!日本と世界の未来>コロナ不況脱却へ政策総動員、「バブル萌芽」懸念も―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年6月14日(日) 5時20分

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新型コロナウイリスの感染拡大によって内外経済は大きなダメージを受けたが、経済活動の再開により最悪期を脱したとの見方も浮上。異次元の財政出動と金融緩和により「バブル」の萌芽も見え隠れしている。

新型コロナウイリスの感染拡大によって内外経済は大きなダメージを受けたが、経済活動の再開により最悪期を脱したとの見方も浮上。株式市場はやや反転基調に転じている。各国政府による異次元の財政出動と金融緩和により、経済回復を期待する声も多いが、「バブル」の萌芽も見え隠れしている。「感染2波」懸念もくすぶっており、油断すべきでない。

内閣府が6月8日に発表した2020年1~3月期の国内総生産(GDP)改定値は、実質年率換算で2.2%減と前期(19年10~12月期)に続いて2四半期連続でマイナスとなった。4~6月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)はマイナス47.6。リーマン・ショック直後の09年1~3月期(マイナス51.3)に次ぐ低さという。

新型コロナウイルス感染拡大を受けた外出自粛や休業要請が、企業活動に深刻なダメージを及ぼした。宿泊・飲食サービスの業績悪化だけでなく、サプライチェーン混乱の影響が製造業にも出始めた。日本で解雇や雇い止めにあった働き手が2万人を超えたことが、厚生労働省が6月中旬に公表した集計でわかった。飲食業で増加が目立つ。実際に解雇や雇い止めにあっている人はさらに多いとみられる。

世界銀行は6月8日、2020年の世界経済が第2次世界大戦後で最悪の景気後退になるとの予測を公表した。「世界経済は過去例のないスピードで下振れしている」とも指摘。20年の成長率をマイナス5・2%と予測。日本はマイナス6・1%と、金融危機直後の09年(5・4%減)よりも厳しい景気後退になると見込む。感染者数が世界最大の米国もマイナス6・1%、ユーロ圏はマイナス9・1%といずれも大幅な落ち込みである。新興国では、最初に感染が拡大して収束も早かった中国が1・0%のプラス成長を確保する。感染増に歯止めがかからないブラジル、インドの成長率見通しは大幅ダウン。新興・途上国は全体で2・5%縮小し、過去60年間で初めてマイナス成長に転落する。

ただ、このシナリオは、新型コロナの影響が20年後半には落ち着くことが前提で、実際は「圧倒的な下振れリスクがある」という。特に南半球の新興国は感染が急拡大している。主要国では有力なワクチン開発の決め手に欠く中、感染第2波のリスクが拭えない。厳しい予測では20年の世界の成長率はマイナス8%と急落し、21年もプラス1%しか持ち直さないというから油断は禁物である。

問題は、世界全体の成長を主導する牽引役が見当たらないことだ。2008年の米国発のリーマン金融危機時には中国など新興国がリードした。世銀は今回のコロナ危機について、世界経済の90%以上が連鎖的に縮小する「世界同時後退局面」と指摘。今回の予測では南米や南アジア、アフリカの成長率は、極めて低い水準にとどまる。

こうした中、世界主要国は新型コロナ経済対策として、合計で8兆ドル(約880兆円)規模の財政出動に踏み切り、景気の立て直しを急いでいる。これにつれて投資家や企業家の心理も持ち直す可能性もありそうだ。半面、日米欧をはじめ各国・地域で財政赤字と債務残高が急増し、中央銀行のバランスシートが急速に悪化している。

日本でも令和2年度第2次補正予算が6月9日に成立した。2次補正予算案の歳出総額は31兆9114億円。従業員への休業手当の一部を助成する「雇用調整助成金」の拡充(4519億円)や、事業者の家賃負担を軽減する「家賃支援給付金」の創設(2兆242億円)などを盛り込み、予備費として10兆円を計上した。売り上げが減少した中小企業向けの補助金である持続化給付金は、2回の補正予算計で4.2兆円に上り、さらに予備費の投入も予想される。全国民に1人当たり10万円を支給する特別定額給付金など家計や企業に対する援助の合計は30兆円程度と推計され、国民1人当たりで約25万円に相当。安倍首相が「空前絶後」と語るほどの規模に膨らんだ。 

日本では2020年度の国債発行額がGDP比で18%にのぼる。格付け会社のS&Pは日本政府の長期債務(国債)格付けの見通しを「ポジティブ」から「安定的」に引き下げた。リーマン・ショックの元凶は米国のサブプライムローン(証券化商品)だったが、今回の世界的な超金融緩和路線の行き着く先も慎重に見定める必要があろう。

<直言篇121>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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