<コラム>中国で経済一人負けの遼寧省、きっかけは意外なあの事件だった?

浦上 早苗    2017年12月12日(火) 23時10分

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今年の中国のGDP成長率は6.8%になる見込みで、2016年の6.7%を上回る可能性が高い。ただし、遼寧省を中心に、黒竜江省、吉林省の東北三省の経済はふるわない。写真は中国東北部最大の経済都市大連市。筆者提供。

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今年の中国のGDP成長率は6.8%になる見込みで、2016年の6.7%を上回る可能性が高い。昨年後半以降、中国メディアでも中国バブル崩壊、経済失速を懸念する記事が多く出たが、いい意味で予測は裏切られた。

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ただし、遼寧省を中心に、黒竜江省、吉林省の東北三省の経済はふるわない。遼寧省の2016年の経済成長率は全国で唯一マイナスとなり、今年1〜9月は多少回復したものの、2.5%の伸びにとどまっている。ハイテク企業が成長する南部に比べ、重厚長大型産業からの構造転換が遅れていることが東北部の経済不振の原因とされている。

東北部の経済停滞に加え、日本企業にとっては円安、現地従業員の人件費上昇などさらなる逆風もある。遼寧省最大の経済都市・大連には日本企業や日本関連の仕事が多いため、現地在住の日本人の間でも数年前から不景気ぶりが話題になっていた。

ある大学の日本語学科教授は、20数年前に上海の大学院を卒業、東北部の別の都市で数年働いた後に大連に移り住んだ。彼女は当時を振り返り、「大連は中国全体の中でも急成長していて、特に日本語人材にとっては一番いい場所のように思えた」と話す。今は、「学生の就職はないことはないが、北京や上海に比べると、業務や昇進の機会が限定され、給料も少ない。けれど学生も保守化していて、条件が悪くても大連にとどまることを選ぶ」という。

この教授の夫は、数年前から中国南部の海南島に単身赴任し、不動産開発に従事している。不動産バブルで次から次に新プロジェクトが持ち上がり、当初2年の予定だった海南島勤務は3年目に入っている。

大連でも地下鉄が開通し、大型ショッピングセンターが次々にできているため、外側からは不景気を感じにくい。けれど、その経済圏で働く人々は一様に経済の悪さを指摘する。

なぜ遼寧省の経済が中国で突出して振るわないのか、メディアや関係者がさまざまな要因を挙げる中、イタリアのチョコレートメーカーの中国法人で働く男性は、「薄熙来が失脚してから悪くなった」と断言した。

大連市、重慶市トップを歴任し、中国共産党トップの座をうかがっていた薄熙来氏は、習近平氏が共産党主席に就任した2012年、汚職で失脚。翌2013年に無期懲役の判決が確定した。

習近平総書記の「反腐敗運動」の最初のターゲットとなった薄熙来氏だが、市民からの人気は今も根強い。この男性も、「大連市民はみんな彼が好きだった」と強調した。

実際、大連は薄熙来氏が指揮を執っていた時代に大きく成長した。外資導入を積極的に進め、多くの日本や欧米企業を誘致、産業と雇用を生み出した。薄熙来氏の失脚で、彼と関係の深い大連大企業の幹部も一掃され、解体に追い込まれた企業さえあった。失脚当時の大連市トップは薄熙来派と目されていた。

「薄熙来が潰され、大連の経済は後ろ盾を失い失速した」というのが、男性の見方だ。時期は確かに一致している。私は2010年に大連の大学に博士留学したが、大学を決めた理由は、地元の経済関係者から「薄熙来氏と関係が深いから、勢いがある」と推薦されたことだった。日本人としては、1人の政治家が人口600万人の都市の景気を左右するとはちょっと信じがたいが、薄熙来氏が生んだ成長が、同氏の失脚とともに止まったと考えている市民は、少なくないのかもしれない。

■筆者プロフィール:浦上早苗

大卒後、地方新聞社に12年半勤務。国費留学生として中国・大連に留学し、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のメディア・ニュース翻訳に従事。日本人役としての映画出演やマナー講師の経験も持つ。

■筆者プロフィール:浦上 早苗

1974年生まれ、福岡市出身。早稲田大学政治経済学部卒業、九州大学大学院経済学府修了。大卒後、地方新聞社に12年半勤務。その後息子を連れ、国費留学生として大連に博士課程留学…するも、修了の見通しが立たず、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のニュース翻訳に従事。頼まれて映画に日本人役として出たり、マナー講師をしてみたり、中国人社会の中で、「日本人ならできるだろ」という無茶な依頼に、怒ったりあきれたりしながら付き合っています。マスコミ業界の片隅に身を置いている経験から、日米中のマスから見た中国社会と、私の小さな目から見たそれの違いを少しでもお伝えできれば幸いです。

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