【週末美術館】フィンガープリント

Record China    2008年11月15日(土) 16時4分

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現代中国の抽象芸術に広く影響した「極多主義」における連続・反復の手法を用い、実験的創作を試みてきた水墨画家の張羽。ついには「創作」のプロセスそのものを作品として昇華することに成功した。そこには、作家が創作の過程で体感した情感の流動が現れている。

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水墨画という限られたフィールドの中で長らく実験的創作を試みてきた画家の張羽(ジャン・ユー)。水墨画家でありながら具象物を描かず、中国の現代アートらしい極多主義的な創作を続けてきたこの作家は、ついには「創作」という行為そのものを作品として昇華することに成功した。

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現代中国における抽象芸術を代表するムーブメントとして「極多主義(マキシマリズム)」がある。これは、60年代のアメリカで発生した「ミニマリズム(必要最小限のフォルムやモチーフで表現を試みる)」に影響を受けながら、それに逆流するように生まれたムーブメントである。あるモチーフを連続、重複、あるいは反復させるという手法で、それは無限に続く創作行為を想起させる。もともと張羽はこの極多主義の影響を受けながら、02年以降、水墨画の世界を打ち破り、さまざまな素材やメディアを駆使した実験的創作を試みる。その末にたどりついたのが「フィンガープリント(指印)」という作品だ。

顔料を指にとり、それを画紙に押しつける。この単純動作を延々と繰り返す。何度も押しつけるうち、顔料は薄れていく。再び指に顔料をつける。こうして濃淡が生まれ、無作為に指を動かした結果、ある場所は指紋が密集し、ある場所には隙間が生まれる。無数の指紋に、ひとつとして同じものはない。「人文芸術」編集長・査常平(チャー・チャンピン)氏はこれを評して、「そこには具体的な、あるいは物的なメッセージは見られないが、作家が製作の過程で体感した情感の流動が現れている。絵筆を捨て、自らの指で替えたことで、画面全体を内在的な生命力で覆うことに成功したのである」としている。

しかし、この作品はそれだけでは完成していない。その制作のプロセスを克明に記録した映像こそが、この作品の本体である。まっさらな画紙はひとつひとつ、忍耐強く、一途に、無心に、時には偏執的に、指紋を刻印していく。それは気の遠くなるような作業だ。しかし、一晩降りしきった雪が翌朝には一面の銀世界をつくるように、ついには画面が埋め尽くされる。画面からは作家の念や情が溢れ出さんばかりで、押し寄せる波のように見る者を圧倒する。(文/山上仁奈)

●張羽(ジャン・ユー)

中国の現代水墨画家。1959年生まれ、天津出身。字は郁人、号は石雨。1988年、天津工芸美術学院卒業。天津楊柳青画社などで編集を担当した後、現在は中国天津交通職業学院副教授、北京電影学院・新メディア学科客員教授を務める。国家2級美術師の称号を持つ。水墨画と現代アートを融合させた実験的作品の創作を続けており、新たなジャンルとして確立した「実験水墨」の代表作家のひとりである。指につけた顔料を画紙にひたすら押し付けた「フィンガープリント(指印)」、宙に浮かんだ円や破れた方形が印象的な宗教的作品「霊光」シリーズなどが特に有名。

※週末美術館では、中華圏のアーティストを中心に日本や世界各地の写真作品、美術作品、書道作品など様々なジャンルの作品をご紹介していきます。

写真提供:匯泰国際文化発展有限公司(中国・天津)

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