<日本人の忘れられない中国>「これで不老不死になれたね」と笑った先生、おやつに出された孫悟空の桃

日本僑報社    2025年4月27日(日) 13時30分

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きょとんとしている私に母の仕事仲間の先生は、「どう、美味しい? これで不老不死になれたね」とにっこり笑って話しかけてくれた。資料写真。

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孫悟空の桃を食べて待っていて」と、私が言われたのは中国の杭州・浙江省の大学研究施設であった。母の仕事に同行していた小学生の私を中国の先生方はあたたかく迎え入れてくれ、おやつに桃を出してくれた。

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岡山で生まれ育った私は、小さい頃から夏にはよく岡山特産の桃を食べていたのだが「孫悟空の桃」にとても驚いた。赤くて少し平べったい中華料理の桃饅頭に似た形で、かじると食感もしっかりあってじわっと甘味が広がってくる、岡山の円形の白桃とはまるで違う果物のように感じた。

きょとんとしている私に母の仕事仲間の先生は、「どう、美味しい? これで不老不死になれたね」とにっこり笑って話しかけてくれた。なぜ桃が孫悟空なのか、自分の言葉で聞きたくなって勇気をふりしぼり「什么意思(シェンマイースー)(どういう意味ですか)?」と習いたての中国語で聞いてみた。

年に一度は母の中国での仕事に同行していた当時の私は、自分の言葉で話したくて中国語を習いはじめたばかりだった。母の仕事先の先生は「孫悟空の桃」を食べてきょとんとした私よりももっと驚いた顔で、「中国語を話せるの?」と優しく笑ってくれた。

そして、西遊記に出てくる「孫悟空の桃」のお話を教えてくれた。天界に住んでいた孫悟空は、西王母に桃園で蟠桃(ばんとう)の管理を任せられていたにも関わらず、蟠桃会に招かれなかったことに怒って9000年に一度しか実をつけない蟠桃を食べてしまったそうだ。貴重な桃の効果で不老不死になったが、孫悟空は天界から追放されたという逸話があるとの話だった。少しだけ話せた中国語が通じたことと「孫悟空の桃」の謎が解けて、すごくほっとして桃があまく感じたことをよく覚えている。

桃は私の育った岡山の特産物としてもとても有名で、とろっとした食感と糖度が高くて色が白いのが特徴である。昔話の桃太郎も桃から生まれて鬼退治をした岡山出身の有名人とされていて、神社などでも祀られている。岡山は、空港名も「岡山桃太郎空港」というほど桃とゆかりが深い。白桃・清水白桃・黄金桃など初夏から秋までたくさんの品種を食べられることもあって、桃は岡山が発祥の地だと私は思い込んでいた。中国から帰国した後も「孫悟空の桃」のことが頭から離れなかった私は、桃について調べることにした。すると、桃は中国が原産で岡山では明治の初めに品種改良して誕生したのが白桃であることを知った。日本の桃の品種の大半は岡山県がルーツだそうだが、その前のルーツは中国だったことをはじめて知ったのだ。

「孫悟空の桃」の話をもっと知りたくて、西遊記が原語で読めるようにと私は中国語の勉強を前よりも熱心にした。それと同時に、「孫悟空の桃」と「岡山の桃」は同じ桃でも違う果物に感じるほど桃には品種がたくさんあることにもとても興味を持つようになった。調べていく中で、桃の品種改良はとても進んでいて冬に食べられる品種もすでにあることやそれぞれの産地において好まれる色や食感や糖度は地域に根ざしていることなど、桃について多くのことを知ることができ、農業にも興味を持つようになった。

その後、中学・高校と中国語や化学の勉強も続けた私は、この春から農学を専攻する大学生になった。桃はバラ科サクラ属の植物で、果実だけではなく葉や種にも健康成分が豊富に含まれている。果実には食物繊維やカリウムが含まれているので、腸内環境や疲労回復に効果的でコレステロール値を下げることも近年の研究で明らかになったらしい。まさに不老不死と呼ばれるにふさわしい果物だ。おいしくて身体にいい桃を中国と日本の共同研究で世界に届けることができればどんなに素敵だろう、これが私の現在の夢だ。

きっと世界で好まれる色や食感や糖度は土地によって異なるだろうし、土壌も異なるので湿度や硬度の異なる環境や病気にも強い品種が必要かもしれない。しかし、世界に中国と岡山がルーツの桃を創って是非届けたい。そして、はじめて「孫悟空の桃」を食べたあの日の私のようにルーツに関する勉強をはじめるきっかけを、まだ会ったこともない同じ世界の誰かとも共有したいと強く願っている。

世界的なコロナ禍で中国に出張できなくなった母は、オンラインで中国の先生達と変わらずコミュニケーションをとっている。落ち着いて対面で会える日が待ち遠しいそうだ。次回は私も同行させてもらい、今度は自分の言葉で「孫悟空の桃」をきっかけに農学に興味を持ったことをあの時の先生に是非お話ししたいと思っている。もう少し勉強を重ねながら、その日が近い将来になるように今は待ちたいと思う。

「孫悟空の桃」と「岡山の桃」、同じ桃でも少し違うけれど不老不死や鬼退治など人を幸せにしたいと思う気持ちは共通なのではないかと私は思う。忘れられないあの中国滞在の日の桃からはじまる未来を、これからつくっていきたい。

■原題:孫悟空の桃と岡山の桃

■執筆者プロフィール:谷 拓篤(たに ひろあつ)大学生

岡山県で生まれ育った岡山大学農学部1年生の19歳(書籍出版時)。幼少の頃から母の海外出張に同行し、東アジアを中心に7カ国に滞在経験がある。特に中国への渡航は、浙江省を中心にこれまでに12回。孔子学院で中国語も学び、中国語の朗読やスピーチコンテスト等での受賞経験もある。これまでに中国語と英語の資格も取得しており、将来は東アジアの農業研究所で働くことを夢みている。

※本文は、第6回忘れられない中国滞在エピソード「『香香(シャンシャン)』と中国と私」(段躍中編、日本僑報社、2023年)より転載したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。


※本記事はニュース提供社の記事であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。すべてのコンテンツの著作権は、ニュース提供社に帰属します。

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