<躍動!アジアの世紀(1)>低成長・欧米諸国の「内向き化」に、対抗できるか?=アジア蘇生、2050年には世界のGDPの過半占める!

八牧浩行    2017年1月1日(日) 12時10分

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アジアが世界の経済成長センターとして脚光を浴びている。躍動するアジア地域の現状と志向すべき道を探る。アジアは保護主義への防波堤としての役割を果たすことができるだろうか?写真は上海市。

アジアが世界の経済成長センターとして脚光を浴びている。躍動するアジア地域の現状と志向すべき道を探る。昨年は米大統領選でのトランプ氏の勝利、EU離脱など「自国至上主義」の風潮が欧米で巻き起こった年だった。アジアは保護主義への防波堤としての役割を果たすことができるだろうか?

アジア開発銀行(ADB)によると、アジアの開発途上国は全体として堅調な成長ペースを続け、GDP成長率は2016年、2017年ともに5.7%となる。中国経済はやや減速するものの6%台半ばを維持。自動車販売台数が2000万台と高水準を保つなど、サービスと消費が主導する経済に移行しつつある。都市化が進行する一方、宇宙や高速鉄道など競争力が強い分野も出現しつつあり、中高進国の構造になりつつある。

人口増加が著しいインドはモディ政権の経済重視志向もあって7%台の成長を堅持。インドネシア、パキスタン、バングディッシュ、フィリピン、ベトナム、ミャンマーなども5〜6%の成長が続く。

2008年に欧米を襲ったリーマンショック不況の際、欧米市場との経済取引に依存しているアジア開発途上国にも打撃となり、成長も急減するとの見方が有力だった。ところがアジア域内での取引が活発化したため杞憂に終わった。アジアの成長の要因は、インフラへの投資、教育や保健など人的資本への投資、マクロ経済の安定、開放的な貿易・投資体制、民間セクターの促進、政府のガバナンス(統治)、将来ビジョン・戦略、政治や治安の安定など。アフリカや中南米など他の開発途上地域に比べ、これらの長所が際立っている。 

アジアは19世紀の初めまで世界のGDPの半分以上を占めていた。その後欧米の台頭によって凋落したが、現在3割程度に回復した。ADBの委託研究「Asia2050」によると、「アジアの世紀」が実現した場合、2050年には52%に達する見通しだ。

かつてアジアではいち早く先進国の仲間入りをした経済大国・日本が先頭を切り、「雁行」のようにこれを追う諸国が扇形となって続いていた。

ところが国内総生産(GDP)で見る国力は、日本が兄貴分で中国や韓国を支援する時代は終わり、今や中国が日本の3倍近い大国に発展、韓国も日本を追い上げる構図となった。日中韓3カ国の力関係が変貌し、各国のナショナリズムが歴史認識や領土が絡む問題の解決を困難にしている。加えて、シンガポールをはじめ東南アジア諸国がめざましい成長を遂げ、地域の安定と発展に影響を及ぼしている。

大規模な地殻変動の根幹となるのは「経済」である。韓国の対中接近も最大の貿易相手国である中国についた方が得とのリアリズムが背景。米国だけでなくドイツ、フランス、英国、東南アジア諸国なども世界最大の消費大国・中国のパワーを無視できない。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)には新たにカナダなど多くの国々が加わり、100国以上となった。

特に中国、日本、韓国、台湾など東アジア地域は経済力が拡大し続け、巨大なアジア市場をリード、世界の主役になる時代が到来しつつある。 日中経済には(1)日本には技術開発力とブランド力がある、(2)中国は加工生産力と市場を有する―など民間企業を中心に相互補完関係がある。協力し合えば可能性が大きく広がる。

◆AIIB、「一帯一路」で主導狙う

ADBの中尾武彦総裁は「新興のAIIBと伝統のあるアジア開発銀行(ADB)は相互補完関係にあり、 アジアにおけるインフラ投資に貢献できる」と語る。ADBはアジア諸国と援助(ドナー)国に限定しているため加盟67カ国・地域にとどまっているが、AIIBは域外途上国にも広げ、100カ国以上に達した。カナダも昨年加盟し、主要7カ国(G7)では非加盟国は米だけとなった。トランプ次期大統領の側近の一人はAIIB加盟に興味を示しているという。ADBとAIIBは国際協調融資などで協力しており、パキスタン、バングラディッシュ向けで実績も上がっている。

海と陸のシルクロード「一帯一路」構想も始動。 具体的にタイ南部のクラ地峡での運河掘削計画が構想されている。実現すれば、日本を含め多くの国がマラッカ海峡を通る必要がなくなり、リスク軽減と航海日程短縮が可能となる。

「一帯一路」構想には、既に約60の対象国が加入。中国西部から中央アジアを経由して 欧州につながる「シルクロード経済ベルト」(一帯)と中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)の2ルートがある。一帯一路構想は世界経済の牽引車になると期待する声もある。日本の有力企業は「一帯一路」構想に公平性と透明性が保証されれば、積極的に参加すると指摘している。

欧米諸国は軒並み低成長にあえぎ、トランプ次期政権に象徴される「内向き化」志向を強めている。太平洋連携協定(TPP)はじめ自由貿易体制は大きく揺らいでいる。これに対抗できるかがアジア成長のカギとなる。(八牧浩行

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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