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トランプ米大統領の「北朝鮮は核保有国」という発言が波紋を広げている。写真は平壌。
トランプ米大統領の「北朝鮮は核保有国」という発言が波紋を広げている。北朝鮮の「非核化」を求める従来の米国の方針から転換するのではないかとの懸念の声も聞かれる。
トランプ大統領は2期目の就任式当日の1月20日、ホワイトハウス執務室で記者団に対し北朝鮮の金正恩総書記について「彼とはとても関係がよかった。核保有国だがうまくやれた」と述べた。続いて3月上旬、ホワイトハウスで行われた北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長との会談の際、金正恩総書記とは「非常に良い関係にある」とした上で、北朝鮮は「明らかに核保有国だ」と指摘。さらに3月末、ホワイトハウスでの記者会見で「金正恩氏は巨大な核保有国の指導者だ」との考えを示した。一部米ネットメディアによると、4月に入ってからも、トランプ大統領は側近らとの私的会合の席で「北朝鮮はインドやパキスタンと同様、核兵器の保有国だ」などと口にしているという。
トランプ大統領はしばしば、不正確な表現や言葉遣いをすることがあり、今回も本当に「核保有国」が何を意味するのか正確に理解せずに使用したのかもしれないとして重大視すべきでないとの意見もある。その一方、「北朝鮮は核保有国」発言は、従来の米政府の方針を転換したいというトランプ大統領の本音の表れではないかとの憶測も流れる。
トランプ氏発言の真意がどうであれ、客観的にみると、北朝鮮の核開発をやめさせるのが困難な状況にあるのは確かだろう。北朝鮮が2021年の朝鮮労働党第8回党大会で決定された「国防5カ年計画」の下で核・ミサイル能力をはじめとする軍事開発を着々と進めているのは周知の通り。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の24年の資料によれば、北朝鮮は既に50発の核弾頭を保有。核弾頭を運搬する手段である射程1万5000キロ以上で全米に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射にも次々に成功したと伝えられる。北朝鮮の憲法には「核保有国」と明記されており、22年には最高人民会議(国会に相当)で核兵器の具体的使用条件などを定めた「核武力法令」が採択された。
「核は絶対放棄しない」と公言する金正恩総書記は今年に入り、核増産方針を示したほか、核抑止力の強化を目指す「新たな計画」にも触れ、海軍の核武装化にも力を入れる考えを明らかにしている。韓国メディアによれば、北朝鮮は7回目となる核実験をいつでも行える状態にあるという。国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長も北朝鮮を核保有国として認めざるを得ないとの見解を示している。北朝鮮の「非核化」は現実には極めて難しいと言わざるを得ない。
こうした中、米政府高官は北朝鮮の「非核化」を求める立場に変更はないと強調し、トランプ氏の発言は非公式なものと印象づけようとしているようだ。例えば、国家安全保障会議(NSC)報道官は先ごろ、北朝鮮の核開発に関し「1期目で行ったように、トランプ政権は北朝鮮の完全な非核化を追求する」と表明した。ルビオ国務長官も2月半ば、ドイツ・ミュンヘンで行った韓国の趙兌烈外相との会談で米韓両国が「北朝鮮の完全な非核化」という目標を堅持することを確認している。米高官も先のトランプ大統領と石破首相との日米首脳会談で北朝鮮の完全な非核化に向けたコミットメントを確認したことをことあるごとに指摘する。
だが、トランプ大統領が金総書記とのトップ会談に意欲を示しているのは間違いなく、再び米朝首脳会談が行われた場合、トランプ大統領が金総書記に対し核保有を認めるのではないかという疑念はぬぐい切れない。その場合には北朝鮮に「非核化」を求めるのではなく、核兵器の管理・削減などを議題とする軍備管理交渉になるとの見方が米軍事専門家の間で取りざたされている。
「『米国ファースト』のトランプ大統領が米国に届くICBMの放棄や削減と引き替えに、北朝鮮の核保有を容認するディール(取引)を行い、日本や韓国が射程に収まる核ミサイルの放棄などは求めない可能性は否定できない」(北朝鮮問題専門家)と予測する向きもある。そのような事態は日本にとって悪夢のシナリオだろう。米朝首脳会談がいつ、また行われるのか、そして北朝鮮の核問題がどう扱われるのか、大いに気になるところだ。
■筆者プロフィール:山崎真二
山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。
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