<コラム>日中餃子論考(1/2)=大阪・高槻のうどんギョーザは「餃子一族」と言えるのか

如月隼人    2018年3月16日(金) 19時0分

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大阪府高槻市の「うどんギョーザ」を紹介する記事を読んだ(産経WEST、2月21日付)。さて、このうどんギョーザを「餃子の一種」と考えてよいのだろうか。写真は中国の水餃子。

大阪府高槻市の「うどんギョーザ」を紹介する記事を読んだ(産経WEST、2月21日付)。ギョーザと言えば、起源は中国。日中のギョーザは後述のように、実物も「概念」も違いがいろいろあるのだが、小麦粉で作った皮で、餡(具材)を包む点は共通だ。

ところが、「うどんギョーザ」は皮を使っていない。それでも「餃子一族」の一員と言えるのか。まずはそのあたりを考えたい。なお、日本のメディアは「ギョーザ」との表記をすることになっているが、本稿では中国の餃子を含めて考える。そのため、「ギョーザ」と「餃子」の表記を適宜使い分ける。

▼大阪高槻市のご当地グルメ「うどんギョーザ」

さて、うどんギョーザに「皮」はない。うどんを細かく切ってひき肉などの具材と混ぜて焼く。1970年代に高槻市北部の主婦らの口コミで広がったのだが、だれが発案者であるのかは、同市住人だったのかどうかも含め分からないという。

2017年に遼寧省・瀋陽市で開かれた日本の“ご当地グルメ”を紹介する「日中国交正常化45周年×B−1グランプリ2017in中国瀋陽」でも大好評だったそうだ。「ギョーザ発祥の国」でも認められたことを、お祝いしたい。

作り方はそれほど難しくなさそうなので、私も是非、近いうちに自己流ではあるが作ってみたいと思う。しかし、うどんギョーザを「餃子一族」と考えてよいのかどうかという問題は、解決しておかねばならない。いや、そもそも「餃子」とは何なのか。

▼餃子とは何なのか、鍵となるのは「餃」の文字だ

鍵となるのは「餃」の文字だろう。さっそく調べてみた。私が愛用する学研漢和大辞典は「水あめ、ひねりあめ」を本義としてあり、文字の成り立ちは「食」+「交(=ひねりあわす)」としている。その上で、「俗義」として「小麦粉の薄い皮で肉・野菜を刻んだ餡を包んだ食べ物。ぎょうざ」「皮の合わせ目を交差させひねってある」との説明がある。

学研漢和大辞典の説明から判断すれば、「餃」の原義は「ひめりあめ」で、皮にする小麦粉の生地をひねって合わせるのでギョーザには「餃」の文字が使われたことになる。とすれば、うどんギョーザは「餃子の一種」と言えないことになる。

しかしまだ安心はできない。漢字や単語の語源については諸説があることも珍しくないからだ。そこで、中国の商務印書館が発行した「辞源」を確認してみた。すると「1.飴 2.餡がある半円形の小麦粉食品」と書いていた。学研漢和大辞典とは違い、本義や俗義の区別はつけていない。しかしいずれにせよ、餃子は小麦粉食品であり、餡を包んでいなければならないことになる。ここに至り、うどんギョーザの地位問題はますます怪しくなってきた。

▼台湾で出版された書物には別の説が

ところが、台湾商務印書館が発行した「民俗文化中的語言奇趣(民俗文化中の言葉の奇趣)」には、また別の説が紹介されていた。

同書は餃子をまず、「中国の北部住民が最も愛する食品のひとつ」「新年には必ず必要な食品」と紹介。さらに、餃子は古く「歳更交子」と呼ばれていたと論を進めた。「交」の文字の使用については、1日の時間を12に分割する「十二時辰」法に関係しているとの主張だ。現代の言い方を援用して「十二時辰」を説明すれば、24時間である1日を、それぞれ2時間の幅を持つ、子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)などに12分割する方法だ。

現代の時間法ともうひとつ違う点がある。現在は午前0時を起点にして、午後1時になる前を「午前0時台」などと考えるが、「十二時辰」では日付が変わる「ジャスト子の刻」を中心として、前後それぞれ1時間を「子の時間帯」と考えるという。

つまり「子の時間帯」は新旧の日付が交差する時間帯だ。そして、年越しの夜の「子の時間帯」には新年と旧年が交差することになる。そこで人々は年越しを象徴する食べ物を「歳更交子」あるいは簡単に「交子」と呼び、後代になってから食べ物であることをはっきりさせるため「餃子」と書くようになったという。

▼日本のギョーザが「餃子一族」の一員とするなら、うどんギョーザも認めてよいかも。この説によれば、「餃子」の本質は「年越しの食べ物」であり、皮で餡を包んであるかどうかは、語義とは関係ないことになる。さて、うどんギョーザのことを改めて考える。もちろん、年越しの風習とは特に関係ない食べ物だ。では、うどんギョーザを「餃子一族」として認めるのはやはり困難なのか。

いや、そうとも言えない。まず、うどんギョーザで注目されているのは「皮で包んでいないのに、皮で包む手間がいらないのに、ギョーザと同じ味を楽しめる」ことだそうだ。そもそも日本人にとってギョーザは年越しとは関係ない食べ物だ。そんな日本のギョーザを「餃子一族」の一員として認めるなら、うどんギョーザも「遠い先祖は中国の餃子。味もほぼ同じ」ということで、一族に迎え入れることが許されるのではないだろうか。

▼食べ残しの水餃子を再加熱するために焼き餃子が発生

日本でもよく知られているが、中国の餃子は水餃子が基本だ。そして「餃子の本場」である中国北部では、冬になると日中でも気温が氷点下であることが普通だ。年越しの際などに家族総出で餃子を作り、ゆで残した分があればそのまま袋にでも入れて窓にぶら下げて置くなどすればよい。屋外は天然の冷凍庫だ。翌日になり改めてゆでれば、前日とほとんど同じ味を楽しむことができる。

困ってしまうのが、いったんゆでた餃子を食べ残してしまった場合だ。再びゆでたのでは皮がすぐに破れてしまう。今なら電子レンジを使えばよいわけだが、かつては存在しなかった「文明の利器」だ。そこで、再加熱の際には油で炒めてしまう。日本にはこちらの食べ方が伝わったとされる。

もっとも、中国に焼き餃子がないわけではない。焼き餃子は「鍋貼(グゥオティエ)」と呼ばれる。だが日本のギョーザと違って、皮できちんと包まず、餡を円筒形にくるむ程度の場合も珍しくない。

このあたり、中国から日本への文化の伝搬の様相を考える上で、おもしろいところだ。日本人はどちらかというと、学んだ物事をできるだけそのまま残そうという意識が強い。一方の中国人は、その時点、その時点で「よい工夫」があれば、どんどん取り入れる。古い方法が消えてしまうことも珍しくない。

ギョーザ以外の飲食物の例としては、「茶」があるだろう。日本では古い時代に伝わった抹茶が、今でも愛好されている。その後に伝わった煎茶も広まったが、抹茶は抹茶として残した。一方の中国で抹茶は廃れてしまった。考えてみれば、近代化以前の長い歴史を通じて日本は中国の「弟子」だった。「弟子であるからには、先生から教わったことはきちんと伝えねばならない」との意識が働くのだろうか。

日本人はいずれにせよ、伝統や伝承を途絶えさせてしまうことを忌避する感覚が強いと言えるだろう。一方の中国人は、「もっとよい」と思えるものが出現すれば、古いものを捨てることに、あまり抵抗感がないようだ。

さて、改めて焼き餃子のことだ。日本人は「餡をしっかり包む」ことを律儀に続けている。中国では「ゆでるのではないのだから、厳密に包む必要はない。簡単に作れる方がよい」との発想が優勢だったようだ。もっとも、肉汁を逃がさないという点では、日本の焼きギョーザに軍配を上げたいところだ。

▼中国で餃子は主食の扱い、日本の「餃子定食」に違和感を覚える中国人

再び水餃子の話だ。日本の焼きギョーザよりも皮がかなり厚い。これは、薄い皮だと茹でる際に破けやすいという理由があるとされる。さらに、皮が厚い、つまり使う小麦粉の分量が多いということに関係しているが、中国では餃子が主食と考えられている。

もっと正確にご紹介すれば、中国の餃子は「おかずなしでもOKである主食」と言えばよいだろうか。日本で言えば、ラーメンやチャーハンに相当する食べ物ということになる。いくつかの料理を味わってから、「シメにしよう」とギョーザをいただくことは、中国人にとって違和感のない食べ方だ。その一方で、米飯を主食、ギョーザをおかずとする日本風の「ギョーザ定食」は中国人にとってかなり異様に思える食べ方であるようだ。

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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