<追求!膨張中国(6)>中国国防予算、早晩米国を逆転か―人民解放軍の驚きの実態を暴く―「切り札兵器」は何か?

八牧浩行    2015年1月5日(月) 6時3分

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経済や対外戦略と並ぶ「膨張中国」の象徴は軍事力。人民解放軍は着々と戦力を拡充している。南シナ海や東シナ海などの紛争をにらみ、増額分の多くが海空両軍などの最新鋭装備に充てられている。写真は人民解放軍。

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経済や対外戦略と並ぶ「膨張中国」の象徴は軍事力。人民解放軍は着々と戦力を拡充している。 中国の国防費は1989年から過去25年間で、リーマンショック後の2010年以外は常に2ケタ増のすさまじい増強ぶり。14年の国防予算は前年実績比12.2%増の8082億元(約約16兆円)と初めて8千億元の大台に乗った。03年の1907億元から11年で4倍以上に膨らんだことになる。国防費の公表額は引き続き米国に次ぐ世界2位。日本の防衛関係費は、14年度予算案で総額4兆8848億円と13年度予算と比べ2.8%、1310億円増えたが、中国は日本の3倍以上に達する。南シナ海や東シナ海などの紛争をにらみ、増額分の多くが海空両軍などの最新鋭装備に充てられている。

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中国の国防費には兵器の開発費用や他国からの兵器調達費用などは含まれていないため、実際の軍事費関連費は公表額の2〜3倍というのが通説だ。米国の2014会計年度(13年10月〜14年9月)の国防予算(戦費は除く)は前年を下回る約5266億ドル(約60兆円)。深刻な財政難を背景に毎年圧縮されている。今後も国防予算の縮減を余儀なくされる見通しで、米中両国の国防予算が数年後には逆転する可能性さえ否定できない。

 

◆マッハ5以上の極超音速滑空ミサイル

現在の米中の軍事力比較では、圧倒的に米軍が優位にあるが、技術的な優位は低下傾向にある。 中国はマッハ5以上で飛行する極超音速滑空ミサイルを開発、劣勢な核兵力を補う切り札になると位置付けている。中国はこのミサイルを搭載できる原子力潜水艦を開発し就航している。東シナ海は浅いので探知されやすく潜水艦の活動には向かないが、南シナ海は深いので、港からすぐに深海に潜ることができ、十分活用が可能だ。

中国人民解放軍では従来陸海軍が重視されてきたが、中国指導部が空軍を予算面で重視する姿勢を示し、空軍は勢いづいている。ソマリア沖での海賊対処やリムパック(環太平洋共同軍事演習)などにより他国軍との交流を通じて習熟度が高い海軍と違って、空軍パイロットの操縦技量は低く、国際的に交流の機会が少ないので常識を知らず、操縦士養成訓練も戦闘機の増加に伴っていない。海上自衛隊艦船へのレーダー照射(13年2月)や自衛隊機への異常接近(14年5月)などはパイロットが独断でやったと思われる。空軍重視の姿勢を示したのも、空軍を不満の状態に置くのは危険との認識があったためとみられている。

◆習主席、人民解放軍を掌握

習近平国家主席は人民解放軍の制服組トップだった徐才厚(江沢民派)を「反腐敗」の象徴として党籍はく奪処分にした一方、江沢民元国家主席の影響を受けた者すべての粛清は不問に付した。象徴的な人物を叩くことによって他の者に忠誠を誓わせ、習主席は人民解放軍を掌握したのである。

日本と中国の戦力は単純には比較できないが、数字だけでみると歴然。自衛隊員の約23万人に対し、人民解放軍は10倍の約230万人。戦闘機は日本の約260機に対し中国は565機と2倍超。艦艇も日本の140隻の8倍もの1090隻を保有。潜水艦は日本の16隻に対し中国63隻。陸上でも、戦車は日本の640両に対し中国は8200両。質はともかく数の上では勝負にならない。

増強された中国軍事費の大半は海軍に充てられている。質量ともに年々拡充され艦艇1090隻のうち、最も戦略性の高い駆逐艦・フリゲートが約80隻に上る。海軍兵員は約25万5000人で、海兵隊も約1万人に達する。

欧米・日本の先進国が財政難に陥る中で、中国の軍事力増強は際立っている。清朝初期までの「栄光」と、アヘン戦争以来百数年余りの列強に蹂躙された「屈辱」の歴史がトラウマとなっている。「弱い者は痛い目に遭う」「だから経済力に見合う強い国防力を保持しなければならない」という理屈で軍事力増強にまい進しているのだ。軍事力増大批判には対し、中国政府幹部は「自国防衛のための軍事力であり、かつての欧米諸国や日本のような対外侵略には使わない」と抗弁している。

◆中国、南シナ海の実効支配を着々強化

近年の中国の戦略的海洋進出は実に不気味だ。中国は尖閣諸島のある東シナ海だけでなく、南シナ海でも領海、排他的経済水域(EEZ)をめぐり、フィリピン、ベトナムなどと係争中だ。中国はまず漁船を出漁させ、これを保護する名目などで漁業監視船や巡視船、軍艦を投入し、実効支配を広げてきた。中国は20年までに巡視船を5百隻以上へ倍増、一部を東シナ海に回す方針。さらに南沙(英語名スプラトリー)諸島に、戦略拠点として戦略的自治体「三沙市」を設立、市長を選出して実効支配強化に乗り出した。

こうした中、中国が西沙諸島で最大の永興島の周辺を埋め立て、1年4カ月あまりで同島の面積を4割も広げたことが最近判明した。永興島は中国の海南島沖約350キロメートル、ベトナム沖約400キロメートルにある南シナ海で最大級の島で、中国が1970年代から実効支配を続けている。中国は永興島を「南シナ海における軍事、海洋政策の中心」と位置づけ、既に中国軍兵士や漁民など千人あまりが居住しているとみられる。

 中国は現在、フィリピンなども領有権を主張する南シナ海の南沙諸島の永暑礁でも開発を推進。埋め立てて滑走路向けの用地を造成しており、フィリピンが反発している。中国の習近平国家主席は「領有権を巡る周辺国との摩擦は話し合いで解決する」と再三強調しているが、実際には「核心的利益」とする南シナ海海域での実効支配を強化している。

中国の海洋進出は、この地域で船舶の航行はもちろん領土や資源の帰属を含む地域秩序をめぐる論議で主導権を握ることを目的にしている。中国はその手段として水上艦艇、潜水艦、戦闘機、爆撃機、巡航ミサイル、弾道ミサイル、対艦弾道ミサイル(ASBM)などを増強あるいは開発。自国の周辺に「第一列島線」と「第二列島線」という二つの防衛ラインを設けて、南シナ海、東シナ海、黄海を聖域化しようとしているのだ。

◆軍事よりも環境・福祉対策に注力を

中国では環境・福祉問題をはじめとする課題が山積しており、巨額資金を軍事費に充てるより、その解決策に回す方が得策だろう。習主席も言明しているように、領土問題は関係国との話し合いで解決し、共同開発などを推進するべきだ。中国の平和的な台頭が望まれる。(八牧浩行

 

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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