日本僑報社 2018年1月14日(日) 13時50分
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中国人民大学で日本語を学ぶ金昭延さんが出会ったのは少し意外な人だったようだ。資料写真。
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自分を変えた出会いは誰しもが持っているだろう。しかし、中国人民大学で日本語を学ぶ金昭延さんが出会ったのは少し意外な人だったようだ。以下は金さんの作文。
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大学2年生になる前の夏休み、ある先生に出会って、私は変わり始めた。村内先生、私に光と希望をくれた先生である。
以前の私はずっと一人ぼっちだった。「ねぇねぇ、あの子ってさ、勉強ばっかりしてんじゃない?『ある意味で』すごいね」「あれじゃ、本の虫だよ」。中学の時からよく言われた言葉だ。そう、私は勉強しかしていなかった。子どもの頃から入試に追われ、両親にも先生にも「今、勉強しなければ将来困るぞ」「とにかく今は勉強に集中しろ」などと言われ、苦しんでいた。
もちろん、私だってテストでいい点数を取るだけの勉強マシーンになりたかったわけではない。でも、子どもの私は大人のプレッシャーには勝てなかった。気がつけば私は、流行には全然関心がなくなり、周りの人にどう話しかけたらいいのかも分からなくなっていた。大学に入ってからも、周りからの印象はただ「冷たい」だけ。皆の輪に入りたいのに、どうしてできないんだろう。もう嫌だ。そんな自己嫌悪に陥るのを避けるために、さらに勉強に取り組んだ。勉強は努力すればそれなりの成果が出て、絶対裏切らない。だから安心できたのだ。名門大学に合格した代償に、私は寂しくておかしくなってしまいそうだった。
そんな私を救ってくださったのは村内先生だった。吃音持ちの村内先生は、つっかえつっかえに、こうおっしゃった。「先生は、一人ぼっちの、子の、そばにいる、もう一人の、一人ぼっちになりたいんだ。だから、先生は、先生をやってるんだ」「一人ぼっちが二人いれば、それはもう、一人ぼっちじゃないんじゃないか」。先生は難しい言葉など使わなかった。道理も説かなかった。ただ、目の前にいる一人ぼっちを励ますために必死に言葉を紡いでくださった。その真摯な姿に私は感動した。
次の学期に私はクラスのグループワークで周りに話しかけてみた。以前は皆の意見に従うだけだったが、今度は自分の意見も言ってみた。「珍しいね、金さんがしゃべるなんて」。そう言われてちょっと寂しかった。でも、村内先生だって教壇に立ってがんばっているのだ。ぎこちなくてもいいから、私もとにかく続けてみようと思った。そしてしばらくすると、違和感も減り、グループワークが面白いなと思いはじめた。初めは真面目に討論していただけのメンバーとも、いつの間にか楽しくおしゃべりするようになっていた。週末には彼女たちとカラオケや映画にも行った。まるで小学校のころに戻ったような気分だった。久しぶりだな、この気持ち。一生かかっても取り戻せないと思ってたのに。
季節は12月に入った。日本語学科では毎年、先生方や留学生を100人以上招待して忘年会を行う。その一大イベントで、私は勇気を出して司会に挑戦した。以前の私からは想像もできない挑戦、未知の世界だった。当日は自分が何を言ったのかもわからないほど緊張していた。しかし、あちこちから「金さん、がんばれ!」「すごい!アナウンサーみたい!」といった声が聞こえた。半年前には誰も話しかけてくれなかったのに、今は皆に囲まれて、応援され、祝福されている。私は嬉しくて恥ずかしくて、思わず手を顔につけた。久しぶりに自分の素肌に触れたような気がした。私はもう一人ぼっちじゃない。
村内先生に会えてよかった。ぜひ先生に「ありがとうございます。友達ができました」と笑顔で報告したい……のだが実は、先生に直接会うことはできない。というのも、村内先生は私が初めて日本語で読みきった重松清の『青い鳥』という小説の登場人物だからだ。でも、村内先生は私の心の中に確かに存在している。村内先生は私にとって、日本語を勉強したからこそ出会えた、そして、私を変えてくれた大切な恩師なのだ。私はきっと忘れないだろう、村内先生が「もう一人の一人ぼっち」として私を支えてくださったあの夏の日を。(編集/北田)
※本文は、第十二回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「訪日中国人『爆買い』以外にできること」(段躍中編、日本僑報社、2016年)より、金昭延さん(中国人民大学)の作品「私を支えてくれた、もう一人の一人ぼっち」を編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
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