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<コラム>作曲家ショスタコーヴィッチが残した抗日遺産

岩田宇伯    2019年8月11日(日) 14時10分

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抗日劇『小英雄王二小』は課題図書であるため台本はどこの小学校でもほぼ同じなのはいいとして、日本軍登場ののテーマ曲も同じであることに気づいた。マーチングドラムとともにおどろおどろしい、いかにも悪役登場といったマイナー調のメロディーだ。

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●学芸会や余興の出し物に人気の抗日寸劇

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年がら年中抗日ドラマを放映している中国のTV局、そうなる理由はこのレコードチャイナコラムに以前『消えてしまったのか?抗日ドラマ、実は…』にて寄稿したとおり。考えてみれば、日中戦争期より抗日舞台劇、映画、歌曲があるので、「抗日」あるいは「抗戦」というものは相当年季の入ったカルチャーでもある。

歴史が長いということは、それだけ多くの人々の常識レベルまで浸透しているということ。また、政府の政策ともマッチするため、教育現場でもしっかりと授業がある。この点は日本と大違いだ。さらにいうと中学生以上は新学期に軍事教練がある。近くの解放軍部隊から兵士を招へいし、ブートキャンプみたいなことをを行う本格的なものだ。中国人の知り合いの話を聞く限り、勉強一辺倒の中国の学園生活において「仲間と協力し苦難を乗り越える」という日本の部活や運動会に近い感覚かもしれない。

こういった体育会系行事のほか、学芸会といった文化系行事も行われ、そこでは抗戦劇が演じられることがある。中国の動画サイトに先生や父兄がアップした学芸会の動画が多数あるが、「経典」といわれる古典劇は父兄にも分かりやすいので各地の学校で出し物として演じられているようだ。そのなかでも人気の出し物は紅軍が海南島の悪徳地主をやっつける『紅色娘子軍』。そして少年が日本軍から八路軍を守り犠牲になる『小英雄王二小』などがある、こちらは『課本』となっているので学年課題図書と思われる。(画像1 『小英雄王二小』)

●なぜか日本軍登場は同じ曲

その抗日劇『小英雄王二小』、課題図書であるため台本はどこの小学校でもほぼ同じなのはいいとして、日本軍登場ののテーマ曲も同じであることに気づいた。マーチングドラムとともにおどろおどろしい、いかにも悪役登場といったマイナー調のメロディーで、日本軍の太君が漢奸と下っ端兵士を引き連れ舞台に登場するのだ。この曲は日本のパチンコ屋の『軍艦マーチ』と同じぐらいド定番のようだ。

舞台で演じる小学生の衣装は以前『偽レゴからコスプレ衣装まで!中国で売られている驚きの抗日グッズ』にて紹介したコスプレ服なのだが、小学生なので悪役日本軍といえどかわいらしい。もちろん決め台詞は「バカ!」、「死了死了的!」だが、観客席の父兄は大ウケ。悪役といえどセンターでセリフも多いので学芸会の日本軍はおいしい役どころだ。(画像2 日本軍を熱演する小学生)

●ネタ元は経典電影『平原遊撃隊』

この日本軍登場のテーマ曲、調べていくと、1955年、長春電影廠制作『平原遊撃隊』の日本軍登場シーンのBGMということが判明した。日本軍の隊列が登場する00:24:00あたりからこの曲が鳴り始める。ストーリーとしてはよくあるパターンで、村を日本軍に掃討された主人公らが敵討ちをするというものだ。(画像3 平原遊撃隊より)

なぜか耳に残るこの曲、日本軍のテーマ曲として『鬼子進村曲』と名づけられ、その後、多くの抗日映画で引用、日本軍といえばこの曲!と定番になり、いまでも学芸会などで現役というのはおもしろい。作曲者はこの映画の音楽担当車明。彼は当時のソ連映画音楽を研究、重厚なオーケストラを用いることにより、さらにストーリーを盛り上げるテーマ曲をこの映画のほかにも多数作曲した。百度百科にはこの『鬼子進村曲』の編曲には伊福部昭の『日本狂詩曲』を参考にしたとあるが、信憑性のほどは不明だ。

●ショスタコーヴィッチ交響曲7番

『鬼子進村曲』と伊福部昭の『日本狂詩曲』との共通点は、「ヨナ抜き」といわれる独自の日本風のメロディーであることぐらい。

しかしながら、車明が影響を受けたというソ連音楽、その大物作曲家ショスタコーヴィッチの『交響曲第7番』の第1楽章には、キーが異なるものの、この『鬼子進村曲』と同じフレーズが登場する。そのため、中国ではショスタコーヴィッチのパクリという説が大多数だ。

そもそもショスタコーヴィッチの『交響曲第7番』は第二次大戦時ナチスドイツのレニングラード包囲戦のさなかに完成、戦争をテーマとした壮大な交響曲である。しかも『鬼子進村曲』と同じフレーズの登場する第1楽章は、平和な街がナチスドイツの進撃により混乱に陥る様子を描いている部分なので、映画の日本軍登場シーンにドハマりする。『交響曲第7番』はCメジャーだが、『鬼子進村曲』ではそのままキーをGメジャーヨナ抜きに転調しており日本風メロディーとなっている。

また、中国のネット掲示板にて『行軍小調(山田叔叔隊伍来了)』というナゾの日本軍歌が原曲との別の説を見つけたが、中国のMP3共有サイトを探してもこの曲は発見できなかった。また、この説に対し中国の日本軍マニアが200曲以上日本の軍歌を調べても『行軍小調』なるものが不明とのことで、信憑性は怪しい説ではないかと考えられる。(画像4 『鬼子進村曲』を議論する中国の掲示板)

●『鬼子進村曲』で逮捕!

この日本軍が村を襲撃するテーマ曲『鬼子進村曲』であるが、じつは別の使われ方もしている。

なにかと庶民には評判の悪い中国の官憲、露店を強制排除する城管やデモ隊を蹴散らす公安を一般人が撮影した動画のBGMに使われているのだ。確かに城管など抗日ドラマの日本軍みたいなふるまいをするので気持ちはわかる。

2018年12月には若者が城管がパトロールしている動画にこの曲を被せ人気動画アプリTikTokに公開。コメント欄は大ウケだったようだが、執務中の公務員を侮辱したとのかどで逮捕、5日間の拘留となってしまった。(画像5 逮捕のニュース)

さすがに中国の動画サイトではこのようなおフザけ動画は消されてしまったようだが、YouTubeやDailyMotionにはいろいろアップロードされているのでご覧いただきたい。そして、そろそろ香港デモの暴徒の映像にこの『鬼子進村曲』をBGMに被せた動画が登場しそうだ。

■筆者プロフィール:岩田宇伯

1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。

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