<ブックレビュー>イラン人女子の目力と野茂英雄=エマミ・シュン・サラミ『イラン人は面白すぎる』

Record China    2014年1月9日(木) 16時56分

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『新潮45 』最新号の特集「世界はだいたい日本の味方」に、「すべてがそろっている「奇跡の国」」という原稿を寄稿されているのを見て、そういえば著書もあったなと思い出して購入してみた。写真はイランの首都テヘラン。

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イラン人の芸人エマミ・シュン・サラミさんの著書。ラジオ「荒川強啓デイキャッチ」のコーナー・レギュラーとして出演されていて、そのイラン小話というかイランあるある話にはいつも爆笑している。『新潮45 』最新号の特集「世界はだいたい日本の味方」に、「すべてがそろっている「奇跡の国」」という原稿を寄稿されているのを見て、そういえば著書もあったなと思い出して購入してみた。

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■卓越した小話

一応、章ごとにテーマが決まっているが、体系的にイランの知識を得るならばもっといい本はあるのではないか。ただイラン人が書いた本ならではの細かい小ネタが素晴らしすぎる。一部を紹介しよう。

(イラン人の女性はチャドル、つまり顔を見えないように隠す頭巾のような民族衣装を着ることが風習だが、その目だけで男性にアピールするテクニックを身につけているという話)中東の女性は目力が強いとか、エキゾチックなまなざしをしているという声をよく耳にする。それは、彼女たちがアピールできる部分が目に限られているためで、自然とその瞳は力強く生命力にあふれるからだ。

(…)イスラム女性にとって、目は自由に自分を表現することのできる唯一の手段なのだ。流し目、上目づかい、ウルウル濡れた目(僕はチワワ目と呼んでいる)など、目の動きだけで男を悩殺するテクニックを何種類も本能的に身に付けている。野茂英雄投手がフォークボールの握りで何種類もの球を投げられたのと似ている。

当時ブリトニー・スピアーズに憧れていたナザニンは、ハサミを入れて胸元が見えるようにしたかっこいいチャドルや、ひざのあたりをボロボロにしたダメージチャドルを作ったりしていた。また、キャラクターのアップリケを着けたりスプレーでペインティングしたりといろいろ試したらしいが、すべて職務質問されて没収されたという。

しかし、そんなことではへこたれないナザニンは、ブカブカのチャドルの下に奇抜なチャドルを着込み、ディスコに入った瞬間ブカブカチャドルを脱ぎ捨てるという荒技を生み出した。

またイランのことわざも結構紹介されていて、「結婚とは、断食あけのケバブ」(恋愛禁止、婚前性交渉禁止のイランで結婚の喜びをあらわすことわざ)とか秀逸なものがいくつも紹介されているのがうれしい。

ついでに書いておくと、単に笑える小ネタだけではなく、日本人のイランへの不理解(イラクといつも間違える。ドーハの悲劇の相手はイラクですよ!)、親米国が優遇される国際社会への批判といった著者の意識がところどころににじみでているのも良い。

■エマミ・シュン・サラミさんの自伝が読みたい

ちょっと不満な点も書いておこう。著者の経歴がまったく明らかにされていないことだ。エマミ・シュン・サラミさんの祖父は軍関係者、父も軍の技術関係者だったという。そのためちょっとハイソな私立学校に通った著者は石油王や貴族たちの暮らしエピソードにも詳しくて楽しいネタをいっぱい紹介してくれているわけだが、著者がどういう経歴で育ったのか、なぜ日本に来たのかなどは一切明かされていない。

そこには絶対面白いストーリーがあるはずなのだが。あるいはエマミ・シュン・サラミさんの経歴を軸に小ネタを紹介するという形式にしていたらもっと一本筋が通った本になっていたのではないか…などとも妄想する。

こういう海外事情の小ネタ本は楽しいのだが、中国や韓国、あるいは米国の小ネタ本はいろいろあれど、それ以外の国についての話はまだまだ少ない。日本語で、しかも書籍というそれなりにクオリティーが担保された形でそうした小ネタ本が読めるのは幸せなことだし、それこそが文化の程度を示す指標なのではないかとも思う。いつか世界200カ国小ネタ本フェアができるよう、このニッチな本を支援していきたい。

◆筆者プロフィール:高口康太(たかぐち・こうた)

翻訳家、ライター。豊富な中国経験を活かし、海外の視点ではなく中国の論理を理解した上でその問題点を浮き上がらせることに定評がある。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。

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