吉田陽介 2022年5月10日(火) 15時20分
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今年、中国の一般大学卒業生は過去最高の1076万人に達する見込みで、前年比で167万人増だ。
中国教育部の報道官は4月28日に記者会見で、「新型コロナウイルスの感染状況など多くの要素の影響を受け、大学卒業生の雇用情勢は非常に厳しく複雑だ」と述べた。「非常に厳しく複雑」という表現は、これまで見られなかったもので、政府の危機感が伝わってくる。
この報道官の言葉は中国の大学生の就職状況が非常に厳しいことを中国政府が公に認めたことを示している。
■大卒生が過去最高に、就職戦線がさらに厳しさを増す
今年、全国の一般大学卒業生は過去最高の1076万人に達する見込みで、前年比で167万人増だ。コロナの影響などで経済の下押し圧力が強まる中で、これほど多くの学生が卒業するということで、就職活動が厳しくなることは容易に想像できる。
一般に大学生は4年の後期(春節明けから6月まで)になると、卒業論文執筆と職探しを同時進行し、卒業シーズンの6月には就職先が決まっている学生が少なくなかった。だが、今年は例年に比べかなり厳しいようだ。
中国最大の求人サイト智聯招聘のデータによると、2022年4月中旬時点で、自分に合った就職先を見つけ、契約に至った新卒者は過去最低の15.4%だった。就職活動をしている新卒者のうち46.7%が内定を獲得したが、この数字も過去最低で、2021年の62.8%を大幅に下回っている。内定を獲得した学生のうち、1~3社の内定を獲得した学生は昨年の48.9%を下回る38.1%だった。内定を獲得した学生、契約に至った学生が減少したことから、中国の新卒者は仕事を選びにくくなっていることがわかる。
中国人民大学中国就業研究所が4月に発表した大学卒業生のCIER指数(就職市場景気指数)も過去最低となり、新型コロナウイルス流行直後の2020年第1四半期を下回った。
どうしてこのような厳しい数字が出ているのか。
首都経済貿易大学准教授、中国就業研究所研究員の毛宇飛氏は、「今年は一線都市が新型コロナの影響を大きく受けた。特に長江デルタ、珠江デルタは、これまで大学卒業生を多く受け入れた都市だった。今年はこれらの都市の卒業生需要が影響を受けている」と述べた(『経済観察報』4月28日付)。
毛氏はさらに、政府の規制政策の影響を受け、これまで多くの雇用を吸収したインターネットや教育産業では採用ニーズが大幅に減少し、雇用景気指数をさらに押し下げていることも、卒業生の就職が厳しくなっている原因の一つだと指摘した。
前出の『経済経観察報』は、「仕事が見つからないのだから、探したくない。まわりのクラスメートや友達は大学院入試に熱を入れている」という大学生の声を紹介した。
筆者の勤務先の学校でも、大学卒業後すぐに就職活動をせず、大学院に進学したいという学生は少なくない。10数年前に教えた学校では、最終学年に就職活動をするという学生は多かった。当時の中国は8%ほどの経済成長率をキープしており、雇用情勢も現在よりはいくらかよかった。
このことは、智聯招聘が大学生1万8000人を対象に実施した大学生就職調査の数字にも反映されている。同調査によると、卒業生の61%が今年の就職活動は「非常に難しい」と答えており、就職が大きなストレスになっているという。
大学生の就職が難しいのは、経済情勢もそうだが、卒業生の数が増えていることも関係がある。10数年前に教えていた大学で、日本語学科主任から、「今は学生の就職が厳しいので、面接で通用する日本語を教えてください」と指示されたことがある。当時はリーマンショックの影響を多少受けていたとはいえ、中国経済は現在よりもよかった。それなのに就職が厳しいのは、競争相手が増えてきたことが関係している。
以前教えていた大学の作文の授業で「将来の夢」というテーマで文章を書かせたが、「いい仕事を見つけて、親を楽させたい」と書く学生が多かった。「いい仕事」とは何かと学生に聞くと、「給料が高い仕事です」と即答した。彼らの言う「いい仕事」は大企業や政府機関などを指す。このようなところはポストが限られているため、競争が激しい。一流大学以外の学生が「いい仕事」に就ける可能性は、よほど優秀でない限り、極めて低い。
昨年、努力したくない若者のことをいう「寝そべり」族という言葉が流行ったが、その背景には、理想とする進路は競争が激しく、個人の努力ではどうにもならないこともあるということがある。
■「いい仕事」に固執しなくなった中国の若者
日本でもそうだが、就職できない若者について、「就職先を選ぶからだ」という社会の声がある。筆者も大学院を卒業したばかりの時、就職先を選んでいたし、自分の教え子の言動からも選んでいることがわかるため、その社会の声は間違ってはないない。
ただ、今の卒業生は高望みしなくなってきている。
まず、彼らは絶対に高い給料でないとダメだとは考えていない。前出の智聯招聘の調査によると、4月中旬時点で、半分の卒業生がまだ内定を獲得しておらず、彼らの希望月給は減少しており、契約月給はさらに減少している。一部の重点大学の優秀な学生の昨年の平均契約月給は7395元(約14万4720円)だったが、今年は6507元(約12万7341円)に減少しており、今後さらに減少すると予想される。2022年度卒業生の平均希望月給は6295元(約12万3193円)で、昨年の6711元(約13万1334円)を約6%下回った。
次に、大企業に固執せず、中小・零細企業への就職を希望する学生が増えている。2022年に中小・零細企業を選んだ卒業生の割合はそれぞれ3.6%、34.4%と、2021年の1.8%、28.7%を上回っている。
その背景には、雇用情勢が厳しいため、学生も折り合いをつけたことが挙げられる。また、名の知れた企業は3年以上の実務経験が求められることが多く、まずは中小企業で経験を積み、チャンスが来たら、より条件の良いところに移籍するという現実的選択をする学生も少なからずいる。
■新しいタイプの仕事、モラトリアムの道、選択はさまざま
また、新しいタイプの仕事を選ぶ学生もいる。中国の動画共有サイトbilibiliと智聯招聘が共同で発表した「2022青年求職行為洞察報告」によると、88.1%の「00後(2000年以降に生まれた人)」の学生が、動画アップロード主、Eコマースブロガーなどの新しい仕事をしたいと望んでいるそうだ。こうした職業形態は現在のインターネット時代の波に乗ってできたものだが、この職業に将来性や他業種へのキャリアアップの可能性があれば、学生たちの選択肢も広がるだろう。
折り合いをつける学生がいる中で、モラトリアムの道を選ぶ学生もいる。
智聯招聘の調査によると、2022年度大学卒業生のうち、しばらく休んでから、再び就職活動をすることを指す「スロー就職」を選択する割合が上昇している。今年「スロー就職」を選択した学生は前年比3ポイント増の15.9%に達した。
今年卒業見込みの修士課程の大学院生のうち、博士課程への進学を選択する院生の割合が、昨年と比べ顕著に増加した。智聯招聘の採用データによると、2021年度に博士課程進学を選択した修士課程の院生は4.3%にすぎなかったが、今年は11%に大幅に増加した。今後、「修士課程受験ブーム」が「博士課程受験ブーム」に変わる可能性が高い。
ただ、博士課程に進学する人が増えるということは、博士号取得者の就職競争がより厳しくなることを意味する。博士の受け皿を増やさなければ、行き場を失う博士が増えることになる。また、競争に敗れた博士が企業などで活躍できるようにするための職業紹介・教育体制も必要となる。
「スロー就職」も、博士課程への進学も、来年や3年後の雇用情勢好転を期待してのいわば「時間稼ぎ」だ。だが、その時の雇用情勢は好転しているかは誰にも見通せないし、今度は新卒との競争になる。
モラトリアムの時期に、どのようにして自分に付加価値をつけていくかを大学の頃から教えることが必要だと思う。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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