愛奇芸リストラの衝撃、音楽は好調、映像はさっぱり=配信アプリ明暗分かれるもテンセントは盤石

高野悠介    2021年12月29日(水) 22時50分

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中国のネット配信サービス界は、欧米勢のいない独自の世界を作り上げた。そこでは、どのような世界が展開され、今後はどうなっていくのだろうか。写真はテンセント本社。

中国のネット配信サービス界は、欧米勢のいない独自の世界を作り上げた。そこでは、どのような世界が展開され、今後はどうなっていくのだろうか。

中国では、動画配信サービスのAmazon Prime Video、Netflix、Disney+、音楽配信ではApple Music Spotify、YouTube Musicなどの世界的プラットフォームは当局によってブロックされている。国内プラットフォーム同士の厳しい競争が続いている中、最近になって、さまざまなニュースが伝えられた。それらを取り上げつつ、近未来を見通してみたい。

■動画配信サービス…愛奇芸リストラ、騰訊視頻も赤字

主要メンバーは、ユーザー数順に、愛奇芸(百度系)、騰訊視頻(テンセント系)、優酷アリババ系)芒果TV、bilibiliである。これらが5大プラットフォームとされている。中でも愛奇芸と騰訊視頻が2トップだ。2021年8月のアクティブユーザー数は6億人弱で拮抗している。これは全アプリ中の7位と8位にあたる。

12月上旬、愛奇芸のリストラが伝えられ、衝撃が走った。愛奇芸は2011年スタート、2018年には米国ナスダック市場に上場を果たした。業界トップランナーに君臨していたが、今回、全従業員7721人のうち、20~40%、1544~3088人を整理するという。愛奇芸研究院、愛奇芸遊戯センターなど、後方部門は全員、経費の高いマーケティング、広告、他社との提携などの部門では30~50%が対象となる。しかしVRなど有望部門は現状を維持する。最新の2021年第3四半期決算では、売り上げは前年比6%増の76億元、純損失は17億元で前年比5億元の拡大だった。赤字が続き、資本市場からの理解も得られないため、強力なリストラは避けられなかった。

これに対し騰訊視頻は、IT巨頭・騰訊(テンセント)の1部門である。テンセントは2021年4月、プラットフォーム&コンテンツ事業群の中に、OVB(On-line Video Business Unit)グループを設立した。ここで、騰訊視頻、微視(ショートビデオ)、応用宝(アプリ管理)を一括管理する。2021年第3四半期決算によれば、騰訊視頻の有料会員数1億2900万人、前年比8%増とある。騰訊視頻だけの損益はわからないが、2019年の損失は30億元という推測記事が出ていた。これが本当なら、愛奇芸と大差ない。しかし騰訊としては、プラットフォーム&コンテンツ事業群トータルで辻褄が会えばよく、実際、利益を計上している。このグループ力が愛奇芸との違いである。今後、動画配信2トップのパワーバランスは騰訊視頻に傾きそうだ。

アリババ系はどうだろうか。アリババ系「優酷」の月間アクティブユーザー数は2億弱、2トップの3分の1に過ぎない。しかしこれでも2021年3月期(2020年4月~2021年3月)を通じて35%増やした。しかし最近は、話題に上ることもなく、存在感は希薄だ。

■音楽配信サービス…網易云音楽の上場、騰訊音楽は黒字

主要メンバーは、騰訊音楽(テンセント系)、網易云音楽(ネットイース系)、蝦米音楽(アリババ系)、太合音楽(百度系)である。4大音楽プラットフォームと呼ばれていたが、昨年以降、再編期に入った。

業界トップは騰訊音楽だ。「酷狗音楽」「QQ音楽」「酷我音楽」「全民K歌」という4つの音楽プラットフォームを持つ。2016年、テンセントと中国音楽集団のデジタル音楽部門を統合して誕生した。順調に成長し、2018年12月には米国ナスダック市場へ上場。2020年の市場シェアは73%と圧倒的だ。2020年度決算は、売り上げ291億5000万元、純利益49億5000万元としっかり黒字を出している。

2位は網易云音楽、シェアは23%である。12月上旬、香港市場へ上場した。その記念式典をメタバースで行い話題となった。網易云音楽は2013年スタート、2019年にはアリババが出資した。2020年の決算は、売り上げ48億9600万元、純利益15億7000万元の赤字。騰訊音楽に比べ、売り上げは6分の1にすぎず、黒字化もまだだ。社交機能を強化して、差別化を目指す。

アリババ系の「蝦米音楽」は2021年2月、業務調整のためサービスを停止した。そして9月、アリババ系チケットサービス「大麦」は、「蝦米音楽娯楽」ブランドの成立を発表した。コンテンツ、シーン、ミュージシャンに焦点を当てていく。さらに知覚、聴覚、インタラクション(相互作用)の3部門において、技術的ブレークスルーを達成しているという。アリババ音楽事業の調整はまだ続いている。

残る1つ「太合音楽」は、音楽著作権の管理会社という方向性とみられる。2018年に抖音(TikTok)、2020年3月にアリババ、2021年8月に華為(ファーウエイ)に保有版権の使用権を認めた。

■テンセントがアリババを圧倒

音楽は好調だが、映像はさっぱりもうからないと総括できそうだが、目立つのはテンセントの強さである。テンセントはゲームを創業事業として発展した。そのためエンタメにかける情熱はすさまじく、この分野ではアリババを寄せ付けない。

アリババは、2009年にクラウドコンピューティング子会社「阿里雲」を立ち上げた。それに対し、テンセントは本体で「テンセントクラウド」を運営している。実はこのクラウドでもエンタメ業界を支配している。業界事情通によれば、テンセントクラウドは、国内音楽企業の90%以上、トップクラスゲーム企業の80%以上が利用しているという。コンテンツ制作企業(日本企業を含む)は、テンセントをもうけさせることになる。ライバルとはなり得ないのだ。12月中旬、テンセントクラウドジャパンは、メタバース関連のウェビナーを開き、オンラインオーディオ、映像の技術革新を丁寧に解説した。日本市場にも本腰を入れ始めたようだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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