【週末美術館】書のような絵画

抽象水墨の画家・閻秉会(イエン・ビンフイ)は、大胆なまでに簡潔にまとめられた力強い画風の作品が国内外で高い評価を呼んでいる。自身が書家や詩人としても活動していることもあり、その作品には時に文字要素が組み合わされ、また、描画手法自体が書道の影響を大々的に受けたユニークなものである。

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中国の大手ポータルサイト・TOMオンラインが開設するアート専門版では、01年に掲載したコラムで、閻秉会の作品を以下のように読み解いている。「非常に単純な画面構成が、強烈なアイキャッチ効果を生み出している。これは、作家が作品に求めているものが豊富な情報量ではなく、精神的な力感と重厚感であることを示しており、それはまるで冥府に差し込む一条の光のようである。また、たっぷりの墨汁が形成するぼってりと重々しいマッス(塊)は、作品を抽象表現の世界に導いているが、同時に、これは伝統的かつ正統な描画法とも一衣帯水の関係を呈している。なぜならば、閻の描画技法は、書道に着想したことが多分に伺えるからである。その“書道的”な筆づかいが生み出すスピード感やランダム性、偶発的要素は、80年代に勃興した技術至上主義の実験水墨画とは一線を画すものである。伝統とは一見かけ離れた『抽象水墨』の世界に身をおきながらも、閻は民族の伝統や東洋文化に対し、かくも愛情を持ち、故に、西洋的な視点で評論を試みても、彼の作品世界は適切に評論することができないのである。」さらに、その内的世界について、著名な現代美術評論家の栗憲庭(リ・シェンティン)氏は「緩慢なストロークが生み出す重々しく、枯れた筆致は、彼の内側に眠る生の実感―それは焦慮や渇望などである―を表出している」としている。

形而上絵画の創始者である20世紀の画家、ジョルジョ・デ・キリコは「すべての絵画というものは、その外的イメージには表出しない(内在的な)特性を表現していなければならない」としている。天津美術学院美術史論科の葉春輝(イエ・チュンフイ)氏はこれを受け、閻の水墨画がまさに、これを体現しているとしている。素朴な描画法や精錬された記号的な表現手法が内包する深遠な哲学的思考、一言では概括し得ぬ悟りの境地。我々がよく知る水墨画に備わった流麗さや軽妙さ、また湿り気を帯びた幽玄さとは無縁だが、毛羽立つような乾いた筆致の中に、脈々と受け継がれてきた中国画の伝統が確かに息づいているのである。(文/山上仁奈)

●閻秉会（イエン・ビンフイ）

中国の画家、書家、詩人。1956年生まれ、天津市出身。天津美術学院国画学部卒業。著名画家の王学仲、孫其峰などに師事し、伝統的な中国画を学ぶ。現在は天津美術学院で教鞭を執る。画家の活動としては抽象水墨や山水画が特に有名で、書の手法を取り入れた大胆なまでに簡潔にまとめられた力強い画風の水墨画は国内外で高い評価を得ている。

※週末美術館では、中華圏のアーティストを中心に日本や世界各地の写真作品、美術作品、書道作品など様々なジャンルの作品をご紹介していきます。

写真提供：匯泰国際文化発展有限公司（中国・天津）