<コラム>中国で食糧不足問題が前代未聞の深刻化

内藤 康行    2020年9月28日(月) 22時20分

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中国で食糧不足問題が深刻化している。写真は中国で売られるコメ。

先日、中国社会科学院は「第14次5カ年計画(「十四五計画」)」(2021~2025)の期間の終わりまでに、中国は約1億3000万トン程度の食糧不足になる可能性があると指摘した。

中国社会科学院農村発展研究所は8月17日中国農村発展報告を発表し、「第14次5カ年計画(「十四五計画」)期間」(2021~2025)の終わりまでに、中国は約1億3000万トンの食糧不足を抱えるかもしれない」と述べた。この報告に対し、多くの学者が「国内では食糧危機はすでに現れており、実際の状況はもっと深刻かもしれない」と分析している。

また、同報告書は「十四五計画」期間中、中国の農村発展の全体的な方策は、「前提条件としての国家の食糧安全保障を確実にするためのものである」と述べている。

ある著名な農業研究者は最近、「データから見る中国の食糧安全保障」という分析記事を発表し、「データを見ると、現在の中国の食糧生産では国民の需要を満たすことができない事を示している。国家統計局の2018年12月データでは、2018年中国の食糧自給率は約82.3%に低下しており、食糧不足は17.7%となり、国連食糧農業機関規定の食糧安全保障基準を満たしていない(自給率は90%)」と指摘している。

しかし、中国政府は、穀物自給率は95%であることを強調し、世界の食糧安全保障基準である90%よりも高いと反論している。世界の食糧安全基準で見ると、中国の食糧不足は2億5200万人が必要とする食糧に相当する。

中国政府は食糧不足の理由を示さず

中国社会科学院の上記報告では、「現在、農村発展は依然として、多くの矛盾と問題に直面している。例えば穀物生産に対する農民の積極性の低下、農民の継続的な収入増加の難しさ、深刻な農村の高齢化、農村の顕著な民生弱体化、村落の差別化など、高度に重視する必要がある」と述べている。

しかし、同報告で言及されている農民が抱える様々な問題の背景には、長年にわたって中国政府によって意図的に造られた「土地クライシス」と「赤字を抱える穀倉地帯」がある。その原因は過度の開発と農耕地収用により農村部の殆どの若者が農業を放棄し都市部へ出稼ぎに行き、その結果、農村部の労働力が大幅に失われ、耕作地の大部分が不毛地となっている。

上述の中国社会科学院の報告によれば、「第14次5カ年計画」(2021~2025)の期間末には、全土で農業従事者の割合は約20%に低下し、農村部の60歳以上の割合は25.3%に上昇し、1億2400万人に達すると指摘している。

加えて、長江流域は1998年以来の最悪の大洪水に見舞われ、鄱陽湖周辺から「魚米之郷」(魚と米の里)として知られる長江デルタまで、526万ヘクタール以上が浸水した。中国の食糧供給はすでにレッドラインに入っている可能性が高い。

新型コロナの蔓延で中国の食糧サプライチェーンは寸断され、国民は中国政府の農業監督能力に対し深刻な不信感を持つ。中国政府が言う高い食糧安全係数を国民は信じていない。

13の穀倉地帯の半分以上が廃棄され、中国の穀物不足は深刻な状況にある

2020年4月4日、北京のアジア大会選手村にあるスーパーマーケットでは、食料の争奪戦が起こった。

2020年に入ると、全国で様々な災害が一斉に発生した。新型コロナ、南部の大洪水、北部の大干ばつ、異常気象などで、中国の土地は荒廃。13の主要穀倉地帯*が大きな影響を受け、半分以上が壊滅し、食糧不足を加速している。

(*中国主要穀倉地帯:遼寧省、河北省、山東省、吉林省、内モンゴル自治区、江西省、湖南省、四川省、河南省、湖北省、江蘇省、安徽省、黒竜江省)

2011年の中国国家糧食局の統計では、中国の13の主要穀倉地帯の穀物生産量は、全国総生産量の75.4%を占め、増加分の穀物生産の約95%はこれらの13の主要穀倉地帯からのものだ。

不運な事に、南部の長江流域では集中豪雨や大洪水に見舞われ、避難民は5000万人を超え、国民の大半が依存しているいくつかの穀倉地帯でもほとんど収穫がない状態である。これらの被災穀倉地帯は、湖南省、四川省、湖北省、江蘇省、安徽省である。

さらに悪いことに、多くの南部で激しい洪水が発生した一方で、東北部の遼寧省は今夏69年来の大干ばつに見舞われた。主要な穀倉地帯の1つである同省は現在大きな脅威に晒されている。

7月29日、中国水利部は6月1日から7月27日まで、遼寧省の平均降水量は108.8mmで、平年同期比で53.1%減、昨年同期比で20.6%減となり、これは1951年以来の同期比で降水量が最も少ない年となったと報じている。

7月28日の統計によると、遼寧省の農作物干ばつ被害面積は4万4281エーカーに達し、干ばつは同省西部地区の阜新、錦州、営口、葫蘆島、朝陽、盤錦及び鉄嶺に集中している。

7月末は元々、トウモロコシの収穫期間だったが、過去2カ月間、北部では降雨量不足で、大部分のトウモロコシが収穫できない情況にある。

中国の国有テレビ「CCTV Webサイト」は、阜新梅力営子村には1万4000エーカー近くの耕地があるものの、夏期にはほとんど降雨が無く、村全体では7500エーカー以上の農耕地が深刻な干ばつを受け、6300エーカー以上の農耕地で収穫がなかったと報道している。

遼寧省は中国の重要な穀倉地帯だ。肥沃な土壌、昼夜の温度差が大きく、成長期間が長い事から良質な農作物を生産している。遼寧省の主要農作物は、米、トウモロコシ、高梁、小麦、キビ、大豆等で、同省の穀物生産量は全国の40%を占めており、本年の大干ばつは中国人の食糧事情に重大な影響を与える可能性が高い。

上記の自然災害による穀物の収穫不足や無収穫に加えて、近年の中国の食糧危機はますます深刻化している。それは中国の穀物倉庫が汚職の温床になっていることも一因である。中国糧食備蓄河南分署は110匹の「強欲な搾取者(碩鼠)」が国家の「供給市場の穀物」購入政策を逆手に取り、「空買い」や「空売り」を駆使し、私腹を肥やしていたことを明らかにしている。内部関係者は「すでに多くの穀物倉庫は空だ」と指摘している。

過去数年にわたり、中国国務院が「全国穀物倉庫全面調査実施通達」を出すたびに、全国の穀物倉庫が不審火による火災を起こしている。これは「空倉庫」隠蔽工作なのである。

中国は世界最大の食糧輸入国だ。中国農業部は過去に、2020年には中国の食糧需要量は7億トンとなるが、生産量はわずか5.54億トンにとどまり、1.5億トン近くが不足するだろうと予測している。中国の2018年税関統計では、中国の食糧輸入の主要供給源は世界最大の穀物輸出国である米国だ。国際的な食糧サプライチェーンが寸断状況にある中、国内の様々な食糧危機と重なり、中国は今、まさに最悪の災難が目前に迫っている。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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