如月隼人 2018年9月24日(月) 22時30分
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中国語の<遇難>を日本語の「遭難」と同義と勘違いしてしまう日本人もいるようです。でも両者には違いがあります。写真は2015年8月に天津市で発生し、多数の死傷者を出した爆発事故の現場。
しばらく前まで、「ニュースで英会話」という番組がNHKのテレビとラジオでやっていました。今は趣向を少し変えて、「世界へ発信!SNS英語術」といった番組になりました。時おり見ているのですが、中国語のニュース用語では英語とは違う「つまづきどころ」があります。中国語が漢字を用いているだけに、日本人は意味を想像して「分かったつもり」になる場合があることです。
今回ご紹介する<遇難 yu4nan4>も、そんな言葉のひとつです。この言葉は、日本語の「遭難」と同じと勘違いしがちなのです。「遭難」とは「災難に遭遇すること」ですから、<遇難>も「災害に遭遇すること」だろうと連想してしまうのかもしれません。そういえば「遭」と「遇」の字の形も似ています。
まず、中国語の<遭難 zao1nan4>ですが、「災難や不幸、面倒なことに遭遇すること」と理解してください。実際には死者が出る事故に使われる場合が多いのですが、<遭難>だけでは状況が完全に具体的ではありません。
インターネットで掲載されている中国語と英語の辞書では、<遭難>の1番目の語義を「meet with misfortune(不幸と出会う)」として、2番目の語義を「be killed in an accident(事故で死ぬ)」とした上で、用例として<遭難身亡 zao1nan4 shen1wang2>としていました。<遭難>だけでも「死亡」と解釈できるが、「亡くなった」ことをはっきりと示す<身亡>を加えた言い方を用例にしたわけです。
一方、<遇難>の場合、この言葉だけで死亡したことをあらわします。8月下旬に、ニュージーランドで自動車旅行をしていた中国人の親子3人が事故に巻き込まれ、父親が死亡、母と娘が負傷する悲惨な事故がありました。この事故を報道する記事は父親については<遇難>として母親と娘については<母女受傷 mu3nv3 shou4shang1>と表現しました。
なお、日本語の「遭難」は主に「海や山で事故に遭遇すること」を意味しますが、中国語の<遇難>や<遭難>は事故や事件、災害など、突然にして襲う災難全般に対して使います。
<遇難>や<遭難>に関連する用語としては、<喪生 sang4sheng1>(死亡する)、<傷亡 shang1wang2>(死傷)などがあります。「事故」をあらわす言葉としては<失事 shi1shi4>をよく見ます。ただし、自動車事故の場合は<車禍 che1huo4>が一般的です。航空事故は<飛機失事 fei1ji1 shi1shi4>で、特に死者が出た場合は<空難 kong1nan4>が使われます。
さて、事故関連の言葉について書いていると、どうしても気持ちが落ち込んでしまいます。お読みいただいている皆さんも同様かもしれません。そこで、軽い話題をご紹介しましょう。
ずいぶん前のことでしたが、私が存じ上げている中国の大学の先生が共同研究者として日本の大学にやってきたことがありました。先生は初来日でしたが、日本に来ても会話はまったく問題ないほど日本語がお上手でした。先生が来日してしばらくして、お会いする機会がありました。
「日本での生活は慣れましたか。先生ならば日本語の会話に問題はないでしょう」と申し上げると、「言葉の面ではほとんど問題はありません。でも、ぎょっとしたことがありました」とおっしゃるのです。さらに聞いてみると、昼食時にはよく、大学の近くの定食屋に行かれるそうです。その店の壁に貼られていた「有難う御座います」と書かれた紙を見て、「ぎょっとした」というのです。
日本語力は十分ですから、ちょっと考えて「ありがとうございます」だと理解したそうですが、それでも、その店に行って貼り紙を見るたびに妙な気分になったそうです。先生は「だって、漢字からすれば、『席を自分のものにしたら命を失うようなとても悪いことになる』との警告のように思えてしまいます」とおっしゃいました。
さらに詳しく尋ねたところ、「有難」の文字からは<遇難>や<遭難>を連想してしまい、「御座」の2文字は「席を御する」に思えてしまうとのことでした。
お断わり:本コラムでは、中国語を<>の中に日本語の常用漢字の字体で表示します。ピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします。 u の上に2つの点を添える場合には v を用います(例:<東西 dong1xi0>、<婦女 fu4nv3>)。
■筆者プロフィール:如月隼人
1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。 Facebookはこちら ※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。 ブログはこちら
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