<コラム>中国の美空ひばり、郭蘭英

岩田宇伯    2019年5月7日(火) 0時30分

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伊那の「美空ひばり歌の里」に訪問してきた。

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●隣町に美空ひばりの博物館ができた

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私はストリートを見るのが大好きだ。普段何気なく通る道でも、新しい店ができたり潰れたり、また気づかなかったものを発見したりと、ささやかな楽しみを見出している。

隣町といっても豊田市であるが、たまたま通りすがりに「美空ひばり歌の里」という施設があるのを発見した。看板を見る限りオープンはそれほど古くなさそうである。面白そうなので早速訪問してみた。カラオケ喫茶の一部が美空ひばりに関連するコレクションで埋め尽くされている個人収蔵の博物館のようだ。カラオケ喫茶なぞいままで入ったこともなかったのでいろいろ面白い。ステージ、客席も元気な婆さんばかりである。美空ひばりのステージバックダンサーを務めていたオーナー滝沢のぼる氏によると、長野県の伊那に本館があり、本館オーナーと懇意なため一部収蔵品を譲ってもらったとのこと。こうなっては伊那の「美空ひばり歌の里」が気になってしまう。

というわけで、高遠城址公園の桜でも見ようとバイクツーリングのついでに本家「美空ひばり歌の里」にも訪問してきた。伊那といっても辰野側に近い箕輪村の小高い丘の上だ。オーナーは美空ひばりに歌詞を提供した作家、小沢さとし氏。収蔵品は1万点近く、寄贈品がほとんどであるが個人収蔵のコレクションとしてはなかなか壮観である。そういえば、改革開放後、中国でも美空ひばりは人気だったと聞く。伊那名物ローメンを食べながら、当時はどの曲が中国で流行ったのか、ちょっと考え込んでしまった。(画像1、2)

●美空ひばり、中国を歌う

まだ子供だった戦後すぐにメジャーデビューの美空ひばり、そこから亡くなるまでキャリアは40年以上。昭和時代、戦前歌謡や軍歌などTVの懐メロショーで放映されていたので、きっと美空ひばりも中国に関する歌を歌っていただろうと思い、音楽配信サイトを漁るとすぐに出てきた。

コンピレーションアルバム『ひばりディスカバリー ~亜細亜の旅』(2012)には当時シングル発売されたSP版の北京を歌った『晩香玉 (ワンシャンユイ) の花咲く宵』(1952)、ドリス・デイのカバー『上海』(1953)、『蘇州夜曲』(1963)、『香港セレナーデ』(1964)が収められている。『香港セレナーデ』のA面は戦前の渡辺はま子のカバー『支那の夜』。当時、中国から引き揚げた人の記憶もまだ鮮やかだった頃ならではだ。(画像3)

●中国の美空ひばり?

根拠はなにかよくわからないものの〇〇のXX、といったフレーズをよく聞く。中国における美空ひばりポジションは誰だろうと思い、ちょっと調べてみたら、郭蘭英という人が出てきた。貧しい家庭の生まれ、幼少期からストリートで歌い、そして国民的スターとなるという筋書きが共通項といえよう。美空ひばりと比較されるエディット・ピアフも同様だ。

郭蘭英、山西省平遥の貧しい家庭に生まれ、子供のころより山西(木邦)子の舞台に立ち歌う。(山西省では北京の京劇にあたる戯曲が山西(木邦)子と呼ばれ、これは各地にそれぞれのスタイルの戯曲がある)

その後華北連合大学(のちの中国人民大学)文工団へ入団、さらに中央戯劇学院進学と芸を磨く。革命劇『白毛女』の舞台で火が付き、映画『上甘岭』の主題歌がヒット、文革期のミュージカル映画『東方紅』でもソロをとるなど国民的歌手となる。(画像4)このようなサクセスストーリーも美空ひばりと共通するところである。革命歌を歌ったり、政府の芸術部門の仕事をしたりという部分は国情の違いといえる。また、52歳という若さで亡くなった美空ひばりと違い、郭蘭英は2019年4月現在、90歳でまだ存命であるはず。

戯曲の歌い方なので美空ひばりの歌い方とは全く違う、初めて聴いてちょっと戸惑ってしまった。古い録音ながらも圧倒的な声量と情感豊かな歌唱は十分伝わってくる。

●郭蘭英2世といわれる王二妮

日本ではあまりにも美空ひばりが偉大すぎて、「美空ひばり2世」あるいは「後継者」と言われる歌手がなかなか見当たらない。中国では郭蘭英のカバーが評判の王二妮という歌手が後継者っぽい扱われ方をしているようだ。舞台『白毛女』も郭蘭英同様主役をこなしている。抗日ドラマに出てくる田舎娘をイメージしたルックスが特徴、そう、お父さんを日本軍に殺され遊撃隊に助けられる役どころのアレだ。妹の王小妮とともにステージ衣装こそハデな色だが、素朴な田舎娘のイメージをずっと続けている。(画像5)郭蘭英が山西人なら、この王二妮は隣の省、陝西人。さすがに80后なのでストレートに音楽学校卒業であり、美空ひばりや郭蘭英のような幼少時代の伝説は見つけられなかった。

アメリカの土着音楽ともいえるカントリーウエスタン、日本ではマニアすらいるか不明なジャンルだが、現地では大マーケットがあるように、中国でも高齢者中心にこのような民謡風歌謡曲を聴く人が多いようだ。

●オールドスクールな歌曲を聴いてみよう

さて、前回のコラムで民国歌謡をお勧めした際、音楽ストリーミングサイトの利用を紹介したのだが、今回紹介した郭蘭英、王二妮は中国のサイト以外では登録曲があまりにも少なすぎる。コンピレーションアルバムすら登録されていないような悲惨な状況にちょっと驚いた。国民的歌手である郭蘭英ですらSpotifyでアルバム1枚12曲のみ。こうなると、ここはCDを購入するか、YouTubeや中国の音楽サイトで漁るしかないようだ。またタオバオでは郭蘭英の新品LPレコードが売られている。(画像6、7)

ちなみにこのコラムのアテにした美空ひばりの歌はSpotifyやアマゾンPrimeミュージックに多数登録されているのでご安心を。また伊那と豊田の「美空ひばり歌の里」にてそれぞれのオーナーからお話を伺うのも面白いだろう。

■筆者プロフィール:岩田宇伯

1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。

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