<コラム>カジノは日本経済の救世主となり得るか?

澤野勝治    2019年12月27日(金) 10時50分

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日本に於いてのカジノがどの様な役割と地位を築くのか?等を数回にわたり、ざっくばらんに考えていきたい。写真はマカオのカジノ。

この記事は2014年に一度、他サイトに掲載した記事をベースに、現在の状況を加味して加筆修正したものです。

一般的に”カジノ法案”と呼ばれている【特定複合観光施設を整備するための法案】の行方がどうなるのか?と言う最初のハードルがややスッキリしない形で通過し、現在は事業者認定と言う次の段階に入った。

日本に於いてのカジノがどの様な役割と地位を築くのか?等を数回にわたり、ざっくばらんに考えていきたい。

そして何回かに分けて、このテーマを公開して行く事にする。

マカオに於けるカジノの役割

マカオと言う地域に於いて、カジノはマカオ経済の非常に大きなけん引力になっている事は疑いの無い事実だ。年に四兆円以上もの収益を生み出し、元手は建物と人件費のみ。日本のパチンコの方が遥かに手間ヒマかかっている。しかしそれ故に法律で厳しく縛らないといくらでもグレーゾーンが発生してしまう。

そう言う事を嫌う政府が施行しているカジノに関する法律は非常に厳しい。

またカジノに対する税金も38-42%と非常に大きく、他の税金と併せて四兆円の売り上げに対し、ほぼ半分の二兆円近くは政府の懐に入る。濡れ手に泡。まさにカジノ様々である。

日本の自治体の首長がここに目が眩んだとしても仕方あるまい。

しかしその一方で、マカオの居民からの監視の目は厳しく、それをかわす為か一般法人に対しての税金は極めて少ない。日本で言うところの中小零細企業の法人税はほぼ無税。ビジネス書やインターネットでは6-12%等と書いてあるが、実際はこの十年ほどは完全にゼロである。個人の所得税などは、ほぼ無いに等しい金額で、そう言う意味ではマカオ市民は大きな恩恵を受けている。

■マカオのカジノの収益を支えるVIP倶楽部

マカオ政府はジャンケットと言う仲介業を職業として確立させ、グレーゾーンに潜りがちだったそれらのエージェントを公的なものにした。

このジャンケット/VIP倶楽部が得ている収入は、カジノ全体の売上の半分以上を占める。少なくとも1人頭、数千万単位からの資金を預かって遊ばせるのであるからその恩恵は莫大だ。

最近は掛け金が高額になってきていて、平場のエリアでも1回のゲームに掛ける金額もそれなりに大きく、500~、1000~、1500MOP(現在のレートで約6800円、1万3600円、2万円)が主流となっている。一回の掛け金だから、ざっと30秒から1~2分でこのカネは天に召される。

一方、このVIP倶楽部を成立させる送金システムの確立が課題である。なぜならここがマネロンの温床となるからだ。

現在、中国から無申告で持ち出せる現金は一人一回あたり2万元(約35万円)。当然この金額ではホテルに泊まり、食事をし、ちょっと遊んだところで終わってしまう。そこで各地域にあるVIP倶楽部オフィスが重要な役割を果たす。が、しかし見方によってはこれは地下銀行以外の何物でもない。

マカオの隣、中国広東省は珠海市の国境近く。ココに行くと不思議な光景を見る事になる。ほぼ新車と思えるベンツやBMW、Audi等の高級車がズラ~っと並んだ中古車屋が多数。

どれもこれも新車の様だ。そしてそのすぐ隣にはマカオのカジノホテルやジャンケットのオフィスが並ぶ。

つまりこう言う事だ。

クルマでマカオの隣、珠海に乗りつける。そこでクルマを担保に入れて数百万円を借り受ける。そのまま、ジャンケットのオフィスに入金され、あとは手ぶらでマカオへ入国。クルマを担保にしたカジノで遊ぶ資金はすでにカジノ側にセットされ、心行くまでカジノを満喫する。運が良ければ帰りは自分のクルマ+戦利品(キャッシュ)。

運が無ければ徒歩か別のクルマを買って帰るのか…

いずれにしてもこの様な客の売り上げが、カジノ収入の半数を占めている。これだけは紛れの無い事実。

この40%以上を税金でゲット出来るとなれば確かに日本の首長が色めき立つのも分からなくもない。が、その税収の元の軍資金はどうやってその地に運び込まれるのか?と言う観点から考えると、かなり怪しい話になってしまうのは容易に想像できるではないか?と、思う。

まさかカジノに来る高額な客を順番に外為法で逮捕する訳にもいくまい。

持ち出し制限を掻い潜る為、銀聯カードを利用した現金引き出しが横行し、現在、それらのシステムは停止されている。

いずれにしても、1.カジノを作る→2.人が集まる→3.お金を使って遊ぶ→4.収益があがる→5.税収が増える。

と言う流れに期待しているのは分かるし、誰であろうが期待する。

が、しかし問題は2と3の狭間に存在する。

日本の外為法の制限で無申告で持ち込みできる金額の上限は100万円である。現在、問題になっている某代議士の問題もまさにここに抵触した。まさか100万円を中国人に持って来させわずか15分でゲームを終わらせてすぐに帰国させる訳にもいくまい。

更に戦利品からの税金の徴収である。今の日本人が論議しているカジノ法案の先に出来るカジノ像はこう言うモノなのである。

そんなところに人が行くだろうか???

現段階での日本では、例えカジノが出来たとしても、その一番敵対するものは”外為法”なのだ。

そこが論議されているのだろうか?

否、カジノに限った話ではない。国を跨ぐこのグローバルな時代、まことやっかいな問題となっていて政府の言う“成長戦略”の足をグイグイ引っ張っているのはこの現在の外為法である事は間違いない。

従って筆者はこの日本で進んでいるカジノは結果的にいつもの”ハコモノ行政”と呼ばれているものに帰結する事は明らかだと思っている。

問題は『何を作るか?』と言う事では無く、『どうやって持続的に回転させるのか?』と言う事がポイントだと考える。

先日、五年ぶりに帰国した(これは2014年当時の話)。二年前にも一度戻ったが60時間程度で帰ってしまったので、帰国したうちに入れていない。

久々の日本は清潔で静かで、しかし活気の無い、物価の極端に安い、それでありながらクオリティの高い、なんだか相反する事ばかりが存在する国だった。

これだけ物価が安いとさぞ住みやすいだろうと考えたが、案外そうでは無いらしい。

税金は高いわ、問題は山積みだわと人々は口にする。そこに建つビルや道路を見ると世界トップレベルのクオリティだと言う事は一目でわかる。

この素晴らしきホスピタリティ(国のインフラをあえてそう呼ぶ)と、物価の安さ(何をしてもマカオの半額位の感覚)、しかし不満の多い生活のしづらさ。

“カネが回っていない”のだと感じた。カネは市場に出ている。が、回らないのである。

回らないと言う事は、どこかに関所かダムか壁がある。一般的な日本人の給与所得に比べるとマカオのそれは月平均10万円ほど低いのではないか?と、思う。しかも物価高のマカオである。

しかしマカオの場合、もらった給与はそのほとんど(ほぼ100%近く)が自分のお金である。友人である日本人の金融アドバイザーに聞くと、日本人の場合、一年間の所得は9カ月で計算しないとならないと言う。各種租税や社会保障費の支払い等である。

ここがダムか関所か壁になっているのではないか?と、思う。

計算してみよう。

マカオ人の月給、女性/事務職/30歳、月給2万MOP=約27万3160円-15MOP/約204円(社会保障基金)×12カ月=約327万5472円(年収)

日本人の場合、単純計算だが月給の額面が30万円として諸々の租税/社会保障などを払って×9カ月として270万円となる。

月額で2万6000円以上多く貰っていて(つまり年間で32万円以上多く得ている)も、最後に清算するとほぼ57万円も低くなってしまっている。

これはもしかしたら…と言う言い方になるが、精神的な負担を感じやすい状況にもつながっていて、それが社会の閉塞感、強いて話を飛躍させると、どう考えても怪しいセミナーや、ありえない投資話に大勢の若者やお年寄りが吸い寄せられている遠因にもなっているのではないか?と言う気がしてならない。

社会保障における予算の使用目的や状況はいまさら語るべくもないが、受けられる保証やサービスに大差ないとすると、これは一体なんなのか?と言う言葉も出てくるのも無理はない。

マカオでは公立病院での出産は無料。子供の医療費は無料。重病などの場合はまた割合に応じて有料になる。公立校が無いのに、全てに政府からの補助が出ているから学校も基本無料。これらの予算は当然ながら税収で賄っており、その大半はカジノから、と言う事である。そう考えると、たしかにマカオはカジノで市政が上手に機能している事が証明されている。

しかし、では例えばこれをそのまま東京に当て嵌めたらどうだろうか?

お台場にカジノが出来る。都民の所得・住民税に加え、そこにある企業の法人税が無料になる。保険料もいらない。

しかし今までと同じサービスを受けられる。

あり得ますか?

私はあり得ないと思う。

日本から見たら、この天国の様なマカオのシステムは、それが機能する適正なスケール(サイズ)があると言う仮説が立てられる。

カジノがあり、それで生き続けられている国や地域。マカオ、シンガポール、モナコ…。

◯◯年開業!と言う初めに結論ありきでは無く、それがあって“何”が“どうなる”のか?をもっと掘り下げて考えていってもバチは当たるまい。

■筆者プロフィール:澤野勝治

1964年生まれ。1983年に音楽制作プロダクション、1994年制作プロダクションを設立。大手広告代理店の協力会社として中国モータースポーツに関わる。上海の台湾系レース会社で働いた後、マカオへ移住し結婚。レーシングサービス会社と一般ビジネスのサポート会社を設立。中国をはじめとするアジア圏での日系自動車メーカーのリサーチや日本車の現地適合テスト等も請負う。中華圏で最初のF1チーム・セオドールレーシング(1977-1983年)のセカンドジェネレーションチームを2013年に立ち上げ現在に至る。現在は新世代ゲームのプロジェクトに参画し、マカオ・台湾・日本での共同プロジェクトのオーガナイズをメーンに各種コンサルティング業務を展開している。

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