八牧浩行 2017年5月1日(月) 5時40分
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渡辺頼純・慶大教授が「トランプ政権と通商政策」と題して講演。トランプ大統領の通商政策はTPPからの離脱、WTOの軽視など「多国間協定より二国間取り決め」であると指摘。このままでは中国が米国に代わって貿易秩序の主導者になる可能性があると予想した。
2017年4月27日、国際政治経済に詳しい渡邊頼純・慶大教授が「トランプ政権と通商政策」と題して講演。トランプ大統領の通商政策は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、世界貿易機関(WTO)の軽視など「多国間協定より二国間取り決め」であると指摘。このままでは中国が米国に代わって貿易秩序の主導者になる可能性があると予想。日本企業が東アジアで構築してきた生産ネットワークの維持強化のためには東アジア包括経済連携(RCEP)の推進が重要と提言した。
渡辺教授は外務省出身で、元同省参与。メキシコとの経済連携(EPA)交渉で首席交渉官を務めた。発言要旨は次の通り。
◆トランプ新大統領の通商政策
(1)通商枠組み:マルチ(多国間・複数国間)からバイ(二国間)へのシフト⇒NAFTAの見直しTPPからの離脱、WTO軽視。
(2)自由貿易よりも「公正な貿易」⇒貿易における結果についての「公平さ」、貿易収支の均衡⇒黒字国は「数値目標」を設定し、米国からの輸出を増加させ、米国の赤字を減らす⇒これが実現できない時には米国が輸入制限を行い、貿易収支の均衡を図る(米国通商法301条の考え方)。
◆TPPの地政学的意義は何だったのか?
グローバルな覇権交代期の予兆:ブレトンウッズ体制の変容プロセス⇒相対的に弱体化するアメリカの覇権と問われるルール形成能力⇒不安定性・不確実性への備えとしてのメガFTA。
中国にとっては発展モデル選択の正念場:真の「市場経済国」になるか、このまま「中所得国の罠」にはまるか?カギは国有企業の体質改善、特権はく奪⇒共産党による一党独裁は耐えられるか?
GDP世界第3位の日本は人口減少が続く。「グローバル・パワー」にとどまるのか、それともアジア太平洋地域の「ミドルパワー」に成り下がるのか?⇒TPPや日EU・EPAで生産ネットワークを強化し、国際競争力を強化できれば日本のプレゼンスの維持は可能
◆トランプ大統領誕生と米国のTPP「離脱」
トランプ大統領:「米国はTPPから離脱する」「米国の雇用を増やすような二国間の公平な貿易協定を結ぶ」(二国間主義)、「中国、日本、メキシコとの貿易で米国は損失を被っている」(結果における均衡を目指す相互主義)
「トランポノミクス」=法人税・所得税減税+インフラ投資⇒短期的には株価上昇+ドル高⇒中長期的には財政赤字十経常収支赤字(双子の赤字)⇒高関税+ドル安誘導(「近隣窮乏化政策」)⇒保護主義の蔓延⇒世界経済の分断化・縮小(1930年代の再来か?)
対外投資と生産ネットワークに制限か?
「口先介入」だけでなく、政府の政策として関税賦課などが行われるとWTO協定違反になる。
◆東アジア経済統合の行方- RCEP、日中韓FTA、FTAAP
中国:2つのシナリオ=(1)アメリカに代わって貿易秩序の主導者になる、(2)TPPが立ち消えになったことで中国もFTA推進の誘因を喪失。(1)の場合にはRCEPは前進するが、(2)の場合には中国は「一帯一路」に資源を集中、「中国による中国のための」貿易秩序を構築へ(中国も2国間主義)。
韓国:TPPが頓挫したことでTPP参加のための韓日交渉を急ぐ必要がなくなり、ひと息。韓中FTA、韓米FTAなどで日本を凌駕と自負している。
台湾:FTAAPはアジア太平洋経済協力(APEC)の枠外ということになっているので、TPPがないと台湾の孤立化が進行、韓中FTAのマイナス効果をまともに受ける。
東南アジア諸国連合(ASEAN) : TPP不参加のASEAN加盟国(タイ、インドネシアなど)は現状維持に安堵。
日本:(1)TPPへの米国回帰を模索、(2)米国抜きの「TPP−1」を志向、(3)RCEP・日中韓FTAを推進、これらを同時並行で進め、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構築に貢献、(4)米国との貿易志向のFTAか、それとも「相互主義」か?
◆トランプ政権の通商戦略と日本の対応
TPPから離脱して損するのは米国自身⇒日本としては米国のTPP復帰を周到に準備。「米国抜きのTPP」は輸出の最終仕向け先としての米国が欠落することで所得効果は小さくなるが、非関税障壁については一定の効果がある⇒「TPP−1」を早急に発効させるべく努力。
TPPとRCEPは相互補完的:対外投資ではTPP>RCEP、輸出ではRCEP>TPP ⇒日本企業が東アジアで構築してきた生産ネットワークの維持強化のためにはRCEP推進が重要。旗振り役としての役割が期待される。太平洋同盟(メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ)との包括的経済連携協定の推進や、日EU経済連携協定(EPA)交渉の早期決着を目指すべきだ。
対米投資の継続:現在日本は英国に次いで第2位の対米投資国⇒投資による雇用創出(自動車、自動車部品等)。
対米経済協力の強化:インフラ整備(高速鉄道、耐震性の高い道路ネットワーク、上下水道等)、環境対策(クリーン・エネルギー等)。
◆2017年は多国間貿易体制にとって戦後最大の難関−これをどう乗り越えるか?
二つの「離脱」:英国のEU離脱と米国のTPP離脱。反保護主義の中心だった米英両国が「統合」に後ろ向きになった。「栄光ある孤立」か「新モンロー主義」か?
米国のTPP離脱は、米国議会による「国際貿易機関」(ITO)憲章(1948年)の批准拒否=ITOの挫折に類似⇒ITOがWTO (1995年)として再生するのに約半世紀を要した
1980年代前半の米国の「通商ユニララリズム」(通商法301条による制裁など)をウルグアイ・ラウンド交渉(1986ぐ1994年)で抑止した。対米貿易関係では、WTOルールで摩擦を回避しつつ、日EU・EPA、太平洋同盟との包括的EPA、RCEP ・ 日中韓FTAなどを積極的に進め、保護主義を抑制すべきである。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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