<直言!日本と世界の未来>中国の科学技術の進歩に驚く、日本はどのように対応すべきか?―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2017年11月19日(日) 7時53分

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中国は世界に先駆けてキャッシュレス社会を実現させたと言われているが、人工知能やロボットなど世界的に注目を集める次世代産業でも、中国の存在感が急激に増している。日本企業は中国の知的人材の存在を十分念頭に置きながら、中国との新たな関係を築いていく必要がある。

中国では大都市だけでなく内陸部でも、スマホ一台さえあれば、交通でも、食事でも、どんな支払いも簡単にできてしまう。物乞いの人たちにとってもスマホがをかざして入金してもらわざるを得なく、スマホが必需品というから驚きである。中国は世界に先駆けてキャッシュレス社会を実現させたと言われているが、人工知能(AI)やロボット、フィンテック(金融技術)、医療ヘルスケアなど世界的に注目を集める次世代産業でも、中国の存在感が急激に増していると聞く。AI関連の特許出願数では、米国は首位を守っているが、伸び率では中国勢が凌駕、世界の主導権を握りつつあるという。

世界の自動車メーカーやグーグルアップルなどが覇を競う自動走行分野で、IT大手の百度(バイドゥ)は自動走行車のプラットフォームを、各国の大手自動車メーカーに公開した。世界中を走る自動車から走行データを吸い上げることで自社のAI開発を強化するのが狙いとか。

医療ヘルスケア分野でも中国ではすでにこの分野のベンチャー企業が100社以上誕生、その多くは医療情報のビッグデータを利用したものだ。ウェアラブル端末では血圧や体温、血糖値、睡眠時間などがクラウド上で共有され、スマホにフィードバックされる。また各患者のカルテや体内検査CT・MRI画像などをビッグデータ化し、治療に役立てるシステムも開発されている。

中国のネット利用者数は2010年以降急増、現在9億人近くにに達している。中国は断トツの世界最大の電子商取引(EC)市場で、全世界のオンライン販売の4割近くを占めている。アリババのプラットフォーム上の取引だけで昨年に総額5000億ドル(約57兆円)に達し、アマゾンと米イーベイの取引額合計を上回っている。

中国では優秀な人材は起業を目指し、1日1万6千人が起業するとのニュースには驚かざるを得ない。中国では。中国の官民は産業構造の「イノベーション」を目標に掲げ、政府が巨額の補助金を支給するなど総力を挙げている。ドローンや教育用ロボット、3Dプリンター などの世界先端企業が目白押し。特に深センは充実したサプライチェーン、人材、工場の集積などの強みを生かして、世界の工場からアジアの開発拠点へと変貌を遂げつつある。「アジアのシリコンバレー」と言われてきたが、起業家数やIT企業の集積数などで既に“本家”を凌駕したとされる。

情報家電、燃料電池、AI(人工知能)ロボット、ソフトコンテンツなどを日本が世界に誇れる先端的産業群として強化すべきだ。ナノテク、バイオ、IT(情報技術)、環境などの技術革新は日本の強みである。今後の課題は、日本の優位な技術分野を戦略的に拡充し、日本発のグローバルビジネスモデルとして早期に育て上げていくことだ。

その戦略のコアになるのが「人材」であり、人材をつくり、育てるのが教育である。国際競争力の基盤をつくる「教育」への情熱こそが、日本が競争力を回復する鍵である。日本も産官学連携の下、国家レベルで人学改革や人材育成を進めなければ、中国に後れを取ることは確実だ。国も企業も「人づくり」を急がねばならない時期に来ている。

私はかつて数十回にわたり中国の大学で講演を行ってきたが、印象深かったのは、中国人の高い学習意欲と教育に対する情熱である。最近の中国の大学は、国家の発展に向け、研究・教育体制の充実はもちろん、国内外を問わず産業界との連携とベンチャー企業の育成に大変積極的だ。こうした環境の中、中国では優秀な人材が多数輩出され、中国における高等教育機関の在学者数は、驚異的なペースで増加、2000万人以上に達している。

しかも中国人の若者は基本的に欧米の一流大学(大学院)に留学し、多くが首席を取り、留学後帰国せず、その地で事業を起こして成功し、実績を持って帰国し、中国の発展に貢献するケースが目立つという。

一方、日本の在学者数は約300万人程度で、絶対数で圧倒的に中国が勝っている。しかも日本は少子化のため18歳人口が激減しており、在学者が今後さらに減少していくのは確実である。我々は、中国で今後ますます増加する高度な知的労働力こそ、中国の本当の強さであることを認識すべきである。

日本企業は中国のこうした知的人材の存在を十分念頭に置きながら、中国との新たな関係を築いていく必要がある。絶対数で中国の足元にも及ばないものの、日本がグローバル競争に臨むには、生産性を高め、高付加価値化で勝負することが必要だ。日本が国際競争力を維持していくには、日本でしか作れないモノや領域を常に開拓する必要がある。そして、技術的に絶えず世界で先行することが大切である。

それには海外の高度技術人材を大量に受け入れる必要があると考える。幸い日本企業は欧米も含め多くが海外に出ているので、日系企業の海外支社や生産拠点で働く外国人社員の優秀な子弟を、日本への留学を推進する施策を官民で導入することも対応策になる。まずわが国政府が彼らを受け入れる制度を作り、推し進めて行くことが一つの解決策となると思う。

このほど中国家電大手の海信(ハイセンス)が東芝のテレビ事業を買収すると発表されたばかり。シャープはじめ他の大手電機メーカーの本体もしくは白物・パソコン分野が中国・台湾系企業の傘下入りケースも目立つ。こうした趨勢を押しとどめるためには、技術教育面でのさらなる高度化と強化が不可欠であろう。

<直言篇29>

立石信雄(たていし・のぶお)

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC=企業市民協議会)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。公益財団法人・藤原歌劇団・日本オペラ振興会常務理事。エッセイスト。

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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