中国は「超大国」と「第三世界のリーダー」の二兎を追う矛盾に直面=AIIBは解決への巧妙な手段となる―小倉和夫元駐韓・駐仏大使

八牧浩行    2015年11月14日(土) 10時12分

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駐ベトナム、駐韓、駐仏大使などを歴任した小倉和夫氏が講演。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)について、「経済大国として資金を出す一方で、既存の国際秩序の変更を迫るという、2つの矛盾したものを解決する巧妙な手段となり得る」との見解を示した。

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2015年11月12日、駐ベトナム、駐韓、駐仏大使などを歴任した小倉和夫・日本財団パラリンピックサポートセンター理事長が日本記者クラブで講演した。中国は、超大国として国際秩序を守らなければならない立場と、第三世界のリーダーとして国際秩序に挑戦し変革していく立場を堅持している、と指摘。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)について、「経済大国として資金を出す一方で、既存の国際秩序の変更を迫るという、2つの矛盾したものを解決する巧妙な手段となる」との見解を示した。発言要旨は次の通り。

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私は(大使として)ベトナムに赴任した時に、ベトナム人から「日本は原爆を2発落とされただけで何故降伏したのか」と言われショックを受けた。それだけベトナムは抗仏戦争、抗米戦争に粘り強く戦い抜いた。ベトナム戦争はそれほど厳しい戦いだった。米国は枯葉剤を使用するなど、人道に反する罪悪の限りをつくすひどいことをしたが、今米国に対し公に悪く言うベトナム人は非常に少ない。米国と和解したと言える。

ベトナム戦争は、米国と南北が分かれた形での戦争だった。米国は南ベトナムと一緒になって北ベトナムと戦った。ベトナムにとって最大の課題は南北の統一であり、和解せずに米国を憎み続ければ、国家統一ができなくなるという事情があった。

ドイツでも戦時中、ナチスと反ナチスと2つの勢力が争った。フランスもドイツに占領され親ナチスのヴィシー政権とこれに抵抗する勢力(レジスタンス派)との間で国内が割れていた。英国でもナチスに同情した人たちがいた。戦争はヨーロッパ全体の問題だった。このため欧州では全体の問題として和解ができた。

◆「村山談話」は日本国民にも謝罪

EU(欧州連合)統合を果たした欧州諸国と違って、日本が東アジアとの間で和解が進まない原因は、日本人自身が日本国内で分かれて争ったという経験を持たなかったからではないか。最大のポイントは、日本人で戦争の実態を理解している人が少なく、日本人自身の間で和解できていないということだ。東京裁判や戦後の国際情勢なども背景となっている。日本人は、第2次世界大戦で多くが犠牲になり、「被害者」との認識を持っている。「村山談話」はよく読むと、戦争で侵略した中国、韓国などだけでなく日本国民に対しても謝罪している。日本人の間でこのことを理解している人は少ない。

世界で中国が台頭、世界第2の経済大国であり国連安保理の常任理事国でもある。一方で第三世界・開発途上国の一員としての立場を主張し、第三世界のリーダーとしての地位を捨てていない。中国は、既存の国際体制に不満を抱いている。大国として国際秩序を守るという立場と、国際秩序に挑戦し変革していく立場をどう調整していくのか。

その点、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)構想を、巧妙な形で打ち出してきた。経済大国として資金を出す一方で、第三世界のリーダーとして、既存の国際秩序の変更を迫るという、2つの矛盾したものを解決する手段が内包されている。

◆難題の対中韓外交

これに対し日本は、どう対応するのか。開発途上国であり第三世界のリーダーと認めるのか、大国としての責任を果たせと言うのか。難しい所だが、10年後20年後を見据えて、中国が民主的で豊かな国になるよう日本として対応していくことが、常識的には適当だと思う。

ただ問題になるのは韓国である。民主的で豊かな国になれば日韓摩擦がなくなり、良好な日韓関係になるだろうと韓国を支援してきたが、日韓関係の現状は厳しい。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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