<直言!日本と世界の未来>国際紛争、あくまでも外交努力が先決=世界主要国の軍事費を分析して分かったこと―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2017年9月10日(日) 5時0分

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北朝鮮が核・ミサイル開発を続ける中で、東アジアの安保環境は悪化しており、防衛装備を積極的に拡充するのはある程度やむを得ない。ただ財政赤字が続く中で、経済浮揚、公共投資、教育、福祉など国民の生活向上に回すお金が圧迫され続けるのも、由々しいことである。

2018年度の日本の防衛費が過去最大を更新する見通しである。防衛省がまとめた概算要求総額(米軍再編経費を含む)は、17年度予算比で2.5%増の5兆2551億円だった。バブル経済の崩壊後、減少傾向にあった防衛費は、自公政権に戻った13年度以降、一転して増え始め、16年度に初めて5兆円の大台に乗った。

北朝鮮が核・ミサイル開発を続ける中で、日本を取り巻く東アジアの安保環境は悪化しており、防衛装備を積極的に拡充するのはある程度やむを得ない。ただ財政赤字が続く中で、経済浮揚、公共投資、教育、福祉など国民の生活向上に回すお金が圧迫され続けるのも、由々しいことである。

そこで世界各国の軍事予算の中での日本の位置付けを調べてみた。この分野で最も権威があるとされるストックホルム国際平和研究所の最新リポート(2017年4月)によると、2016年の世界全体における軍事費総額は1兆6866億米ドル=約183兆円)。最大の軍事予算支出国は米国で、6112億ドル=約62兆円(2012年6848億ドル)で、世界全体の36.3%を米国が占めている。

2番目に多いのは中国で2152億ドル=約23兆円(同1574億ドル)で全体の12.8%。3位はロシアの692億ドル=約7兆5000億円(同815億ドル)が続く。以下サウジアラビアの637億ドル=約7兆円(同565億ドル)、インドの559億ドル=約6兆円(同472億ドル)、フランスの557億ドル=約6兆円(同600億ドル)、英国483億ドル=約5兆3000億円(585億ドル)、日本461億ドル=約5兆円(600億ドル)、ドイツ411億ドル=約4兆5000億円(465億ドル)、韓国368億ドル=約4兆円(同326億ドル)の順。残念ながら北朝鮮の軍事費は不明である。

単純な軍事費の多寡で軍事力の大小が推し量れるわけではないが、やはり米中両国の軍事力の大きさが改めて認識できる。それと、冷戦時代はアメリカ合衆国と肩を並べる形で軍拡を進めていたソ連(実質的に今のロシア)の軍事費が落ち込んでいることに、改めて驚く。日本はこの統計では8位に位置しており、軍事強国の仲間入りをしていると言えそうだ。

軍事支出の比較は単純な絶対額だけでなく、その国の実情に考慮すべきだとの考えが有力である。そこで各国のGDP(IMF発表)と比較してみた。かつて日本で「防衛費GNP1%以内」が指標とされたが、GNP1%枠はすでに撤廃されている。

米国が軍事費で突出している米国だが、GDP比では5年前に4.2%だった米国は16年には3.3%まで縮小。ロシアは4.0%から5.3%まで拡大。中国は1.9%で5年間横ばい。日本もほぼ1.0%で維持されている。

中国の大幅な軍拡は、GDPの急拡大が背景だ。軍事費そのものも大きく増大しているが、GDPも同時に成長しているため、対GDP比はそれほど増加していない。概して先進諸国が軍縮、新興国が軍拡の方向に向かっているようだ。

これは地域紛争が多発しているからであろう。今回は北朝鮮が世界に脅威を与えている。その結果、軍需産業が恩恵を受けていることは憂慮すべきことである。

私は、軍拡競争を抑止して、経済再建、国民の福祉教育の向上に軍事予算を回すべきだと思う。北朝鮮の核・ミサイル開発は言語道断だが、軍事力で対抗するのは抑制した方がいい。あくまでも外交的な手段で地域紛争を解決していただきたいと祈るような気持でいる。

<直言篇20>

立石信雄(たていし・しのぶお)

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC=企業市民協議会)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。公益財団法人・藤原歌劇団・日本オペラ振興会常務理事。エッセイスト。

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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