<コラム>ニュース中国語事始め=言葉から読み解く中国の宗教事情

如月隼人    2020年10月26日(月) 23時50分

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宗教に関係する「ニュース中国語」をご紹介しましょう。「中国当局は宗教を弾圧している」といった指摘もありますが、本稿では関連する言葉の紹介に特化します。写真は中国のイスラム教徒向けの飲食店。

今回は、宗教に関係する「ニュース中国語」をご紹介しましょう。「中国当局は宗教を弾圧している」といった指摘もありますが、本稿では関連する言葉の紹介に特化します。

中国語でも「宗教」は<宗教(zong1jiao4)>です。日本の「信仰」は、宗教を信じる場合に使うことばですが、中国語の<信仰(xin4yang3)>は対象が宗教でない場合にも使います。<信仰伊斯蘭教(xin4yang3 yi1si1lan2jiao4)>だったら「イスラム教を信仰する」で、<信仰馬列主義(xin4yang3 ma3lie4 zhu3yi4)>だったら「マルクスレーニン主義を信奉する」のように訳します。

<信心(xin4xin1)>は宗教とはむしろ関係なく「自信、信念、確信」といった日本語に対応します。<実現全年目標任務的堅定信心(shi2xian4 quan2nian2 mu4biao1 ren4wu4 de0 jian1ding4 xin4xin1)>(通年の目標任務を達成する確固たる信念)のような具合です。

それでは、個別の宗派に関する用語をご紹介しましょう。本稿では、「世界三大宗教」などとも呼ばれる、仏教、キリスト教、イスラム教の関連用語を紹介します。

まず<仏教(fo2jiao4)>です。中国は「簡体字」を導入したわけですが、<仏>の字は旧字体が用いられていることにご注意ください。日本の方が漢字の省略化が進んだ、やや珍しい例です。<仏>の本来の字義は「ぼんやりしてよく見えない」で、「勿」、「忽」「没」と同系統の言葉とされます。

仏教の「寺院」は<寺廟(si4miao4)>です。<寺>の古い字義は「手足を動かして働くこと」で、後に「様々な業務を司る役所」の意味が派生しました。漢代に西域から来た僧侶を、外国からの使節を接待して朝貢などの儀礼を管理した鴻臚寺と呼ばれた役所兼施設に宿泊させたために、僧侶が滞在する施設を「寺」と呼ぶようになったとされます。仏教が中国に伝来したのは紀元1世紀ごろでした。漢字文化がすでに確立された後だったので、基本用語でも「当て字」が使われるようになったわけです。

日本語で「和尚さん」と言えば、僧侶に対する親しみを込めた通称のニュアンスですが、中国語の<和尚(he2shang0)>を日本語に訳す場合には、「僧侶」といった固い語にした方が妥当である場合が多くあります。

その他に<僧人(seng2ren2)>という単語もあります。女性の出家者、つまり「尼さん」は<尼姑(ni2gu1)>です。日本では「住職」、あるいは大きな寺院なら「管長」などと呼ばれる寺の“トップ”は<方丈(fang1zhang0)>と呼ばれています。本来は、僧侶が居住する小さな部屋の呼称でした。

キリスト教関連の用語については、ちょっと複雑な面があります。日本語の「キリスト教」は、宗派を問わずキリスト教全般を指す言葉ですが、中国語の<基督教(ji1du1jiao4)>は、いわゆるプロテスタント諸派を指す場合に使います。「カトリック」は<天主教(tian1zhu3jiao4)>です。

キリスト教にはギリシャやアナトリア、東ヨーロッパに広がった「東方教会」と呼ばれる諸派もあます。中国語では<東方基督教(dong1fang1 ji1du1jiao4)>などと呼ばれており、<俄羅斯正教会(e2luo2si1 zheng4jiao4hui4)>(ロシア正教会>はその一つです。

キリスト教と言われて、まず思い出す言葉は「イエス・キリスト」ではないでしょうか。「イエス」は個人名であり中国語では<耶稣(ye1su1)>、「キリスト」は救世主を意味するギリシャ語に由来する言葉で、中国語では<基督(ji1du1)>です。

「神」は、<基督教>の場合には<上帝(shang4di4)>または<神(shen2)>の訳語を使い、<天主教>の場合には<天主>の語を使うのが一般的です。

キリスト教の信仰でとりわけ重要なのが「父と子と聖霊の三位一体」と呼ばれる神の理解といいます。中国語でも「聖霊」は<聖霊(sheng4ling2)>、「三位一体」は<三位一体(san1wei4 yi1ti3)>と日本語と同様。ただし、<聖霊>の簡体字は<聖>も<霊>も日本の漢字と形が大きく違います。

キリスト教の三大行事は<聖誕節(sheng4dan4 jie2)>(クリスマス)、<復活節(fu4huo2 jie2)>(イースター)、<五旬節(wu3xun2 jie2)>(ペンテコステ、聖霊降臨祭)です。西洋由来の祭りとして日本でも有名な<情人節(qing2ren2jie2)>(バレンタイン・デー)や<万聖夜(wan4sheng4ye4)>(ハロウィン)はキリスト教の三大行事には含まれないそうです。

聖職者の名称としては、カトリックやロシア正教会の<祭司(ji4si1)>(司祭)、<神父(shen2fu4)>、プロテスタントの<牧師(mu4shi1)>などがあります。中国語では<神父>を<神甫(shen2fu0)>とも書きます。

次に、イスラム教についてご紹介しましょう。中国にイスラム教が伝わった経路には、シルクロードを伝わった内陸の道、その後に発達した船舶利用の交易に伴う海の道などがあります。また元代には、銀や金の産地だった雲南省に、シルクロード出身の鉱山技術者が移住させられたとされています。彼らの多くはイスラム教徒だったと考えてよいでしょう。雲南省は現在も、イスラム教徒が比較的多く住む地域です。

イスラム教の信者が多い民族としては<回族(hui2 zu2)>、ウイグル族<維吾爾族 wei2wu2er3 zu2>、カザフ族<哈薩克族 ha1sa4ke4 zu2>などがあります。<回族>の<回>とは、イスラム教を<回教(hui2jiao4)>などとも呼んだことにちなむのですが、宗教名として現在は、ほとんどの場合<伊斯蘭教(yi1si1lan2 jiao4)>の呼称を使います。

イスラム教信者は<穆斯林 mu4si1lin2>と呼ばれ、最も重要な経典とされるコーランは<古蘭経(gu3lan2jing1)>、神の呼称である「アラー」は<安拉(an1la1)>です。また、礼拝堂である「モスク」は<清真寺(qing1zhen1si4)>と呼ばれます。

<清真>とは、イスラム法で許された行為や食材や料理などを示す「ハラール」の中国語訳です。中国では<清真食品(qing1zhen1 shi2pin3)>(ハラールに則って提供される食品)、<清真餐庁(qing1zhen1cang1ting1)>(イスラム教徒が食べられる料理を提供する飲食店)といった使われ方もします。

イスラム教徒が1カ月に渡り日中の飲食を断つ「ラマダン」は<齋戒月(zhai1jie4yue4)>、一生に一度は聖地であるメッカを巡礼する「ハッジ」は<朝覲(chao2jin4)>です。<朝覲>の原義は「諸侯が天子に拝謁すること」です。

「聖戦」とも紹介される「ジハド」は、中国語では<吉哈徳(ji2ha1de2)>と音訳しています。ただし、「ジハド」は原語のアラビア語では「ある目的のための努力」などを意味するそうで、中国当局はエジプトなどの宗教専門家の発言なども紹介して、「ジハド」は本来、内面における信仰の努力を意味する言葉で、<聖戦(sheng4zhan4)>すなわち武装闘争に結びつけることはイスラム教理解として間違っていると強調しています。

そして、いわゆるイスラム教過激派が起こすテロ事件などについては「聖戦と称した」などと論じ、イスラム教の本来の考え方の説明としては<吉哈徳>と、用語を使い分けています。

直接の宗教用語ではありませんが、中国の報道ではイスラム教過激派のテロに関連する用語として、<恐怖主義(kong3bu4 zhu3yi4)>(テロリズム)、<恐怖分子(kong3bu4 fen1zi3)>(テロリスト)、<極端主義(ji2duan1 zhu3yi4)>(原理主義、または過激主義)、<反恐(fan3kong3)>(反テロリズム)、国連にも「テロ組織」に指定されている<東突厥斯坦伊斯蘭運動(dong1 tu1jue2si1tan3 yi1si1lan2 yun4dong4)>(東トルキスタンイスラム運動、ETIM、中国語略称は<東伊運>)などの用語がよく用いられます。

中国中央政府で全国の宗教関係の行政をしている部門が<国家宗教事務局(guo2jia1 zong1jiao4 shi4wu4 ju2)>です。この組織ですが、かつては<国務院(guo2wu4yuan4)>すなわち中国中央政府の一部門でしたが、2018年の構造改革で、中国共産党の<中央統一戦線工作部(zhong1yang1 tong3yi1 zhan4xian4 gong1zuo4 bu4)>の一部門になり、形式的にだけ国務院の一部門として残すことになりました。

ここに出てきた<事務>ですが、日本語の「事務」には、書類や帳簿の作成などのデスクワークのイメージがありますが、中国語の<事務>は「実務」や「業務」全体を指す言葉です。

例えば、<国際事務(guo2ji4 shi4wu4)>と言ったら、国と国の交渉や取り決め全般を指します。日本語ならば「国際政治」や「国際実務」に相当する言葉です。また<香港事務(xiang1gang3 shi4wu4)>のようにも使います。日本語にしづらいのですが、「香港問題」あるいは「香港の行政」のように訳すことが多いようです。

また、<工作>という言葉も日本語の「工作」とは異なります。日本語で「工作員」には「諜報活動など秘密裏の活動をする人」という意味もありますが、中国語の<工作>にそのようなニュアンスはなく「仕事」「作業」です。

●ピンインの表記について:本コラムでは中国語を日本語の常用漢字の字体で表示しています。ピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします。 u の上に2つの点を添えるピンインには v を用います(例:・東西 dong1xi0、・婦女 fu4nv3)

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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