八牧浩行 2017年6月21日(水) 5時20分
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東アジアで地政学的地殻変動が起きている。米中は7月にかけ首脳会談をはじめとする高レベル対話を重ねる予定。日米で「一帯一路(海と陸のシルクロード)」やインフラ投資銀行(AIIB)への加盟機運も高まっている。資料写真。
東アジアで地政学的地殻変動が起きている。4 月のトランプ大統領と習近平国家主席による首脳会談で、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮核開発抑止を“触媒”に「ディール(取引)」が成立。米中は7月にかけ首脳会談をはじめとする高レベル対話を重ねる予定だ。中国は北朝鮮の非核化へ制裁強化で協力。米国は対中経済要求を緩和し、中国主導の経済圏構想「一帯一路(海と陸のシルクロード)」やインフラ投資銀行(AIIB)加盟機運が高まっている。この米国情報を受け、日本でも「バスに乗り遅れるな」と加盟を求める動きも出てきた。韓国では9年ぶりに誕生した革新系の文在寅政権が誕生、南北融和に舵が切られる可能性もある。
◆「一帯一路」会議に米朝含む130カ国出席
5月14、15の両日、中国が主導し“現代版シルクロード”と呼ばれる「一帯一路」構想の初の国際会議「一帯一路国際協力フォーラム」が中国・北京で開催された。ロシア、イタリア、インドネシア、フィリピンなど29か国の首脳と米国、北朝鮮を含む130以上の国から代表団、合わせて1500人以上が参加。一国が呼びかけた国際会議としては、異例の規模となった。
「一帯一路」は習主席が2013年に提唱した構想で、中国からアジアを通ってヨーロッパまでつながる“陸の道”と南シナ海からインド洋を経て紅海、地中海を通る“海の道”で、大々的にインフラを整備し、交易のルートをつくる計画。習主席は「一帯一路は時代の流れと発展に適応し各国人民の利益にかなうものだ」と豪語、関係諸国と中国の双方に経済発展をもたらすと訴えた。しかし、「中国にとっての経済的メリットを追求したもので、国際的な影響力を高めるのが狙いではないか」(会議出席者)と警戒する声が根強いのも事実で、透明性が求められる。
◆日本「米国に出し抜かれる」懸念
一帯一路構想国際会議に米国代表団を率いて参加したポッティンジャー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は、同構想を歓迎すると述べ、米国企業が価値の高いサービスを提供できると表明。米国企業などが「一帯一路作業部会」を立ち上げることを明らかにした。
自民党の二階俊博幹事長は経団連の榊原定征会長らと共に一帯一路国際会議に出席し、AIIBについて「参加をどれだけ早い段階に決断するか、ということになってくる」と言明、日本の早期参加が必要との考えを示した。AIIBには既に80 カ国・地域が加盟。ADBの67を大きく上回っている。さらに多くの国が加盟を希望しており、100カ国を突破する勢いだ。主要7カ国(G7)でAIIBに加盟していないのは日米だけ。安倍晋三首相は「疑問点が解消されれば(参加を)前向きに考えていく。米国とも緊密に連携していきたい」と述べ、米国の出方を注視する意向を表明。日本には「米国に出し抜かれる」(財界首脳)との懸念が高まっている。
二階幹事長はこの会議出席後、北京の釣魚台迎賓館で習近平国家主席と会談。二階氏は「習主席をはじめとしてハイレベルの方に来てほしい」と中国首脳の来日を要請し、習氏は「検討したい」と応じた。習氏は会談で「両国が歩み寄って妨害を排除し、中日関係を正しい方向に向けて発展させていきたい」と言明。二階氏は日中首脳の相互訪問を呼びかける安倍晋三首相の親書を渡し、足踏みが続く日中関係改善への首相の意欲を伝えた。昨年、延期された日本での日中韓首脳会談の早期開催、7月にドイツで開く20カ国・地域(G20)首脳会議の際の日中首脳会談、安倍首相の訪中などの調整も進められる。
一方、AIIBの年次総会が6月16、17日の両日、韓国の済州島で開催された。金立群総裁は記者会見で、未加盟の日本と米国について「我々はこれからもドアを開き続ける」と語り、加盟を促した。出資国の上位に世界経済1、3位の日米が加われば、国際機関としての信用力は増す。金総裁は債券発行の前提となる格付けについて「年内に3つの格付け会社から取得する」との方針を示した。中国系の格付け会社とも協議しているという。
◆9年ぶり革新系韓国大統領、南北対話に意欲
激動の東アジア情勢の中、韓国大統領に9年ぶりに革新系の文氏が就任したことも「アジアの地殻変動」大きな要素となる。早速就任演説で「環境が整えば平壌にも行く」と強調した。南北対話は革新政権の看板政策である。これまで南北首脳会談は2回あり、革新系の金大中、盧武鉉両政権で実現した。文氏は国家情報院長に徐薫・元同院第3次長を指名し、記者会見で「2度の首脳会談全てを企画し、実務協議も担当した。外交ラインと呼吸を合わせ、北の核問題解決などに大きな役割を果たしてくれるだろう」と南北対話実現への貢献に期待している。
北朝鮮問題が影を落とし、日中、日韓、米露関係に見られるように東アジアでは力の均衡、抑止論などの旧来の国家間緊張時代にあるが、今後はウィン・ウィンで共存共栄を追求する国際協調の時代に徐々に向かうのではないか。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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