インドとパキスタン、停戦合意成立もなお軍事的緊張続く=衝突激化すれば核戦争リスクも

山崎真二    2025年5月20日(火) 6時30分

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インドとパキスタンの間で起きた軍事衝突は双方の停戦合意でひとまず一段落した格好だが、これで両国間の軍事的緊張が解消されるわけではない。資料写真。

先ごろ、インドとパキスタンの間で起きた軍事衝突は双方の停戦合意でひとまず一段落した格好だが、これで両国間の軍事的緊張が解消されるわけではない。これまでの経緯や根本的要因、今後の見通しを探ってみた。

発端はイスラム過激派のテロ

周知の通り、今回の印パの軍事衝突は4月下旬、両国間の係争地カシミール地方で発生したテロ事件がきっかけだ。同地方のうち、インドが実効支配する地域にある観光地パハルガムで武装集団が観光客を銃撃し多数の死傷者が出た。死傷者の多くがインド人だった。インド政府はテロの背後にパキスタンがいると非難、パキスタン政府はテロへの関与を否定。双方が国境閉鎖や貿易停止などで互いに対抗措置を打ち出し、2週間緊張が続いた後、5月初めインド軍はテロへの報復としてパキスタンの「テロリスト施設」を攻撃。これを皮切りに4日間にわたり両国間でミサイルや無人機を使った戦闘が繰り返された。双方とも相手の軍の基地や軍事施設を攻撃目標にし、過去数十年来で最悪の軍事衝突とも伝えられた。その後、米国などの仲介で停戦合意が成立したというのがこれまでの主な経緯である。

インド、「ヒンドゥー教至上主義」で強硬姿勢

軍事衝突が拡大する中、両国が一歩も譲らない強硬姿勢を示した背景にはそれぞれが抱える‟お家の事情”がある。インドのモディ政権の与党インド人民党(BJP)は「ヒンドゥー至上主義」政党。「インドは国民の8割を占めるヒンドゥー教徒の国であり、少数派のイスラム教徒はそれを認めるべきだ」という思想を持つ。モディ首相は2014年の総選挙で政権を担当して以来、ヒンドゥー至上主義寄りの政策を実施してきた。その象徴とも言えるのが、2019年の北部カシミール地方の自治権撤廃だ。この地域にはイスラム教徒が多く住んでいるが、彼らの自治権をはく奪した上、インド政府の直轄地として統治を強化した。4月のイスラム組織によるとされるテロがまさにここで発生した以上、モディ首相としてはイスラム教徒の国のパキスタンに報復せざるを得なかったと言えよう。また、同首相が強硬手段を取らなかったら支持基盤の中核であるBJPから反発を招いたことも想像に難くない。

パキスタンの国内事情も絡む

一方、パキスタンにもインドに対し安易な妥協姿勢は見せられなかった事情がある。パキスタンでは昨年2月に下院総選挙が行われたが、過半数を制する政党がなく、シャリフ前首相の与党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)はライバル政党などとの連立を余儀なくされた。この選挙では最大野党のパキスタン正義運動(PTI)が手続き上の問題から公認候補擁立を認められず、選挙運動から締め出されたものの、無所属で出馬したPTI系候補が善戦し、PTI系が事実上、最大の勢力となった。シャリフ連立政権は発足の経緯からして決して安泰とは言えない上、PTI系勢力の伸長によって不安定な立場に立たされている。さらに重要な点は、PTIが民族主義的性格が強く、カシミール問題での一切の妥協を拒否していること。パキスタン政治の専門家によれば、シャリフ首相が弱腰の対応を取れば政治に大きな影響力を持ち、インドへの対抗意識の強いパキスタン軍部からの猛反発も受けた可能性があるという。そうなれば、シャリフ政権は存立すら危うくなるような苦境を迎えていたかもしれない。

カシミール問題解決せねば再び軍事衝突?

印パ双方の停戦合意によって当面、大規模な紛争は回避される見通しだが、両国間の軍事的緊張は続くとの見方が有力だ。停戦合意が首尾よく履行されるか疑問視する見方もある。印パ対立の根本的原因はカシミールの帰属問題だ。周知の通り、1947年に英国からインドとパキスタンが分離・独立した際、カシミールは住民の多数がイスラム教徒である一方、藩王はヒンドゥー教徒でインドへの帰属を表明したことなどから第1次印パ戦争が起きた。国連の仲裁で停戦したものの和平に至らず、1965年に第2次印パ戦争が勃発。1971年の第3次印パ戦争でもカシミールは戦場となった。

3回の戦争を経て同地方は事実上分割されているのが現状。インドは「カシミールの帰属問題はすでに解決済み」で2国間の問題と主張するのに対し、パキスタンは「カシミールの帰属確認のための住民投票が実施されておらず、カシミール問題は未解決」と反論、国際社会の支持を得ようとして真っ向から対立する。3度の戦争後もカシミールではパキスタンへの帰属などを求めるイスラム教過激派のテロがたびたび起き、両軍の衝突が繰り返されてきた。印パともに核保有国であり、軍事対立がエスカレートすれば核戦争に発展する危険性は否定できない。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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