岩田宇伯 2020年3月21日(土) 11時20分
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中国に入ってくるインド映画は日本同様絶対量が少ないため、なかなか、これは!といった作品に当たらなかったので、さらに百度検索を軸に掘り進めたところ、とんでもない「神劇」にブチ当たってしまった。
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●インド映画に接近
【その他の写真】
最近、抗日「ドラマ」だけではなく、「映画」もいろいろ探している。百度を検索していると、なんかの拍子でインド映画を扱ったブログを掘り当てた。もちろん、書いているのは中国大陸の人だ。どうやら記事を読むと、インドにも長年植民地支配をしたイギリスに対する「抗英」映画がいくつも制作されているようだ。試しに鑑賞してみようと思い、中国の動画サイトにあるインドの戦争映画をいろいろ探してみた。
中国に入ってくるインド映画は日本同様絶対量が少ないため、なかなか、これは!といったタイトルと画像だけで引き込まれる作品に当たらなかったので、さらに百度検索を軸に掘り進めたところ、とんでもない「神劇」にブチ当たってしまった。
●中国を敵とするインドの抗中映画
1962年秋、10月20日 から11月21日までの1か月、インド、ブータン、中国が国境を接するドクラム高地の国境をめぐり、インドと中国が戦闘状態になった。一般的には中印戦争として知られている。中国が侵攻、そして一方的に休戦を宣言し退却したものの、インドはボロ負けであった。
その中印戦争をテーマとしたインド映画が近年何作か制作され、中国のネットではトンデモ抗日ドラマになぞらえ「印度抗中神劇」と揶揄している。もともと、いきなり全員で踊りだしたり、武侠ドラマや抗日ドラマ以上に、物理法則を無視した大げさなアクション連発のインド映画なので、中国でもおもしろがってチェックしていた層はいた。ただの「印度神劇」から「印度抗中神劇」が爆誕したということだ。
ビリビリ動画などで甲高い声の四川方言を使って抗日ドラマのトンデモシーンを爆笑解説する達文西(ダビンチ)も昨年あたりからインド映画のトンデモシーンを定期的に取り上げるようになった。ちょっとしたトレンドのようである。
中国の質問サイトや掲示板では「印度抗中神劇」をネタにしたツリーが作品公開ごとに盛況となる。「アリエネー」「抗中神劇サイコー」といったリプライで埋め尽くされる、なかには「トンデモ抗日ドラマを知った日本人の気持ちがようやくわかった」と変な理解を示す者まで。(画像1 中国の掲示板より)
●トンデモもあるインド「抗中」映画紹介
というわけで「印度抗中神劇」をいくつか紹介してみたい。ヒンディー語やタミル語が聞き取れないので完全ではないが、きっと皆さんの気に入る作品があるはず。近年作品が増えたということで、これから当分の間新作の期待もできそうだ。ただ、約1か月という短い戦いのうえ、インド側の負けということで、中印戦争には題材となるものが乏しい。抗日ドラマ並みにどこまでハナシを膨らませることができるか、インド映画人の腕の見せ所だ。
『72時間』(2019)
1962年、中印戦争へ赴いた主人公は、人民解放軍の猛攻に会い放棄された三つのインド軍陣地にて縦横無尽に遊撃戦を行う。一人になった主人公は山岳少数民族の少女とともに人民解放軍を混乱に陥れる。一人と十万の戦いだ。(画像2 『72時間』)
『第三次世界大戦』(2016)
2025年、中国がインドに侵攻。特殊部隊の主人公は人民解放軍に捕まり、アタマのイカれた解放軍領導から拷問を受ける。一緒に捕まった仲間の死を知り、監獄から脱出するも、今度は潜水艦に監禁され、爆薬カプセルを飲まされる。はたして彼は脱出し、インドを救うことができるのだろうか。(画像3 『第三次世界大戦』)
『スベダール・ジョギンダ・シン』(2018)
1962年、家族と別れ戦地に赴いた主人公。一人で最後まで戦い抜いたヒーローストーリー。実在の人物がモデルだ。大道具のチープな戦車や大砲でズッコケる。(画像4 『スベダール・ジョギンダ・シン』)
『パルタン』(2018)
中印戦争の5年後、1967年。シッキム地方の中印国境線にて不穏な空気が流れる。はじめは兵士同士の小競り合いだったものが、人民解放軍が発砲、ついに一線を越え軍事衝突へ。戦争の不条理さを問う。(画像5 『パルタン』)
●「抗英」「抗パキ」と少ないながらもインドはほぼ全方位
かつては大英帝国の植民地であったインド。そのため旧宗主国を敵とした「抗英」作品も多数あるようだ。16世紀から20世紀までと植民地時代も長く、ネタはたくさんありそう。最近公開されたものでは1857年のインド大反乱を題材とした『マニカルニカ・ジャーンシーの女王』(2019)、ヒーローストーリー『サグofヒンドゥスターン』(2018)など。(画像6 『マニカルニカ・ジャーンシーの女王』)
また、長年のカシミール地方領有権の争いから、ついにはお互いに核兵器を保有する国同士となったパキスタンが敵の「抗パキ」映画『ウリ-サージカル・ストライク』、19世紀末のアフガン戦争で玉砕した部隊を描いた「抗アフガン」映画『ケサリ』(2019)といったように。国境線が長く、紛争が絶えなかった歴史の国ならではの充実ぶり。イスラム対ヒンドゥーの確執も背景にある。まじめな戦争映画ながら、インド映画お約束の「踊り」もあったりするので癒し効果も認められる。(画像7 『ウリ-サージカル・ストライク』)
逆に中国側に紛争実績のある「抗印」「抗越」「抗ソ」作品が少ないのが惜しい。戦争ドキュメンタリーの類はわりと見かけるのだが、中越戦争を描いた「抗越」作品は80年代にいくつかあるものの、近年の作品は皆無である。中印戦争では人民解放軍が圧倒的勝利を収めているので、「抗印」作品があっても良さそうなものだが、今のところ発見できていない。中国も参戦した朝鮮戦争に関しては「抗美援朝」ということで、最近でも年間1作ぐらいは制作されたりもする。
それと考慮すると、少なくなったとはいえ、「抗日」作品が制作され続けるということは、中国にとって日中戦争が非常に重要な位置づけであるということだ。
■筆者プロフィール:岩田宇伯
1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。twitterはこちらブログはこちら
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