<コラム>上野の赤ちゃんパンダを「シャンシャン」と命名…うれしい話題だが気になることも

如月隼人    2017年9月27日(水) 17時0分

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上野動物園で6月11日に生まれたメスのパンダが「シャンシャン(香香)」と命名された。楽しい話題ではあるが、ちょっと気になることがある。カナ表記についての違和感だ。資料写真。

上野動物園で6月11日に生まれたメスのパンダが「シャンシャン(香香)」と命名された。楽しい話題ではあるが、ちょっと気になることがある。カナ表記についての違和感だ。

語学では「二重母音」などという用語がある。「アウ」とか「イエ」という連続する母音だ。言語により二重母音の感覚には「得意・不得意」があるようだ。

例えば英語は二重母音の感覚が強く、日本語は弱い。だから、Boat(ボウト=船、小舟)の発音にあるのが二重母音の「オウ」であって、Buy(買う)の過去形・過去分詞形のBoughtの発音が「ボート」という長母音であることを判別させることが、学校などにおける英語の試験の問題にもなる。もちろんこれは、日本語・英語の言語としての優劣とは何の関係もない。

ちなみに、ドイツ語は二重母音の感覚について英語よりも日本語に近いのかもしれない。「o」の発音は英語の「オウ」とは違って「オー」だ。英語と比べれば長母音の使用が多いように感じる。

中国語(普通話=中国語標準語)はどうなのか。日本語とは異なり二重母音と長母音を区別する感覚が強い。これが、中国語を学び始めたばかりの日本人にとっての、発音のポイントのひとつになっている。

中国語で感謝を示す言葉は「謝謝」。「シェーシェー」と聞き及んでいる日本人も多いだろう。中国語の実際の発音は違う。あえてカナで表記すれば「シエシエ」となるだろうか。母音部分は「イエ」だ。「イ」の発音をした上で「エ」に移行せねばならない。

話を戻そう。上野で生まれたパンダの名を「香香」とするなら、そのローマ字表記は「xiangxiang」であり、カナ表記ならば「シャンシャン」ではなく「シアンシアン」となるはずだ。テレビを見ていたら、選考委員のひとりが「シャンシャン」だと手拍子を打つ感じもして、楽しい感じもするといった意味のことを話していた。やはり、違和感を感じてしまう。本来の発音の「シアンシアン」では、手拍子にならない。

中国語のカナ表記で違和感を覚えることは、これまでもあった。中国のある有名企業の社名に、ローマ字表記ならば「hua」という部分があるのだが、同社の日本法人名はその部分をカナ表記で「ファー」としている。「hua」のカナ表記なら通常は「ホア」となるはずだ。日本人の多くは「ファー」と書くと「fa」の音を想像してしまうのではないか。

日本では、中国語を学ぶ人も増えている。きちんと指導を受けていれば、学び始めて日が浅い人でも二重母音と長母音の違いにはかなり敏感になっているはずだ。パンダの命名についても、「香香」を「シャンシャン」とカナ表記したのでは、違和感を持つだろう。

中国からパンダの貸与をうけることについては、政治的色彩を感じて異議を唱える人もいるだろうが、ここでは赤ちゃんパンダの誕生と成長は「おめでたい事」としておく。だったら、命名についても違和感を持つ人は少ない方がよいのではないか。

中国語をカナ表記する場合には日本語として違和感ない書き方にすることが最優先されるだろう。しかしそれでも、固有名詞を扱う場合には特に、中国語の専門家の意見を参考にして、中国語の発音と比較してできるだけ問題のないようにした方がよいと思うのだが、どうだろう。

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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