如月隼人 2018年9月17日(月) 19時20分
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中国では今も「戦艦」がどんどん建造されている。軍事史や海軍事情にちょっと詳しい人ならば、「何を言っているのだ。どこの国でもとっくに、戦艦の建造や運用は終えている」とおっしゃるかもしれません。写真は中国の軍艦。
中国では今も「戦艦」がどんどん建造されている。軍事史や海軍事情にちょっと詳しい人ならば、「何を言っているのだ。どこの国でもとっくに、戦艦の建造や運用は終えている」とおっしゃるかもしれません。
たしかにそうですね。いわゆる戦艦が登場したのは19世紀後半。それまでの海軍主力艦は戦列艦(ship of the line)と呼ばれるタイプの軍艦で、船の舷側(側面)に大量の大砲を並べ、縦に並んで(単縦列)横の方向にいる敵に砲撃を加える戦法だったそうです。だから、戦列艦という名称が出来た。
しかし、大砲が大型になるにつれて砲を配置するために舷側に大きな「窓」をたくさん開けるのでは防御に問題ありということになって、いわゆる「戦艦」が誕生したそうです。巨大な主砲を甲板の上に据え、船の舷側は堅牢な鋼板などで防御力を高めるというのが「戦艦」の完成形です。
敵を撃破するには敵艦を上回る攻撃力と防御力が必要ということで、いわゆる「大艦巨砲主義」が進行しました。史上最大の戦艦と言えば、日本で建造された大和と武蔵です。しかし「戦艦の時代」に終わりを告げたのも日本海軍でした。太平洋戦争における空母を利用した攻撃が成果を上げ、戦艦の強大な防御力も航空兵力には対抗できないとの認識が定着したからです。
戦後になり戦艦が活躍する舞台はなくなりました。わずかに、米海軍戦艦のミズーリとウィスコンシンが1991年の湾岸戦争で出動して、イラク軍に向けてトマホークミサイルを発射した例があるぐらいです。この時も戦艦特有の「巨砲」が使用されたのではなく、戦艦のもう一つの特徴である「堅牢な防御力」だけに注目しての投入でしたから、戦艦本来の利用法ではなかったわけです。ミズーリとウィスコンシンも、その後に退役しました。
では中国が「今も『戦艦』をどんどん建造している」とはどういうことなのか。要するに、言葉の問題です。
まず、中国で「戦艦」は<戦列艦 zhan4lie4jian4>と訳されています。なぜか、戦艦よりひとつ古いタイプの主力艦だった「戦列艦」の名称を、戦艦に対しても使い続けたわけです。ただし、台湾では<戦艦>と呼ばれることが多いようです。
では、台湾は除くわけですが、中国語で<戦艦 zhan4jian4>と言ったら何を指すのか。通常では、「戦闘用の船」すべてを指します。つまり、「巡洋艦」や「駆逐艦」なども<戦艦>の一種とされます。日本語ならば「戦闘艦」に相当すると言えばよいでしょうか。私は中国発のニュースを扱う場合、「軍艦」とする場合もあります。ということで、中国は現在<戦艦>をどんどん建造しているわけです。
中国で書かれた記事を扱っていて、「ヒヤッと」することが多い単語は、日本語と同じ文字で、違う意味をあらわすことばです。海軍関連の記事では<戦艦>の語が使われることも多いので、「うむ。危ない。これは『戦闘艦』や『軍艦』とせねばならない」と自分に言い聞かせながら作業を進めることになります。
さて、海軍艦船についての名称ですが、<巡洋艦 xun2yang2jian4>や<駆逐艦qu1zhu2jian4>は日本語と同じ文字を使います。ちょっと違うのが「航空母艦」です。中国語も<航空母艦 hang2kong1 mu3jian4>ですが、日本では「空母」と省略するのが一般的であるのに対し、中国では<航母 hang2mu3>とするのが一般的です。
「空母」でなく<航母>と呼ぶのは、中国語で<空母>としてしまったのでは「空っぽの母艦」とのイメージになってしまうからと考えられます。
軍艦でもうひとつ、日本語と違うのが「潜水艦」で、中国語では<潜艇 qian2ting3>です。「艇」は「艦」に比べて小型の船舶を指すのは日本語も中国語も同じ。中国語では「潜水艦」を<潜艇>と呼んでいるので、比較的小さな船舶とのイメージがともなうことになります。ただし、中国の094型原子力潜水艦は全長が137メートルあり、<潜艇>といっても小型とは言えません。
ちなみに、中国語で「原子力潜水艦」は<核動力潜艇 he2dong4li4 qian2ting3>で、通常は<核潜艇 he2 qian2ting3>と省略されます。「原子力空母」は<核動力航母 he2dong4li4 hang2mu3>と呼ばれています。
お断わり:本コラムでは、中国語を<>の中に日本語の常用漢字の字体で表示します。ピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします(例:<東西 Dong1xi0>)。
■筆者プロフィール:如月隼人
1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。 Facebookはこちら ※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。 ブログはこちら
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