高野悠介 2020年12月1日(火) 16時20分
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新零售の実態とは何だろうか。中商産業研究院の最新報告から、現状と将来について探ってみよう。写真は中国のスーパー。
“新零售”(ニューリテール)という概念は、2016年に登場した。提唱したのはアリババ創業者のジャック・マー前会長である。京東の創業者・劉強東CEOも“無界零售”を提唱したが、定着したのは新零售の方だった。両者の影響力の差が如実に現れた。それはともかく、新零售の実態とは何だろうか。中商産業研究院の最新報告から、現状と将来について探ってみよう。
■新零售とは何か
・新零售は、すでにネット辞書に掲載されている。
新零售とは、ビッグデータ、AI等の先進技術手段を用い、商品の生産、流通過程をアップグレードし、業態とエコシステムの刷新を重ね、オンラインサービスとオフライン店での購買体験、及び現代物流を高度に融合させた新しい小売モデル、とある。わかりにくいが、最終的にオンラインとオフラインを融合させ、どこにいても同レベルのサービス提供を目指すことである。
これをサプライチェーンから見ると、“データ駆動型”小売形態といえる。大量のデータが、人、モノ、場所、3者の関係を、否応なく再構築していくのだ。
■コロナ禍が後押し?
・コロナ禍は、販売チャンネルに大きな変化をもたらした。
中国は2013年以来、世界最大のネット通販市場となった。2020年の上半期、ネット通販売上は5兆1501億元、前年比7.3%増加し、小売総額に占める比率は25.2%となった。ちなみに日本は6.76%(2019年)に過ぎない。中国のネット通販ユーザー規模は2020年6月現在、7億4900万人、3月に比べ3912万人も増加した。防疫体制がユーザーを大きく底上げしたのは、間違いない。(1元=15.82円)
防疫期間中の生鮮食品のケースを見てみよう。(複数選択)
・伝統的農貿市場(小出店者の集合)58.5%→30.6%
・食品スーパー 48.4%→45.7%
・総合スーパー 49.1%→53.2%
・生鮮ネット通販 15.5%→33.1%
・社区コミュニティ生鮮店 21.8%→41.0%
・社区共同購入 2.0%→11.9%
生鮮ネット通販と社区団購が最も伸びている。いずれも新零售に大きく関わる販売チャンネルだ。以下、この2つを分析していこう。
■生鮮電商(ネット通販)の分析
生鮮電商は、意欲的な事業者の登場が相次ぐ、成長市場。
若者層の消費習慣変化、低温物流技術の進化により、生鮮食品の新零售は新しい局面を迎えている。2019年の生鮮ネット通販売上は3225億元、前年比49.4%の大幅増だった。2020年は4600億元を見込まれている。近年、オンラインで生鮮を販売する特色ある業態が、次々に登場している。
アリババ系…盒馬生鮮、安鮮達、天猫生鮮、易果生鮮、大潤発優鮮
京東系…京東到家、7fresh、永輝超市、ウォルマート中国
テンセント系…毎日優鮮、永輝超市、超級物種、愛鮮峰鮮
美団系…小象生鮮、掌魚生鮮、愛鮮峰鮮
百度系…百優品、中粮我買網
店舗を持つ持たないなど、形態は千差万別で非常に興味深い。ただし主要プレイヤーは、上記の通り、大手の系列下にある。ネットインフラとビッグデータが不可欠なのだ。
■社区団購(Community group buying)の分析
・社区団購は、無数に存在可能な業態。
2020年の上半期は、直播電商(ライブコマース)の大ブームが起こった。その影に隠れていたが、社区団購も進化を遂げていた。社区団購とは、コミュニティ居住者グループによる共同消費行動を指す。そしてショップ側はコミュニティに対し、共同購入への優待活動を行う。これを大規模に行う形態を社交電商といい「拼多多」「聚美優品」などが全国大手である。社区団購はもっと小型で、最有力の「十薈団」は全国100都市の展開だ。一方、地元商品だけでOKなら、SNS(WeChat)と有力な団長(リーダー)さえそろえば、即開業可能な業態でもある。全国にいくつあるか、正確なデータはとても把握できないだろう。
防疫期間中は、その社区団購が 2.0%から11.9%へと大幅に増加した。都市封鎖された武漢の湖北省だけでなく、江蘇省、山東省、黒竜江省などで大きく伸びている。武漢市でのシェアは41%にも及んだ。野菜5.9万トン、鮮魚4000トン、たまご4000トンを供給、一時的ながら、ライフラインと化し、有用性を証明した。
■新物流と連携
ジャック・マーは、新零售の他に、新制造、新金融、新技術、新資源の計5つの概念を提唱した。この中で新零售と最も親和性の高いのは、新物流だろう。その要は、“物流前置”つまり注文前の商品を、予測に基づき最も近い倉庫へ前もって配置することにある。そして豊富、正確、新鮮、敏捷の各テーマの下、ラストワンマイルの配送効率を高める。
天猫超市、毎日優鮮は、展開都市全域で1時間以内配送、盒馬生鮮は、店舗周辺3キロ以内の範囲に5000SKUの商品を即時配送する。超級物種、7freshも3キロ以内である。どの企業も、より正確に配達可能な範囲設定による、即時性の向上を目指している。これらのデータ蓄積が、消費者体験の向上、ひいては新零售の魔法の杖となるという。
■まとめ
実質新零售元年の2017年、新零售の市場規模は389億元だった。それが2022年には、1兆8000億元を突破すると見られている。新零售は、ネット通販の再構築や、社区団購などにより、新たな発展の原動力を獲得し続けている。直近では“新制造”の一種といえるC2M(Customer-to-Manufacturer)モデルとの連携が、もう1つの焦点だ。中国の新零售は上半期、次々に新機軸を打ち出していた。どこまで変化するのか、しっかり見極めたい。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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