<コラム>中国金融界もう1つのイノベーター・中国平安、従来型金融機関からAIを駆使したIT企業へ進化

高野悠介    2020年6月1日(月) 9時40分

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金融界内部から、イノベーターを取り上げてみたい。その代表は、“三馬”の1人、馬明哲の率いる中国平安集団である。資料写真。

前回は、中国を代表する金融イノベーターとして、アリババグループのアント・フィナンシャルを紹介した。今回は、金融界内部から、イノベーターを取り上げてみたい。その代表は、“三馬”の1人、馬明哲の率いる中国平安集団である。

■中国平安とは

中国上場金融機関の時価総額ランキング(2020年5月23日)によれば、1位・工商銀行、2位・農業銀行、3位・中国平安の順である。平安の時価総額は1925億ドルで、偶然にもアント・フィナンシャルの想定企業価値とほぼ変わらない。

創業者で董事長の馬明哲は1955年生まれ、経営者としてはファーウェイ任正非(1944年生)に近かった。同じ深センで創業し、株式を社員に分与するなど、よく似た経営手法を取っている。それがアリババの馬雲(1964年生)、テンセントの馬化騰(1971年生)と並び“三馬”と称される。なぜ金融機関のボスが、巨大IT企業の創業者と同列に語られるのだろうか。

中国平安は1988年3月、深セン市蛇口で誕生した中国最初の株式制保険会社である。馬明哲を中心に13人のメンバーでスタートし、不動産保険をテコに成長する。そして今では、保険、銀行、証券、投資、資産管理などの総合金融サービス企業に成長、従業員は34万人を超えた。国策に基づいて設立され、国有企業など融資先が保障された国有4大銀行(工商銀行、農業銀行、建設銀行、中国銀行)や国有保険会社(中国人寿保険、中国人民保険)とは全く異質の存在だ。

■衆安保険

“三馬”となる転機になったのは2013年、中国最初のオンライン保険会社「衆安保険」の設立だった。アリババ、テンセント、平安の共同出資という意外な組み合わせである。これは馬明哲が、最新のITを学習するため、年下の馬雲、馬化騰に頭を下げ、教えを乞う形でできた。効果はてきめんだった。

まず、衆安保険そのものが大きく成長した。国内初のネット通販保証金保険「衆楽宝」や自動車用タイヤ保険など、斬新な商品を次々に発売した。現在の商品ラインナップには、意外、健康、旅行、財産保険とあり、個人にシフトした損保と言えそうだ。2017年9月には香港証券取引所へ上場を果たした。2019年の保険料収入は146億3000万元(2200億円)、前年比30%増。利益は17億元の欠損だが、保険金支払い余力(ソルベンシーマージン比率)は502%と十分である。

この経験を生かし、馬明哲は新しいAI時代へ攻勢に出る。

■陸金所と平安好医生

最も成功したのは、「陸金所」と「平安好医生」、2つの子会社である。

陸金所は2011年9月、上海で設立された、投資、金融資産管理、交易情報サービスプラットフォームである。スマホアプリとしてスタートしたのは2013年、衆安保険と同じだ。中小企業や個人顧客のため、信頼に足る投融資サービスを提供する。ネット技術のイノベーションと適切なリスク管理により、顧客資産の“増殖”を目指す。登録ユーザー数4459万人。iimediaによる2020年ユニコーン企業ランキング4位、企業価値は380億ドル。

平安好医生は2014年8月、上海で設立された。現在のアプリは2015年4月スタートのオンライン問診、健康管理アプリだ。すべての家庭にホームドクターを提供するため、移動医療+AIの技術を革新していく。主要な効能は、ホームドクター、問診カルテ、名医館、健康コミュニティの4つ。会員制の「平安好医生私家医生会員」も伸びている。2018年5月には香港市場へ上場を果たした。新型肺炎は追い風となり、株価は大きく上昇、直近の時価総額は150億ドル近辺である。

■平安智慧城市(スマートシティ)

そしてスマートシティ(智慧城市)でも、アリババ、テンセント、ファーウェイと争うようになる。地方政府のデジタル化を目指す、4社の提携合戦が続いている。

中国平安は2019年12月、スマートシティ報告会を開催した。それによれば国内100都市以上、「一帯一路」構想沿線の外国都市と提携している。平安智慧城市は、経済開発と改革のプラットフォームで、根拠は不明だが、経済予測の正確性を50%、意思決定を60%改善するという。

具体的なプラットフォームも用意されている。例えば環境保護プラットフォームでは、10万を超える汚染源のリアルタイム監視を行っている。これにより環境リスク防止能力を50%向上させた。また大衆からの報告や苦情も処理し、満足度も向上させている。

■まとめ

中国平安は、従来型金融機関から、IT企業への脱皮に成功した。今では各地、各界のAIプロジェクトにおいて、アリババ、テンセントと争っている。それには“三馬”の協力で実現した、衆安保険の経験が、極め付きに大きかったのだ。彼らが三馬とよばれる所以である。

日本生命や、東京海上ホールディングスなどのサラリーマン経営者には、とてもできそうにない。袋小路の日本金融界に絶望せざるを得ない。イノベーターはどこにいるのだろうか。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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