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<コラム>米朝首脳会談は失敗にあらず、非核化の定義がはっきりした

木口 政樹    2019年3月5日(火) 19時20分

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トランプのディールの内容がボルトンによって明らかにされた。全ての核施設はもちろん、生物化学兵器など大量殺戮兵器も含めては全て除去するということ。これが米国の要求する「非核化」の定義であったわけだ。

トランプのディールの内容がボルトンによって明らかにされた。全ての核施設はもちろん、生物化学兵器など大量殺戮兵器も含めては全て除去するということ。これが米国の要求する「非核化」の定義であったわけだ。

北朝鮮の3月1日真夜中の発表では、ヨンビョンの核施設を除去するから経済制裁の一部でも解除してくれという要求を北はやったということだったけれど、トランプとボルトンの発表はそれと真っ向から反する内容だ。ヨンビョンの核施設を除去するかわりに全ての制裁を解除してくれと北が要求してきたとトランプは記者会見で語った。

どちらが事実かはわからないけれど、どちらにしても、米国の考えている非核化の定義がはっきりしたという点では今回のハノイ会談、失敗ではないと筆者は思う。首脳会談にいたるまでの2か月あまりの期間、米および北の高位幹部らがどんな交渉をしてきたのかが非常に疑問だけれど、トランプの考える非核化の定義がはっきりしただけでも、なんとなく安心できる感じだ。

これに対して3月5日午前3時、平壌に帰還した金正恩委員長が、どのように米との対話をもっていくのか。非常に注目されるところだが、予想がまったくつかない。「ヨンビョン+α」の核施設の除去、さらには生物化学兵器など大量殺戮兵器の除去をトータルで進めることがトランプのディールの内容だけれど、北がそれに全面的に応じるとはどうしても考えられない。ヨンビョンを除去するかわりに制裁一部解除、その他の核施設を除去するかわりにさらに制裁一部解除、ICBMを除去するかわりにさらに制裁一部解除、生物化学兵器を除去するかわりに制裁一部解除、云々と、ちょこちょこと小刻みにシーソーゲームをしていくことだけが北朝鮮としては可能と考えるが、どうだろう。

一発除去をやってしまったら、北は丸腰になってしまって、何の圧力もなくなってしまう。そういう状況になるとは絶対に考えられない。米との長い駆け引きゲームがいよいよはじまっていくものと思われる。北はもうこれ以上経済制裁下では立ち行きが危うい状況である。何とかせねばならぬ。指導者である金正恩の手腕が問われるところとなった。

米国の自由アジア放送(RFA)が報道したところによれば、「最高尊厳(金正恩)が三日間かけて列車に乗ってベトナムくんだりまで行って会談したのに、国際社会の前で恥だけかいてきたのではないか」としながら、「我々(北朝鮮)が核とミサイルを最後まであきらめないため、今後、米国の経済制裁がより強化されるのではないかと懸念する住民が多い」と伝えた模様だ。

戦争が起きるとすれば、こういう状況に追い込まれたときに最後のあがきとして戦争が起きるのかもしれない。日本の真珠湾攻撃も、同じようににっちもさっちもいかない状況に追い込まれた日本が最後の活路を見い出すべく仕掛けたものだったと筆者は理解している。北が戦争のボタンを押さないことを祈るばかりだ。

ところで、北が核を作り、核にこだわり続ける理由を見てみたい。1950年6月25日に開戦の火ぶたが切られた「朝鮮戦争」。北朝鮮は韓国が先に攻撃をしかけてきたから攻撃したんだといい、韓国は反対に北が先に攻撃をしかけてきたから攻撃したんだという。真実は神のみぞ知るである。勿論、南の人も世界の大部分の人も皆北朝鮮から攻撃をしかけてきたと考えている。筆者もそれが事実だと思うけれど、最終的な証拠がない立場ではなんともいえないという感じもしている。

とにかく戦争ははじまった。ただちに米国を中心とするUN軍が韓国を応援するために軍を派遣する。16か国の助けが来た。日本は1945年の無条件降伏の状態でいたから、米国の軍事基地的な役割を担うこととなり、これは戦争特需(朝鮮特需)といわれるように朝鮮戦争を肥やしにして莫大な儲けをむさぼることになる。日本の経済成長はこの朝鮮特需が土台となっている。

そして1953年7月。休戦協定。調印したのは国連軍総司令官=米国陸軍大将マークWクラークと、朝鮮人民軍最高司令官・朝鮮民主主義人民共和国元帥・金日成と、中国人民志願軍司令官・彭徳懐(ホートクカイ)であり、大韓民国の場合は大統領はおろか司令官すら署名していない。当事国の韓国が完全に無視された状態であった。1953年に、戦争が終わったのではなくて休戦しただけなのだ。だから今も北朝鮮は戦争状態(戦時体制)にあるわけだ。どこと?大義としては米国と。でも現実的には韓国と戦争状態にあるわけだけれど。

大義としては米国と書いたけれど、実際、米国を相手に戦っているというのが北朝鮮の立場だ。その米国という国は、自分の気に入らない国があれば、地球の裏側まで行って戦争をしかける。アフガンも潰された、イラクも潰された、リビアも潰された。次は北朝鮮だろう。

俺たちは強いんだと見せるしかないのが北の立場だ。虫けらでも潰すようにさまざまの国を破壊してきたアメリカ。そのアメリカに潰されないためには、核を持つしかないというのが北朝鮮の偽らざる心情だ。金正日のころから延々と核、核、核といって核製造だけに血眼になって邁進してきた理由は、こういうところにあるわけだ。

北朝鮮の立場に立って考えれば、核もいたしかたなし、という気もするのは筆者だけだろうか。この伝家の宝刀である核をなくせと今アメリカが言っている。核だけじゃなくて、全ての生物化学兵器やICBMなども。どうするんだろう。反原発の先頭に立っている原子炉や原爆の専門家である小出裕章さんは、北朝鮮はいまだにまともな原爆や水爆はもっていないはずだ、と、どこかで言っていた。核実験はやっているのだから、なにがしかのものは持っているはずだけれど、広島や長崎型のまともな核爆弾はもっていないということなのだろうか。いずれにしても、今後数週間の北朝鮮の動きから目を離せない状況ではある。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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