<コラム>中度渇水レベルの中国、血液透析の廃水事情

内藤 康行    2018年8月2日(木) 0時50分

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中国水利部の統計によると、2016年の中国水資源総量は3.2兆トン、1人平均水資源量は2347.53トン、すでに中度の渇水レベルに接近している。写真は中国の病院での透析。

中国水利部の統計によると、2016年の中国水資源総量は3.2兆トン、1人平均水資源量は2347.53トン、すでに中度の渇水レベルに接近している。加えて中国の水資源分布が不均衡で、長江流域や以南地区の水資源量は全国の81%を占める。淮河流域及び以北地区の水資源量は全国水資源総量の19%に満たない。水資源枯渇問題の解決には持続可能な重複利用や節水が不可欠だ。

「2016年都市建設統計年鑑」によれば、2016年の中国都市総用水量は489.9億トン、この内公共サービス用水が81.5億トンとなっている。各地の医療用水定額と国家衛生&計画生育委員の統計では、病院件数から試算した、公共サービス用水中、医療機関の年間用水量は37.3億トンで、公共サービス用水総量の46%を占めている。水消費量は公共サービス用水の半分に当たり、大量の水資源を消費している。血液透析(HD:hemodialysis)は医療機関で最も水消費が多い治療過程である。1回の治療で300~600リットルの水と、7~19キロワット/時の電力が消費される。疾病患者の急増で、透析治療は生態と経済に大きな影響を与え、加えて環境資源負担を増大させている。

最新の米国腎臓データシステム年次データ報告では、2016年の米国透析治療患者は46.8万人、米国連邦医療保険(Medicare)登録されている透析施設は約6886件、年間淡水需要量は5億トンとしている。オーストラリアの透析用水生産で廃水される量は約4億トン。モロッコでは年間血液透析淡水用量は1.9億トンに達する。地球人口の増加により、2025年には透析患者は約400万人に達し、透析治療の大量治療用水のため、2025年に2000万トンの用水が消費されると予測されている。

血液透析時、500~600ミリリットル/分の透析液流量運転の血液透析設備に対し、透析治療用水は30リットル/時が必要となる。一般患者の透析時間は4時間とし1回の透析用水は約120リットル。患者1人当たり一回の透析需要純水は約500リットルでこのための用水設備が要る。すなわち、わずか25%程度の水しか有效利用されていない。これは、透析治療一回で約380リットルが廃水になってしまうことを意味する。

【中国の透析治療用水の概况】

中国では透析水の回収利用の事例はほとんど無く、透析水再利用への関心度は極めて低い。絶対多数の医療機関では透析水設備過程で発生する逆浸透濃縮水はすべて廃水として排出されているが、この廃水水質は飲用水基準を満たしている。

関連データから計算すると、患者一人の1回透析治療で120リットルの純水と約500リットルの用水設備が必要で、医療機関で行われる各種治療の中で水消費最大なのが透析治療である。中国研究データサービスプラットホーム(CNRDS)の統計では、中国の血液透析患者は2016年時に447万人に達し、各患者の透析頻度を4時間/回、3回/週で試算すると、透析による用水消費量は一人当たり約72トン/年となる。では2016年の血液透析患者人数で試算すると、毎年透析用水消費総量は3218万トン/年となり、廃水排出量は年間約2446万トンに達する。しかし現在中国ではこの廃水回収利用は重視されておらず、今後、透析用水は節水推進と逆浸透による廃水再利用へ広がる方向にあると推測できる。

【透析廃水再利用】

透析廃水再利用には、「逆浸透廃水再利用」と「透析廃水再利用」があるが、透析廃水再利用は国際的な論争となっており、透析廃水は透析治療の産物として非常に高リスクな水源と見なされ、感染リスクも高い。このため現在、中国では透析の節水促進を検討しており透析廃水再利用検討はしないとしている。

一方、透析過程で発生する逆浸透廃水の水質は比較的良好で、法律上では飲用はできないが、EU飲用水基準を満足している。逆浸透廃水は患者との接触が無いため感染リスクは存在しない。

【節水・廃水再利用による経済利益】

2016年時の血液透析患者数で試算すると、医療機関で透析による年間用水消費総量は1336万トン、血液透析で逆浸透廃水量は約561万トンが発生する。仮にこの廃水を再利用できれば、年間逆浸透廃水量が占める医療用水の0.15%だが、これを北京非住民水道価格9元/トンで計算すると、毎年の財政支出5049万元(約8.3億円)を節約できる計算になる。

【チャイナ・ウォーター・リサーチ(CWR)私見】

膜技術利用(RO/NF膜)の新たな進展分野として医療機関の廃水処理と透析廃水需要が注目されると予測する。

■筆者プロフィール:内藤康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般とそれに関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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