<コラム>韓国総選挙後の北の動きが気になる

木口 政樹    2020年4月15日(水) 23時20分

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北朝鮮ではコロナ感染がゼロだとずっと主張しているが、かなりの感染や死者が存在するようだ。写真は北朝鮮。

北朝鮮ではコロナ感染がゼロだとずっと主張しているが、かなりの感染や死者が存在するようだ。ベールに包まれていて、「ようだ」とは言えるが明確なところはわからない。今回は、各種ネットからの情報をもとに北朝鮮の今後の動向をご紹介したい。

自由アジア放送によると中国から輸入した1、2月のコメとトウモロコシは、コメが1300トン、トウモロコシが1100トンで普通の年に比べると90%も減少した。北は6月まで穀物がない。

この6月あたりまでの穀物ゼロの時期を「ポリコゲ」という。麦の峠という意だ。麦が出るまでの山場といったニュアンスであろう。このポリコゲをいかに切り抜けるかが、北の住民にとっては死活問題だ。特に今年は厳しい状況だ。北当局にとっても厳しい状況であるゆえ、北当局は、不正摘発と非社会主義現象の撲滅という名目のもと、トンジュ(富豪)から物資を収奪している。

これまではこのトンジュを利用して北の統制のための資金を調達していたのだが、今は彼らから物資もとって金もとるというずるい行動にでている。不満をいえばただちに収容所、労働鍛錬所に送ったり粛清したりする。金正恩体制の維持のためにはなりふり構わずなんでもやるという状況になっているのだ。

ここで、トンジュという単語についてちょっと解説したい。「トンジュ」とは、北朝鮮で新興富裕層を指す単語ですなわち「お金の持ち主」という意味になる。トンジュという単語は1990年ごろ、北朝鮮の「苦難の行軍」の最中に登場した。当時、北朝鮮は配給制社会だったが、深刻な自然災害と凶作、そしてエネルギー難などで配給ができない状況になり、多くの市民が飢え死にし飢餓が蔓延した。「苦難の行軍」が北朝鮮社会に与えた影響は様々だが、その一つがこのトンジュの誕生だった。「苦難の行軍」以後、「金が第一だ」という金銭万能主義が知らず知らずのうちに北朝鮮市民たちの間に浸透し、様々なお金持ちが登場する。市場の活性化とともに、トンジュは朝鮮労働党傘下の事業に手を出し、事業の規模を拡大して成長した。

初期のトンジュは闇市場に中国産物を供給しながら事業をする行商人だったが、市場の存在が認められ、市場の規模が大きくなり、初期の商売から脱して高利貸業、建設業、海外投資業、運送業、金融業などをさまざまの分野で徐々に地位を上げ、北朝鮮内の国家事業、官民合作投資、国営合作事業に参入するようになった。

事実上、彼らは北朝鮮内の資本主義そのものだと言うことができ、朝鮮労働党も彼らの存在をある程度認めており、特に金正恩体制に入ってからはその程度が深まり、偶像化作業に資金を寄付すれば、朝鮮労働党に入党しやすくなったためトンジュたちが労動党員であることが多くなり、トンジュのための施設も相次いで建設されることになった。

実際、2010年代に平壌(ピョンヤン)で摩天楼が急速に増えたことや、地方でも建設ブームが起こったのもトンジュたちの投資のおかげだった。

対北朝鮮制裁が長引き北朝鮮の経済を圧迫している中、ドンジュと北朝鮮の朝鮮労働党幹部との政経癒着はますます深まっているという。

「トンジュ」、ロシア語ではオリガルヒ。旧ソ連に存在した。共産圏での単語だ。

北当局は、不正摘発と非社会主義現象の撲滅という名目のもと、このトンジュから物資を収奪している。これまではこのトンジュを利用して北の統制のための資金を調達していたのだが、今は彼らから物資もとって金もとるというずるい行動にでている。不満をいえばただちに収容所、労働鍛錬所に送る。金正恩体制の維持のためにはなりふり構わずなんでもやるという状況になっている。平安南道のピョンオン郡では、3月中旬に保安省が突然コメとトウモロコシ問屋(トンジュ)の家宅捜索をやり、地下のキムチ貯蔵所をはじめ庭も掘り起こして1トン近い穀物を押収していった。このトンジュ(卸売商人)に対し「国が混乱しているのに食料を買い占めて私腹を肥やしている」との罪をなすりつけ、翌日すぐに労働鍛錬所に送ったという。

北当局は、軍の食糧利権にも手を突っ込み始めた。デイリーNKによると、金正恩は食糧確保のための軍の農地を、労働党(内閣)と軍とで共同管理せよと指令を出した。軍に対してはそっとしておくのがいままでの北朝鮮当局であったのだが。軍の中堅幹部に対する食料配給を、これから6か月の間、月に10日分だけ支給せよとの指示が出たという。ひと月は30日あるわけだからこれでは生きていけない。中堅幹部は下級からせしめるしかなく、軍がパニックになるのは時間の問題となっているようだ。

金正恩のこうした対策は不正撲滅を謳いながら逆に不正の温床となっているという皮肉な結果を招来している。軍人の不満を増幅させているわけだ。これは朝鮮末期と同じ。財政難から軍人に対する俸給を遅らせて、しかもその俸給も砂の混じったコメで支給したため反乱を招いた1882年7月の軍乱の状況に似ている。勿論これくらいで北の軍人が反乱を起こすわけではないが、軍人らの金正恩に対する不満は確実に増大し忠誠心を低下させている。

次に、統治にかかせない外貨も底をついている状態という。朝鮮労働党「39号室」というところが外貨稼ぎの本拠地だ。ここで様々の外貨稼ぎやハッキングによる外貨収奪をやっており、軍からの上納金、トンジュからの徴収金、中国人らの観光収入によってもたらされた外貨をここで一括管理している。今回の新型コロナによる中国との国境封鎖により貿易が縮小。外貨獲得も大幅に減少している。1、2月の中朝貿易は前年比で3割減という。また北からの輸出は7割減という。輸出アイテムの稼ぎ頭である石炭や鉄鉱石の価格も暴落している。

当局は、住民の外貨使用や闇両替を摘発して外貨を没収している。背に腹は代えられないとして中朝国境の封鎖も一部解除したという情報もある。

そんな中、金正恩が地方機関に物資の備蓄を指示した。トンジュには物資の買いだめを犯罪扱いしながら、地方には備蓄せよと指示。4月15日の韓国総選挙後に大々的に北が挑発するのではないかという推測が広がっている理由だ。昨年11月から今年3月下旬までの北の軍事訓練で一番ポイントが置かれたのは射撃精度の向上。ライフル、装甲車、戦車などは勿論、放射砲(ロケット)から戦闘機の射撃にいたるまでさまざまな武器の射撃精度の訓練をした。この射撃訓練と地方への備蓄指令を結びつけると、「きな臭い」においも感じられないでもない。窮地に陥った金正恩が冒険主義に出てくる可能性は否定できない。総選挙後の北の動向に注目される。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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