<点描・北京五輪>朝倉浩之の眼・歓喜、そして悲劇…陸上「中国オープン」が最終日迎える

Record China    2008年5月29日(木) 13時11分

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4日間にわたって行われた陸上の五輪テスト大会「中国オープン」も今日が最終日。北京五輪の舞台となる国家体育場で、さまざまな思いを持つ選手たちが五輪前哨戦を戦った。写真は25日の女子5000m決勝。

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4日間にわたって行われた陸上の五輪テスト大会「中国オープン」も今日が最終日。北京五輪の舞台となる国家体育場で、さまざまな思いを持つ選手たちが五輪前哨戦を戦った。

主役はなんと言っても劉翔だった。当初予選でレーンの状況を確かめるだけかと思われていたが、準決勝と決勝、3レースを戦い、2階席まで埋めた観客の期待に応えた。

テスト大会とはいえ、これだけのプレッシャーを受けながら、きちっと勝ってくるところはさすがだと思った。

ちなみに、劉翔は準決勝と決勝、いずれもフライングをやった。

本人の話によると、一回目は「会場の雰囲気を高めるために故意に」、二回目は“わざと”ではなく、「スターター(中国人)のタイミングが国際大会と異なったから」ということだ。

だがコーチの話によると、「フライングをしたあとの緊張状態を体験しておくため」2回とも“わざと”だったはず、と分析した。世界の先頭を走り続けるアジアのハードル王…“テスト”の内容も並みではない。

四川大地震に遭遇しながら、今大会に出場した四川勢の頑張りぶりは印象に残った。特に、素晴らしかったのは、最終日に行われた男子400mリレーでは、四川省代表の最終走者のイン・フアロンが、遠く前を走っていた日本のアンカー朝原を怒涛の勢いで追い上げ、50m付近で競り、最後の1mで交わして優勝を果たした。

試合後、彼は「僕は四川代表。その思いが最後の1mで頑張れた」と興奮気味に語った。四川省の陸上代表の合宿所は、地震の震源地に非常に近いところにあり、少なからぬ影響があった。

幸い、大きなけが人はなかったものの、その10日後に元気に鳥の巣に登場し、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたアスリートたちに拍手を送りたい。

日本勢でいえば、何と言っても女子400mリレーの日本代表(石田、信岡、福島、高橋)だろう。予選では43秒67の日本新をマーク。この時点で、20位だった世界ランクが17位まで上がり、上位16チームに与えられる五輪出場権にあと一歩のところまできた。

全選手がリレーの練習に全精力を注いできて臨んだ今大会。「バトンの精度を上げれば…」と挑んだ25日の決勝では44秒11と目標としていた43秒5台に遠く及ばなかった。

レース後は悔しさを隠せなかったメンバーだが、「チャンスがある限り、(五輪出場は)諦めない」と気持ちを新たにしていた。

同じ「残念」組でも、中国陸上の第1人者、孫英傑にとっては本当に辛い大会となった。

昨年10月にドーピング違反による2年間の出場停止処分が終わった孫英傑は、マラソンでの五輪出場を目指したが、選考大会でブレーキとなり、出場を断念。トラックに切り替えてトレーニングを重ね、今大会は5000mに出場した。

だが、予選は思ったような記録を出せず、五輪標準記録にも到達できなかったため、陸上協会は「出場は無理」と通告。かつての「長距離の天才少女」は祖国での大舞台を踏むことを諦めざるを得なかった。

それでも25日行われた5000m決勝には出場。鳥の巣を埋めた大観衆の声援を受ける孫英傑は16分48秒37。レース後は目に涙を浮かべながら、記者のインタビューに答えていた。

自己ベストから程遠く、その走りには、かつてのような力強さはなかった。

本来ならば、劉翔と並んで、「夏の主役」となるはずだった孫英傑。「ドーピング問題」や「体罰問題」で訴訟も起き、さまざまなドタバタに巻き込まれた「悲劇のヒロイン」は、レース後、悔しさをにじませながら、「五輪の舞台」から去っていった。

<注:この文章は筆者の承諾を得て個人ブログから転載したものです>

■筆者プロフィール:朝倉浩之

奈良県出身。同志社大学卒業後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中国国際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。

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