八牧浩行 2017年1月29日(日) 14時20分
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中国経済に詳しい郭四志・帝京大教授が「中国の対外経済戦略」と題して講演。輸出大国・中国は資金を潤沢に保有しているが、ものづくりで優位性を保持していないと指摘。「米国第一主義」のトランプ政権下で中国の対米輸出は減少するが、対米投資は拡大すると予測した。
2016年1月25日、中国・大連出身で同国経済に詳しい郭四志・帝京大教授が日本記者クラブで「中国の対外経済戦略」と題して講演した。輸出大国・中国は資金を潤沢に保有しているが、ものづくりで優位性を保持していないと指摘。「自国第一主義」のトランプ政権下で中国の対米輸出は減少するが、対米投資は拡大すると予測した。
<対外投資・海外進出の展開>
中国は経済成長の減速に伴い、構造的転換を進めている最中だ。対外直接投資やM&Aが急拡大、2015年に米国に次ぎ、世界の第2位の対外投資大国に躍り出た。2010年までの対外投資状況と比べ、これまで対外直接投資は金額だけでなく、構造的に大きく変化してきた。
中国の対外直接投資額(金融を除く)は14年間連続で増加しており、2016年に前年比44%増の1701億ドルと過去最高を記録した。そのうち海外企業の買収は1072億ドルで、63%も占め、前年比96.9%と大幅増。ストックベースで2016年年末時点の対外投資額は1兆2680億ドルに達している。
<投資パターン>
(1)資源開発確保型=石油、金属などの開発。中国はアフリカでは現地政府や住民の支持を得てうまく対応しているが、中南米では嫌がられている。相手国との協調と連帯が必要だ。
(2)市場開拓・効率追求型=鉄鋼や化学など従来からの重厚長大分野で、過剰在庫の調整が課題となっている。
(3)技術・ブランド経営資源獲得型=先進国ハイテク企業のM&Aが急増。16年も、中国企業がイタリアのタイヤメーカーや米GE家電部門、スイス大手製薬会社などが次々に買収された。
(4)金融拠点・不動産・観光レジャー施設開発型=ソフトを中心に有望分野。所得の伸びとともに、消費関連投資が注目されている。
投資パターンを分析すると、途上国地域向けは、主にグリーンフィールド投資(外国に投資をする際に、法人を新しく設立し設備や従業員を確保する手法)である一方、先進国・地域では、ほとんどがM&Aだった。
中国は輸出大国で、資金を潤沢に保有しているが、ものづくりで優位性を保持していない。米フォーチュン誌の16年世界500社ランキングでは中国企業98社が入ったが、大半はエネルギー、電力、銀行、プラント、鉱山、建設で、製造業はレノボ、ファーウェイ、ハイアールなど5社に満たない。もっとマーケット市場とブランド力が必要である。
<「一帯一路」戦略など国家からのサポート>
投資相手国との投資保護協定・二重課税防止、融資信用の保証・優遇金利、首脳外交などを積極的に展開。AIIB(アジアインフラ投資銀行)、BRICS銀行、上海協力機構銀行、シルクロード基金などを駆使している。当該基金の第1号案件として、2015年4月に、パキスタンの水力発電(16億5000万ドル)への投資が決定した。
<主要高速鉄道建設計画>
【ロシア】モスクワ―北京の高速鉄道(中国、カザフスタン、ロシアを結ぶ。全長7000キロで、北京からモスクワまで2日間の行程。総工費1兆5000億元(約29兆円)の予定。
ハンガリーとセルビアの両首都間を結ぶ高速鉄道(350キロ)を中国を含めた3力国の共同建設で合意(13年)
【インド】5本の高速鉄道建設計画に中国企業と日本企業がそれぞれ2本の事業化調査を落札(2013年12月)。南部のチェンナイ、バンガロール、マイソールを結ぶ在来線の高速化と鉄道大学の設立などで合意。
【タイ】インラック政権時代、中国と「米と高速鉄道の取引」案件、失脚の理由に14年11月計画復活、鉄道協力の覚書を調印。バンコクと東北方向のラオス国境都市ノンカイまでの鉄道(時速180キロ)を中国が受注(15年9月、政府間契約、10月末に着工式)、将来の高速化。北は中国、南はシンガポールに接続が可能。
【インドネシア】ジャカルタ―バンドン間180キ口、中国が受注見込み。
【英国】15年10月、習近平訪間中に覚書調印。
<今後の展望と課題>
対外経済戦略により、中国の対外投資・人民元の国際化が加速し、中国の世界投資・貿易のプレゼンスがさらに上昇。多極化しつつある世界政治経済構造の中で、中国の存在感は高まることになろう。
トランプ政権の「アメリカ第一主義」「貿易保護主義」下で、対米輸出の減少、対米投資の拡大が予想される。「一帯・一路」(海と陸のシルクロード)エリアで、石油など人民元決済を拡大し、脱米ドル依存の人民元経済圏の形成を目指す。
課題は対外進出の経験やノウハウが不足している点であり、国際社会との協調・理解が必要だ。自主ブランド技術力のさらなるアップが急務で、日米欧など先進国との連携を強化すべきだ。中国企業は石油開発でも対外進出しているが、経験不足で進出先での反発もある。日本など先進国からノウハウを謙虚に学ぶべきである。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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