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<コラム>北朝鮮の戦勝記念館、案内してくれた女性兵士の言葉に私ははっとした

北岡 裕    2016年7月27日(水) 14時30分

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7月27日は北朝鮮では戦勝記念日。戦争とは朝鮮戦争を指し、休戦ではなく戦勝。つまり勝利したとしている。筆者撮影。

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7月27日は北朝鮮では戦勝記念日。戦争とは朝鮮戦争を指し、休戦ではなく戦勝。つまり勝利したとしている。戦勝記念館は2013年にリニューアルされており、私のプロフィール画像はここに飾られている銅像である。

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今春この記念館を2年ぶりに訪れた。1968年に拿捕されたプエプロ号を見学し、破壊された米軍のジープやヘリコプターを眺め、記念館に向かい歩く。北京とは段違いの透き通るような青い空。本来は休館日ということもあって、見学者は私たちだけで、案内する軍服姿の女性兵士の声が響く。楚々とした雰囲気の彼女は華奢で、髪にはウェーブがかかり化粧もしていた。広報官なのだろう。「もしかして10代?かわいい!」と聞いた同行者に「23歳です」とすました顔で、けれど年下に見られたことに少し不満げな表情を浮かべた。後日、あるSNSで彼女の写真を見つけた。撮影した外国人によると彼女はロシア語が堪能だという。

じっくり見るなら丸一日かかるという戦勝記念館で見た展示はごく一部。しかし必ず見るのが、大田戦闘の大ジオラマ。北朝鮮の誇る芸術集団、万寿台創作社の作品だ。ジオラマが動き出すと彼女が説明を始め、案内員が日本語に訳す。この大田戦闘では米軍のディーン少将が捕虜になっている。「この戦闘で米軍のディーン“ノム”が捕虜になりました」。彼女はすぱっと言い切った。はっとして思わず彼女の顔を見た。“ノム”とは朝鮮語で野郎、奴という意味。若い女性が口にすることばではない。しかし彼女は以降何度か、「米軍野郎」「ディーンの野郎」と躊躇なく口にしたのだった。

記念館を出て門で待つ車に向かい歩く。春の陽気はさらに強く、カササギの鳴く声を聞いた気もした。戦勝を祝う建物とのどかな陽気。錆びたジープと青い空。楚々とした雰囲気の彼女が口にした「米軍野郎」ということば。全てが奇妙でアンバランスで、地軸がずれるような錯覚を感じた。

記念写真を撮り、別れ際に彼女にプレゼントを渡した。ビニール袋いっぱいにつまったお菓子とリップクリーム、タバコ。その大きさに彼女は「どうしよう」と囁くように呟いた。車が記念館を離れる。見送る彼女の持つ大きなビニール袋はどう見てもアンバランスで、戦勝記念館には似つかわしくない笑いがふつふつと沸くのを、私は抑えることが出来なかったのだった。

■筆者プロフィール:北岡裕

76年生まれ。東京在住。主な著作に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」(角川書店・共著)。一般財団法人霞山会HPと広報誌「Think Asia」、週刊誌週刊金曜日、SPA!などにコラムを多数執筆。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」でコラム「Strangers in Pyongyang」を連載。異例の日本人の連載は在日朝鮮人社会でも笑いと話題を呼ぶ。一般社団法人「内外情勢調査会」での講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。過去5回の訪朝経験と北朝鮮音楽への関心を軸に、現地の人との会話や笑えるエピソードを中心に今までとは違う北朝鮮像を伝えることに日々奮闘している。執筆と講演の依頼、お待ちしています!

■筆者プロフィール:北岡 裕

1976年生まれ、現在東京在住。韓国留学後、2004、10、13、15、16年と訪朝。一般財団法人霞山会HPと広報誌「Think Asia」、週刊誌週刊金曜日、SPA!などにコラムを多数執筆。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」でコラム「Strangers in Pyongyang」を連載。異例の日本人の連載は在日朝鮮人社会でも笑いと話題を呼ぶ。一般社団法人「内外情勢調査会」での講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。過去5回の訪朝経験と北朝鮮音楽への関心を軸に、現地の人との会話や笑えるエピソードを中心に今までとは違う北朝鮮像を伝えることに日々奮闘している。著書に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」(角川書店・共著)。

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