<書評>中国は日本の「昭和30年代」と「平成40年代」が混在=知られざる庶民の世界―中島恵著『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』

八牧浩行    2015年5月24日(日) 14時33分

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本書のタイトルを見て、最近はやりの「日本礼賛本」か?と思ったが、読み進むにつれて、そのような浅薄で一方的な本でないことが分かってきた。実に多くの中国人、それも市井の普通の人にインタビューし、知られざる中国人の真の姿を浮き彫りにしている。

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今、日本では近隣諸国を口汚く罵る「嫌中」「嫌韓」本あるいは「ヘイト本」と呼ばれるジャンルの本が溢れている。このような異常な本が受け入れられる日本は世界で稀有の存在だが、その延長線上にある、「スゴイ日本」「日本は世界最高」といった日本礼賛本・礼賛番組ブームも健全とは言えない。長期不況が続き、実際の庶民生活は一向に豊かにならない。中国に経済力でも追い抜かれ、世界政治における存在感も低下する一方。深層心理的に「自信喪失」の裏返しと分析する識者も多い。

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最初、本書のタイトルを見て、この種の礼賛本か?と思ったが、読み進むにつれて、そのような一方的な本でないことが分かってきた。実に多くの中国人、それも市井の普通の人にインタビューし、知られざる中国人の真の姿を浮き彫りにしている。

著者は本書でこう語る。「中国で日本人の感覚のまま生活しようとすると、疲れ切ってしまい『これだから、もう中国は…』と怒り心頭に発してしまう数々の現実に直面する。しかし中国には日本の昭和30年代と平成40年が一緒になったような社会システムや制度が存在する、と思えば腹も立たない」。中国で、留学や就職の豊富な経験を持つ著者ならではの思いであろう。考察や分析は鋭いが、眼差し(まなざし)は温かい。

たとえば「戸籍」。日本人であれば、あまりを意識しないが、中国では子どもの教育などと直結するため「深刻かつ切実な問題」という。中国庶民からの聴き取りをベースにしているため、中国の「オタク文化」や「育児事情」などに関する記述も具体的で新鮮。中国庶民の日本への“思い入れ”も伝わってくる。

経済成長を遂げてきた中国に対し著者は「日本は『量』ではかなわなくても経済の『質』という点では圧倒的な優位に立っているし、今後も立ち続け中国人のお手本となっていくだろう」と予測。「身の丈に合った、名実ともに『小さな国』に落ち着いていく」との中国人研究者の言葉を紹介している。

著者は「中国人は縁を非常に大切にするが、縁とは国境を超え、人種を超えてつながっていくものだと思う。広い地球の中では、日本人も中国人も、関係ない」と記しているが、この点も共感できる。

本の全体タイトルや各章ごとの見出しは読者受けを狙ったのだろうが、工夫の余地がある。特に第5章「すきやばし次郎は心の師匠」という見出しは、この有名すし店で、中国人であることを理由に?ベテラン評論家が予約を拒否された“事件”が発生、物議をかもしただけに、違和感が残った。(評・八牧浩行

<なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?「日本大好き」の秘密を解く>

(中公新書ラクレ、800円税別)

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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