八牧浩行 2016年6月2日(木) 11時53分
拡大
2日の東京市場で日経平均株価が急続落。前日比387円安の1万6568円で午前の取引を終えた。約280円下げた前日と合わせ2日間の下落幅は700円近くに膨らんだ。消費増税延期の発表で「材料出尽くし感」が広まったことや円相場の急騰が嫌気された。写真は東証。
(1 / 2 枚)
2016年6月2日、東京株式市場で日経平均株価が急続落。前日比387円安の1万6568円で午前の取引を終えた。約280円下げた前日と合わせ2日間の下落幅は700円近くに膨らんだ。消費増税延期の発表に伴い「材料出尽くし感」が広まったことや円相場の109円台への急騰が嫌気された。英国のEU離脱の懸念や石油輸出国機構(OPEC)総会で原油増産の凍結合意への不透明感もくすぶっている。採算悪化が懸念される輸出関連株を中心にほぼ全面安の展開。
【その他の写真】
6月1日、安倍晋三首相は、17年4月に予定していた消費税の10%への引き上げを19年10月まで2年半延期する方針を正式に表明した。7月の参院選の勝利に向け、円安・株高の流れに戻したいところだが、マーケットでは消費税増税先送りは既に織り込み済み。先進国で最悪レベルの日本の債務残高を軽減するための財政健全化目標の達成が、消費増税延期により不可能になるため市場の信認を失う恐れも出ている。海外の格付け会社も日本の国債格付けを引き下げに動く恐れもあり、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の行き詰まりが改めて露呈した格好だ。
安倍首相は「世界経済は大きなリスクに直面している。新興国経済が減速し、日本の内需に力強さが見られない」ことを、消費増税再延期の理由に挙げた。先のG7伊勢志摩サミットで首相がこの点を指摘したところ、多くの首脳がこの現状認識に賛同しなかった。海外では米国が利上げ時期を模索しているほか、原油価格は底入れ基調が鮮明。最大の懸念材料だった中国の経済状況や原油価格の下落も底入れしつつあり、08年のリーマンショック時に混乱した欧米の金融システムも安定している。このところ政府日銀は景気の現状について「緩やかに回復基調にある」と繰り返しており、首相発言の違和感は否めない。
米格付け会社のムーディーズは今年3月に「再増税延期による財政への不安は大きいものになる」と厳しいコメントを示し、国債格下げの可能性を示唆した。現在、日本国債格付けは「Aプラス」もしくは「A」である。消費税増税先送りになった場合、日本の財政規律が不透明で不確実なままでは、最悪の場合、2段階格下げされ「Aマイナス」となる可能性がある。その場合、日本の民間企業の発行する債券格付けの上限が「Aマイナス」となり、銀行や企業はCP(コマーシャルペーパー)や短期資金の調達が困難になる恐れもある。
アベノミクスでは、デフレ脱却に向けた大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間需要を喚起する成長戦略の「3本の矢」で経済の好循環の実現を目指した。アベノミクスが志向した「富める者が富めば貧困層にも恩恵が及ぶ」という「トリクルダウン」は起きなかった。非正規や中小企業の労働者の賃金が思うように上がらず、貧富の格差は広がるばかり。しかし、実質GDP(国内総生産)は、14年度0.9%減、15年度0.8%増と政府目標の実質2%成長に達していない。米国が2%台、欧州各国でも1%台の成長を確保している。
経済協力開発機構(OECD)が1日発表した経済見通しによると、日本の2016年の実質成長率は0.7%増と、前回の昨年11月の見通しから0.3ポイント引き下げた。17年の成長率見通しは0.4%増と、同0.1ポイントの下方修正。世界経済全体の16年の見通しが3.0%増、17年は3.3%増と堅調だけに日本の低迷ぶりが際立つ。
アベノミクスの一枚看板である「円安株高」の流れも逆流。経済学者や国民の間から「アベノミクスは失敗」との指摘が高まっている。政府は財政規律を保ちながらどのようにこれ以上の財政出動を可能にするのか。一歩踏み誤れば、民間企業の世界との競争力にマイナスの影響を与える恐れもある。
約1050兆円というGDPの2倍以上の累積債務残高は、潜在成長率のアップや徹底した歳出削減、増税で解消するのが真っ当な方策だが、このままでは2020年度に政策経費を税収などでどれだけ賄えるかを示すプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化する財政健全化目標の実現も困難になる。内閣府の試算によると、国・地方を合わせた20年度の基礎的財政収支は、高成長が続く「経済再生ケース」でも6.5兆円の赤字。試算は17年4月の消費税再増税が前提で、税率2%分で消費税収が5兆〜6兆円程度増えると見込まれていた。再増税先送りにより財政はさらに悪化してしまう。
増税は国民に嫌われるため、為政者は先送りしたがる。今回の安倍首相の決定も同様だが、次世代にツケを残しかねない。大戦後の日本や西独など、超インフレによって国の巨額債務を帳消しにした例は多い。政府日銀には、景気回復と財政規律の二兎を追うぎりぎりの綱渡り的な政策が求められる。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
この記事のコメントを見る
八牧浩行
2016/5/29
2016/5/27
Record China
2016/5/3
2016/5/2
2016/3/31
ピックアップ
we`re
RecordChina
お問い合わせ
Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら
業務提携
Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら
この記事のコメントを見る